◎ ボビー・ウーマックは力のある限り歌い切る~ソウル・マンの教え | 吉岡正晴のソウル・サーチン

吉岡正晴のソウル・サーチン

ソウルを日々サーチンしている人のために~Daily since 2002

【So Exciting My Hero, One & Only Bobby Womack】

壮絶。

なんといったらいいのだろう。満身創痍だが、ショーは必ずやり遂げる、その信念とソウルが、このすさまじいばかりの壮絶パフォーマンスを成立させている。

セカンドはジャケット、パンツ、帽子から靴まで、赤で統一し、びしっと決めて登場。1曲目でボビーが書いてジョージ・ベンソンでヒットした「ブリージン」をバンドが演奏しスタート。そしてイントロ的に「ユー・キャント・タッチ・ディス」が流れ、これに乗せておもむろにボビーが登場した。声の出方が初日よりかなりいい。1日違うだけでここまで違うかというほどよく声がでている。基本は座っているが、立つ回数も多いような気がした。まさしく「気」でステージを行っている感さえする。

「ハリー・ヒッピー」など、そのひたむきなボビーの姿を見ていると、こちらが泣けてくる。ここでは、前日同様リサ・フレイジャーとのデュエット。やはりこのリサは見事だ。

Harry Hippie
http://youtu.be/Cx2jDWpD6fM



ボビーは曲のイントロや途中でしばしば「語り(モノローグ)」をいれるが、これがどこまでネタでどこまで本当なのかがわからない。しかし、ラップの原形とも言えるこのナレーションは、同じサム・クック門下生ルー・ロウルズ譲りというか、実に渋い。ただの語りが音楽になってしまうのだから、本当にすごい。

彼のパフォーマンスを見ていて、初来日1987年9月のことを思い浮かべていた。あのときも初めて見るだけあって感激した。あれから25年。以後今回までに2回来日。4回目の来日だ。毎回見てきたが、しかし、3回目から17年の間隔はあまりに長い。本人は「17年? そんなに経ったか?」といった風で、それほど気にもしていないようだ。だが、確実にボビーも、そして見るこちら側も25年、歳をとっているのだ。

「ストップ・オン・バイ」でマーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイング・オン」風の節をいれてトリビュートしつつ、次の曲へ。「アイ・ウォズ~~~、ボーン・バイ・ザ・リヴァー~~~」、ボビーが歌うこれだけでソウル・ファンは号泣する。

「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」では、今回は「弟(セシル)の娘、サム・クックの孫、ケイシー」と紹介した。彼女の愛称は「ケイシー」だそうだ。あとから聞いたのだが、なんと彼女はまだ19歳。若い。そこで一緒に一節歌うボビーの娘ジーナリーとは従姉妹同士になるわけだ。

http://youtu.be/jNe2rRBJ5j4



この日は12曲目「アイム・トライング…」と14曲目「イフ・ユー・ドント…」が前日歌われなかった作品。曲順もその場でボビーの気分でどんどん代わるようだ。実際、初日と後半の曲が入れ替わっている。

レデシーらオークランド・ミュージック・サークルの一員、サンドラ・マニング(キーボード奏者)によれば、「曲が変わったら、必死についていくわ」と言っている。サンドラはレデシー、レイラ・ハサウェイ、ラリー・グラハムらとレコーディングやライヴ・ツアーなどもしている、才女だ。

I Wish He Didn't Trust So Much
http://youtu.be/ovmS20sc2_U



司祭。

バラードでも張り上げるシャウト・ヴォイス。「アアアアーッ」と長く声を伸ばすソウル・ヴォイス、これには本当にそれだけで打ちのめされる。声だけでやられてしまう感じだ。そして、どう見ても足はふらつき、腕には点滴か注射の跡を隠すように巻いた黒い包帯、体調は万全ではないのに、ステージをやり遂げるぞというこの気迫、執念、これには心底感動した。「アアアッ~~」とシャウトしたまま、ステージで倒れ込んでしまうのではないかとさえ思ってしまうほどの熱演だ。だが満身創痍の男も、ステージでは元気になってしまう。それもまた、音楽の力だ。

腕と体でありったけのボディー・ランゲージ、ジェスチャーを見せ、杖を振り回し、バンド・メンバーにキューを出し、すべてのショーを仕切るボビー・ウーマック司祭。ソウル・ショーは熱く暑く厚くなければならない、というのをまざまざと見せ付けてくれる。ステージに上がるとアドレナリンが出て、ふだんよりもものすごい元気さが出る男に違いない。それにしても、ボビーの歌唱はなんでこんなに熱いんだろう。きっとボビー自身が熱い人生を生きているからなのだろう。

14曲目が終わった後、次の曲に行くときにサックス奏者に「そろそろ時間だ」みたいなことを耳打ちされたのだろう。それを受けてボビーは「俺はやりたいときまでやる」とマイクで広言した。

セシルとリンダ・ウーマック夫妻の娘でケイシーと呼ばれるゼカリアスは、19歳で7人兄弟の6番目。サム・クックの孫だが、その娘3人で「エジプシャン・クイーン」というユニットを組み、ボビーも曲を提供したりして、いずれデビューするという。ボビー自身もアルバムを作っており、4月くらいには全米リリースする予定だという。

改めて、ボビー・ウーマックってこの時代に生き残った、本当に「ラスト・ソウル・マン」「ソウル・サヴァイヴァー」ということをひしひしと感じる。マイ・ヒーロー、ラスト・ソウル・マン、God Bless Youとしかいいようがない。

ボビーの「やれる限りギリギリまでやる。力ある限り歌い続ける」というその姿を見て、僕も「生ぬるくやってちゃだめだ、徹底してやれ」と教えられたような気がした。

ホイットニーの葬儀を見て、こう書いた。「ナンバーワンになるのは簡単だ。難しいのはナンバーワンを続けること。さらに、もっと難しいことは、生き続けること」 ボビーは、生き続けているのだ。

多くの身内の死、ビジネス上の裏切り、苦難と栄光、アップス&ダウンの生き様がそのまま歌に、声に、ステージすべてに反映する。

マイク・スタンドにぽつりとかけられていた赤い帽子。うつむき加減にちょっと苦しそうに椅子に座りながらもシャウトするリアル・ソウル・シンガーの姿を僕は瞼にたっぷりと焼き付けた。

++++

再放送。

なお、この日はファーストが有料衛星テレビ、フジテレビ・ネクスト・チャンネルで生中継放送があった。(ファーストは見ていないのでセットリストなどはまだわからない) これは録画放送もある。録画再放送は、2012年3月8日(木)26時00分~27時30分=9日午前2時~3時30分、3月9日(金)15時40分~17時10分。フジテレビ・ネクストの視聴方法などはこちら→
http://www.fujitv.co.jp/otn/howto/index.html

(ボビー・ウーマックについては、もう少し続く予定)

$吉岡正晴のソウル・サーチン
左から、ジーナリー・ウーマック、ソウルサーチャー、ボビー・ウーマック、KCウーマックFrom left: GinaRe Womack, Masaharu Yoshioka/The Soul Searcher, Bobby Womack, KC Womack/Zekkujchagula Zekkariyas

■ ボビー・ウーマック関連記事

2012年02月23日(木)
ボビー・ウーマック、来日~17年ぶり4度目~サム・クック直系ソウル・シンガー
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-11172303109.html

2012年02月24日(金)
ボビー・ウーマック、17年ぶりに日本のステージに: 伝説の来日に感謝
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-11173310941.html#main
初日ライヴ評

前回来日時インタヴュー記事
ボビー・ウーマック、インタヴュー『僕たちの地震』(1995年5月記)
http://www.soulsearchin.com/entertainment/music/interview/womack19950501.html

2008年10月08日(水)
ボビー・ウーマック、ベストはリミックス入り
http://ameblo.jp/soulsearchin/day-20081008.html

■ ワックスポエティックス 第20号 ~ サム・クックの記事を書きました



■ ソウル・サーチン、第5章「ウーマック・ウーマック」でサム・クック~ボビー・ウーマックらについて書いてあります

ソウルサーチン R&Bの心を求めて
吉岡 正晴
音楽之友社
売り上げランキング: 847675


■ ラスト・ソウル・マン ベスト・オブ・ボビー・ウーマック

ラスト・ソウル・マン ベスト・オブ・ボビー・ウーマック
ボビー・ウーマック
EMI MUSIC JAPAN(TO)(M) (2008-10-08)
売り上げランキング: 195204


■Poet I & II アナログ2枚が1枚のCDに

Poet I & II
Poet I & II
posted with amazlet at 11.10.06
Bobby Womack
Abkco (2009-02-17)
売り上げランキング: 8587


■ ボビーの師匠、サム・クックのベスト

ハーレム・スクエアー・クラブ 1963
サム・クック
BMG JAPAN (2006-01-25)
売り上げランキング: 106295


■ メンバー

ボビー・ウーマック/ BOBBY WOMACK(Vocals)
リサ・フレイジャー / LISA FRAZIER (Vocals)
リサ・コールター / LISA COULTER (Vocals)
ゼックチャグーラ・ゼッカリヤーズ / ZEKKUJCHAGULA (KC) ZEKKARIYAS (Background Vocals)
コーリ・ジェイコブス / CORI JACOBS (Keyboards)
サンドラ・マニング / SUNDRA MANNING (Keyboards)
チャールズ・グリーン / CHARLES GREEN (Saxophone)
ブライアン・マンツ / BRIAN MANTZ (Trumpet)
エルムエリト・ナヴァロ / Ermuelito Navarro (Trombone)
ウッドワード・アプラナルプ / WOODWARD APLANALP (Guitar)
エルバート・アレン・ジュニア / ELBERT ALLEN JR (Bass)
アーノルド・ラムゼイ / ARNOLD RAMSEY (Drums)
---
ジーナリー・ウーマック / Ginare Womack (Vocal)

■ ボビー・ウーマック・セットリスト
Bobby Womack Setlist: February 23, 2012, Billboard Live
2012年2月23日木曜、セカンド、ビルボードライブ
(*) denotes the song hasn’t been performed day one

show started 21:43
01. Breezin’ (Instrumental)
02. Intro (You Can’t Touch This)
03. Across 110th Street
04. Nobody Wants You When You’re Down & Out
05. Harry Hippie
06. Daylight
07. I Wish He Didn’t Trust Me So Much
08. That’s The Way I Feel About Cha
09. Woman’s Gotta Have It
10. (You’re Welcome) Stop On By ~ Marvin Gaye riff
11. A Change Is Gonna Come
12. I’m Through Trying To Prove My Love To You *
13. If You Think You’re Lonely Now
14. If You Don’t Want My Love *
15. Looking For A Love ~ a riff of “Holding Back The Years
16. (No Matter How High I Get) I’ll Still Be Lookin’ Up To You
17. Love Has Finally Come At Last
18. Jesus Be A Fence Around Me
Show ended 23:13

(2012年2月23日木曜、六本木・ビルボードライブ、ボビー・ウーマック・ライヴ)
ENT>MUSIC>LIVE>Womack, Bobby