知的刺激 | 吉岡正晴のソウル・サーチン

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(昨日からのつづき)

【深町純・語録】

知的刺激ピアノちゃんキラキラ

深町語録は、いつも知的刺激がいいいいっぱいある。4月28日のトークからいくつか抜粋します。

「ここ(恵比寿のアートカフェでの即興ライヴ)では、僕は常に冒険しようと思っています。即興というのは、うまくいくこともあれば、だめなときもある。即興とは冒険だと思っています。冒険は失敗がつきものです。失敗を恐れてはいけません。だから演奏がだめなときは、拍手をしてはいけません。無意味な拍手は良心的な演奏家をだめにする。だから、だめなときはだめと言ってあげなければならない」

「昔、バンド活動をしていたとき、やはり、調子が悪いときもあるんですね。演奏を終わって楽屋で『今日は、なんでだろう、調子悪かったね』なんて言ってるときに、楽屋にやってきた女の子が『今日のは最高でしたっ』なんて言われると、「おまえ、何聞いてるんだ」ってことになる。そういうのが度重なると、ばかばかしくなってくる。だからどんな演奏でもスタンディング・オヴェーションするのは、アホです。まあ、半数以上の人は、『スタンディング・オヴェーションをしたくて、コンサートに行く』んでしょうけど、そういう姿勢は、演奏家をだめにする。みんながそれぞれ、みんなの耳で、判断しなければなりません。そういうとね、『私、音楽、よくわからないんで』という人がいる。でも、関係ないんです。あなたが、自分が聴いておもしろいと思えば、喝采すればいい。つまらないと思ったら、拍手しないということです。自分の判断に正しく従うということが、すごく重要なんです」

「もうひとつ、言おうと思ってることがあります。『あなたは音楽が好きですか』と聞かれると、『音楽、大好きです』とほとんどの人が答えます。でも、最近感じた、僕なりの結論はこうです。そういわれて『音楽、好きです』と答えた人の半分は、『音楽を好きって言うことが好きな人』たちなんです」 (観客から笑い)

「例えばこの深町純のライヴにも、わけのわからないおじさんが来ることがある。なんで来たんだろう、寝てたりもするわけでね。で、そういうおじさんっていうのは、翌日会社に行って『昨日、深町純のコンサート行ってさあ』とか言って、『へえ、課長、深町純、知ってるんですか』みたいな会話になるんですね。そうすると、なんとなく、音楽的素養があるように見える。そういうために、同じようにストーンズのコンサートに行く人が、きっと、半分はいると思う。音楽が好きというより、その音楽会に行くことが好きなんだ。そこは、十分注意しないといけない。そういうのは、ひるがえれば、ブランドのバッグを持ったり、新丸ビルでおいしいものを食べたりと同じことなんですよ。いいかげん、そういうことから解放されなければならない、ということです。音楽が好きなのではなく、音楽会に行くのが好きな人たちというのは、多いですよ。だいたい音楽好きっていうと、いい趣味みたいに聞こえるでしょう。AV好きとか、ストリップ好きとか言うより素敵そうで、いい。(笑) そういう人は、断じている。そういう人と本当に音楽が好きな人は、きちっと区別したいなあ、と思う」

「ここでのライヴは来月で終わってしまいます。で、僕も、ここからタクシーでワンメーターくらいの祐天寺というところに、お店を作りました。それで、不思議なんだけど、ここに来た人にDMを送っても、誰一人として僕の店には来ないんだよね。(笑) いや、つまり、それは、ここ(恵比寿アートカフェ)という空間が好きで、愛していて、ここで聴く僕の音楽が好きということなんだろうね。場が大事というかね」

「僕は、僕がピアノ弾くんだから、ここに来てる人はみんな(祐天寺の)自分の店に来ると思っていた。甘かったです。(笑) やはり、この場所、この空間がいいんだね」

「僕は、自分のピアノを聴いて何人かの人が泣いていることを知っています。でも、僕は一度も人を泣かせようと思って、ピアノを弾いたことはありません。いつも、ちょっと意地悪く言うのは、聴いている人が勝手に泣いている、僕とは関係ない、ということです。だから、涙を流して僕に『深町さん、ありがとう』と言ってくれる人にいつもこう言っています。『それは、あなたにそういう能力があるんです』ってね。つまり僕のピアノを聴いて、何かを心に思い浮かべて、何かを感じて、涙を流せる、それはあなたの能力なんです。僕はそういうことを信じている。それはつまり、音楽の力です」

「僕たちミュージシャンは、じゃあ何をしているかというと、そういうすばらしい音楽というものを、汚(けが)れなく、間違いなく、再現するのが僕の仕事で、僕が、もしうまく音楽を再現することさえできれば、それはきっと聴いている人の心の中に何かを残してくれるのだろうと思う。だから、僕が何かをしているわけではないんです」

「例えば、今度くるロシアのグリーシャっていうアーティストなんかね、よく言うんです。『ジュン、音楽は神様が降ってくるんだよ』って本気で言うんですね。僕が上手に即興演奏ができたりすると、『ジュン、それは神様が弾かせてくれてるんだよ』って言うんですね。そういうことを言うミュージシャンは日本には少ない。グリーシャなんか、その演奏する姿勢がすばらしい。彼らは音楽に対してひじょうに誠実です」

深町さんが言ったことを、ただ文字に起こすだけで、これだけのものができるんだから、ほんと、たいしたものです。すごい。感謝。尊敬。

■4月27日のセットリストなどは、昨日付け日記にあります。

(2007年4月27日土曜、恵比寿アートカフェ=深町純ライヴ)
ENT>MUSIC>LIVE>Fukamachi, Jun
2007-53