●アンドリュー・ラヴ(メンフィス・ホーンズ)、70歳で死去~裏方の匠 | 吉岡正晴のソウル・サーチン

吉岡正晴のソウル・サーチン

ソウルを日々サーチンしている人のために~Daily since 2002

●アンドリュー・ラヴ(メンフィス・ホーンズ)、70歳で死去~裏方の匠

【Andrew Love (Memphis Horns) Dies At 70】

訃報。

メンフィス・サウンドの要でもある「メンフィス・ホーンズ」のメンバーでサックス奏者のアンドリュー・ラヴが、2012年4月12日、メンフィスの自宅で死去した。70歳だった。2002年頃からアルツハイマー病を患っており、合併症での死去。アンドリューらは、オーティス・レディングのヒットの数々、エディー・フロイドの「ノック・オン・ウッド」、サム&デイヴの「ホールド・オン・アイム・カミング」など一連のヒットなどで印象的なホーン・セクションを聴かせている。

評伝。

アンドリュー・ラヴは、1941年11月21日テネシー州メンフィス生まれ。地元の高校、オクラホマの大学を経て、1965年までにスタックスのハウス・バンドの一員に。盟友、ウェイン・ジャクソンとは1962年頃知り合っている。ウェインとアンドリューは個人的にも大変親しくなり、徐々に一緒に仕事をすることも多くなっていく。

この頃、ウェインはすでにスタックスの最初のハウス・バンド、マーキーズで活動、一方、アンドリューは学校の休みのときなど、父親が持つ教会のバンドでサックスをプレイしたり、後に、ウィリー・ミッチェルのハイ・レコードなど、多くのメンフィスでのレコーディング・セッションに参加した。

スタックスのシンガー・アーティスト、ルーファス・トーマス、サム&デイヴ、アイザック・ヘイズなど多数のレコーディングにつきあうだけでなく、同じくメンフィスのハイ・レコードのアーティスト、アル・グリーン、アン・ピーブルズなどの作品でも参加。

1967年のモンタレー・フェスティヴァルには、彼らもオーティスらのバックとして参加している。

実質的なスタックスのハウス・バンドだった彼らは、スタックスからは専属になって欲しいと言われたが、フリーランスで活動することを選択。

1969年に同じくスタックス・レコードのハウス・バンドだったマーキーズのメンバー、ウェイン・ジャクソン(1941年11月24日メンフィス生まれ。トランペット。白人)らとメンフィス・ホーンズを結成。当初はウェイン・ジャクソン、アンドリュー・ラヴ、ルイス・コリンズ、ジャック・ヘイル、エド・ローガン、ジェームス・ミッチェルら。セッションによって若干他のメンバーが入ったりもする。

また、その他ここを訪れるソウル・アーティスト、アリーサ・フランクリン、ウィルソン・ピケットなどだけでなく、ポップ・アーティストにもホーン・セクションの音を提供した。ニール・ダイアモンド、ドゥービー・ブラザーズ、U2、ダスティー・スプリングフィールドなどもここに来てメンフィス・ホーンズを録音している。また、スティング、ピーター・ゲイブリエルなども彼らを起用している。

代表曲には、エルヴィス・プレスリーの「サスピシャス・マインド」、ニール・ダイアモンドの「スイート・キャロライン」、アル・グリーンの「レッツ・ステイ・トゥゲザー」、ダスティー・スプリングフィールドの「ソン・オブ・ア・プリチャーマン」など多数。

1970年代には「メンフィス・ホーンズ」名義でアルバムを発表するようになり、それらは『メンフィス・ホーンズ』など9枚を数える。

徐々にメンバーが減り、現在はアンドリューとウェインの二人になっていた。

メンフィス・ホーンズは、83枚のゴールド、プラチナム・レコードで、52曲のナンバーワン・レコードでプレイしている、という。

2008年、メンフィス・ホーンズはミュージシャンズ・ホール・オブ・フェイムに選ばれた。

また今年(2012年)2月、メンフィス・ホーンズの二人はグラミー賞「ライフ・タイム・アチーヴメント賞」を受賞。これをインストゥルメンタル・グループで受賞するのは、ファンク・ブラザーズについで二組目だ。どちらも1960年代のソウル・ミュージックの歴史において重要なサイドメンたちと言える。

アンドリュー・ラヴは、ツアーなどから2000年に引退していたが、ときどき、レコーディングの仕事は引き受けていた、という。ニール・ヤング、トニー・ジョー・ホワイトら親しいアーティストのものは、レコーディングにつきあっていたようだ。

裏方。

彼らのレコーディングはシンプルで、スタジオに入り、リズム・トラックを聞くと、すぐにトランペット、サックスのリフを考え、まず1回録音、さらに同じものをもう一度録音(ダブル)、そして別のトロンボーンなどが必要であれば付け加えて録音ということで大体3回くらいでレコーディングは終了していたという。ホーンのリフは、ほとんどすべて彼らが考えていた。

彼らはまさに裏方だが、そのプロフェッショナリズムは音楽業界で一目置かれていた。グラミーの「生涯功労賞」が与えられたのも、もちろんそうしたことを反映してのもの。

独特のホーン・セクションは、メンフィス・ソウルを世界に知らしめる大きな原動力となった。

■ 昨日の「ソウル・サーチン」では、そのご紹介をしました。期間限定公開ポッドキャスト。

http://soundcloud.com/soul_searcher_2/01ss20120415

++++

告別式は2012年4月20日現地時間午後5時から、Mt. Nebo Baptist Church, 555 Vance, Memphis, TNで行なわれる。4月21日午前11時から同地で葬儀。

+++++

OBITUARY>Love, Andrew (November 21, 1941 – April 12, 2012, 70 year-old)