【『キャデラック・レコード』、8月15日から公開】
実生活。
シカゴのチェス・レコードを舞台にしたその創始者のひとり、レナード・チェスと、チェス所属のブルーズ・アーティストたち、マディー・ウォーターズ、リトル・ウォルター、ハウリン・ウルフ、チャック・ベリー、そして、エタ・ジェームズ(エタ・ジェイムス)らの悲喜こもごものストーリーを描いた映画『キャデラック・レコード』。その一般試写会が2009年8月10日(月)、日比谷の東商ホールで行われた。いよいよ、この『キャデラック・レコード』が今週土曜日(2009年8月15日)から恵比寿ガーデン・シネマなどで公開される。ちょうど、サマソニ出演のため来日中のビヨンセが立ち寄るか、などという可能性もなくはなかったが、現れなかった。
映画についての評はすでに2009年6月9日付けソウル・サーチン・ブログに書いたので、そちらを参照されたい。
http://ameblo.jp/soulsearchin/entry-10277116605.html
http://32970.diarynote.jp/?day=20090609
ところで、ここではビヨンセが映画『キャデラック・レコード』で歌う3曲についてちょっと紹介してみたい。
その3曲とは、「アイド・ラザー・ゴー・ブラインド」、「オール・アイ・クド・ドゥ・ワズ・クライ」、「アット・ラスト」だ。いすれも、エタ・ジェームズのヒット、持ち歌としても知られる。
「オール・アイ・クド・ドゥ・ワズ・クライ」はエタ本人の1960年5月からヒットし、ソウル・チャートで2位、ポップで33位を記録した作品。これはモータウンのソングライター、ビリー・デイヴィスとモータウン創始者ベリー・ゴーディーらが書いたもので、レナード・チェスと彼らは仲がよかったので、エタにこの曲を歌うように勧めた、という。チェスは、この頃、三角関係の曲、不倫の曲をエタが歌うといいというアイデアを持っていて、この曲に出会って、どんぴしゃだと感じた。エタが好きな男が他の女の元に行ってしまい、自分は泣くだけだ、というストーリーだ。
エタはこのころ、ドゥー・ワップ・グループ、ムーングロウズのベース・ヴォーカルでリーダーのハーヴィー・フークワとつきあっており、チェスは、エタとハーヴィーのデュオ・シングルも出している。だがこのハーヴィーは後にモータウン創始者ベリー・ゴーディーの姉、グエン・ゴーディーと親しくなり、結婚。エタを振る。後にエタがこの曲を歌うときには、そんな実生活のことも重なって重さを見せるようになった。
そして、それに続いて「アイド・ラザー・ゴー・ブラインド」。これは、「あなたが他の女といるところを見るくらいなら、盲目になったほうがましだ」という歌。1967年、エタ・ジェームズがヒットさせた「テル・ママ」という曲のシングルのB面に収められていた作品。他に盲目のソウル・シンガー、クラレンス・カーターのものが有名だ。映画の中でも実にいいシーンで歌われる。
そして、そうした苦労を乗り越え、ついに幸せが訪れる。「アット・ラスト」は、ついに不幸な私にも幸せが訪れた、と切々と歌う作品。これはもともと1942年にグレン・ミラーでヒットしたポップ曲をエタが1961年にカヴァーしたもの。ソウル・チャートで2位、ポップ・チャートで47位を記録している。
エタの人生は不幸なことが多かった。映画でも出てくるが、彼女がビリヤードをやっているシーンがある。そのうまさにレナード・チェスが感心する。エタがプレイする後ろの壁には伝説のビリヤード・プレイヤー、ミネソタ・ファッツの写真が飾られている。そして、「あれが父親、って言われてるわ」とエタっは言う。彼女はその父から愛されたいと思い、一度でいいので会いたいと熱望し、それが実現するが、父からは冷たくされ、どん底の悲しみを味わう。
歌手というものは、実生活で激しく悲しいことや寂しいことがあると、それを歌に託して心の外に解放することができる。そうして、自分の内なるストレスを発散できるのだ。そしてその外に出す悲しみやストレスが大きければ大きいほど、それを聴く者は感じるものが多い。エタの歌に宿るソウルの源は、そんな彼女の人生の一部だ。
(お知らせ)
2009年8月12日(水)東京FM(80.0mhz)『ワンダフル・ワールド』という番組の「シネマ80」というコーナー(16時35分~16時55分=生放送)に出て『キャデラック・レコード』の話をします。
■ 映画予告編(映画は2009年8月15日から公開)
■ 映画オフィシャル・サイト
http://www.sonypictures.jp/movies/cadillacrecords/
■ エタ・ジェイムス、最新作はスタンダード・カヴァー集 (ライナーノーツ吉岡正晴)(エタが歌うオーティスの「愛しすぎて」「トライ・ア・リトル・テンダーネス」などぜひ聴いて欲しい)
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■ 『キャデラック・レコード』 (サントラはいくつかヴァージョンがありますが、このデラックス・ヴァージョンをお勧め)
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