『エドウィン・ドルードの謎』プレビュー公演のレビュー |  *so side cafe*

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元宝塚歌劇団雪組、壮一帆さんの現役時代の記録。ただいまシーズンオフ。

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 北千住のシアター1010で、『エドウィン・ドルードの謎』プレビュー公演を観ました。

 面白いです、これ。クセになるかも(笑)。


 いろいろと変わり種な作品ではあるのです。トリックがたくさんあるのだけれど、とにもかくにも、大きな話題は次の3つ。


 1.288通りあるという、観客の投票によるマルチエンディング

 2. 福田雄一さんによる「笑うミュージカル」である

 3.「あの劇団」を退団した壮一帆さんの卒業後初のミュージカル作品


 3. は「わたしの場合」ですけど(笑)。


 何しろこの作品、「あらかじめ決まった主役がいない」。

 もちろん、この劇場の支配人である山口祐一郎さんと、タイトル・ロールであるエドウィン・ドルード役の壮一帆さんは特別な存在として登場します。

 でも、「観客がいくつかの場面での主役を選べる」という最高のゲームが用意されている以上、その日の主役は誰になるかわからないところが最大の見どころではあると思うのです。


 だから3.は、見た人によっていくつものパターンが考えられます。たとえば、こんな感じに…。


 3. 山口祐一郎がかわいく笑わせながら舞台を回す

 3. 平野綾ちゃんが愛らしく、同時に芸達者

 3. 今 拓哉さん、保坂知寿さん、コング桑田さん、瀬戸カトリーヌさんというミュージカルの怪人たちの磨き抜かれた芸

 3. 男女4名ずつのアンサンブルチームも、アンサンブルの枠を超えて大活躍


 アンサンブルの人たちにも主役になれる可能性があるんですよ! これ、すごくないですか? 考えるほどに愉快なシステムだと思う。


 絶対あり得ないけど、「あの劇団」で上演することを想像したらめちゃくちゃ楽しいことに…。


 ありえへんて!(笑)


 『エドウィン・ドルードの謎』は、展開とエンディングがマルチなだけじゃなくて、いろんな楽しみが仕込まれています。


 シナリオだって面白い。


 福田さんが笑いのタネをきっちり蒔いてくれているし、「笑うミュージカル」というだけではなく、登場人物にはそれぞれ表の顔とウラの顔があって、そこが見どころ。


 殺した理由といっても、もちろん「火サス」ノリなんかじゃない(笑)。エンディング・ストーリーはソング・ナンバーになっているので短いけれど、ちゃーんと練られていて、「そうだったのか!」と、そのオチと犯人役者さんのパフォーマンスに深く納得させられます。


 わたしはまだ平野綾ちゃん犯人バージョンしか見てないんですど、たぶん(二回観たんですけどね。平野綾ちゃん大人気 ^ ^ )。クリエが楽しみです。


 しかも、ミュージカル・ナンバーがめーっちゃいいです!


 難易度の高いスコアで、もちろん演奏も最高。指揮者と6名のオーケストラで演奏しているとは思えない厚みのあるサウンド。愉快なナンバーあり、ドラマチックなナンバーありで、いま笑わせてくれた役者さんたちのミュージカル・スイッチが入ると、一気に雰囲気が変わって、濃いーパフォーマンスで楽しませてくれる。この落差。二重構造(笑)。もしかしたら、ここがいちばん面白いところかもしれない。


 そして、わたしがいいなあと思ったのは、この作品がきっちり「バックステージもの」になっていること。


 主要キャストがいれば舞台ができるわけじゃない。舞台を作るのには多くの人の力が必要だ。音楽を演奏する人たち、脇役やアンサンブルの人たちがどれだけ大きな存在で、また、お客さんの拍手がどれだけ役者たちを乗せてしまうか…。


 そんな当たり前のことを、目の前に差し出してくれる。そんな舞台なのです。


 福田雄一さんの作品を観るのは実は初めてなのですが、溢れんばかりの、舞台と舞台人に対する愛に触れて、福田ワールドがほんの少しわかった気がしました。


 あったかいの。役者一人一人のことを分け隔てなく大切にしているのがわかる。だから、福田さんという人は、人から愛されていんじゃないかと、たかだか二回観ただけですが(笑)、思いました。

 あったかいだけではなく、歌詞とか、もう本当に素晴らしい。

 曲自体が素晴らしいんだけど、訳詞もいいのね。もしかしたら超訳なのではという気がするけど(笑)、そこがいいです。


 いっちばん好きなのは、壮さんが最後に歌うナンバー。壮一帆さん自身のことを歌っているのはもちろん、ほかのキャストのことでもあるし、『エドウィン・ドルードの謎』のテーマでもあるし、世界中のすべての人に対する、冒険しなさい、遊びなさい、笑いなさいというメッセージでもある。涙が出るほど素敵。


 壮さんの退団が発表された時にファンに言い放った「泣くならトイレで」という名言ともリンクしているような気がする。


 楽しいね。


 約束されたものなんか何もなく、これから自分で築いてゆくのだ。どんな運命、どんな未来が待っているのか。わからないから楽しいのだ。


 いかん。

 そんなつもりはなかったのに、ちょっといい話になってしまった(笑)。


 さて。では、『エドウィン・ドルードの謎』での壮さんはどうだったのかという話ですが、まだプレビュー公演が終わったところだし、あからさまなネタバレはしたくないので、それはゆっくりと書いていくとして、とりあえず、プレビューの壮さんに点数をつけておきましょう。


 愛と、これから始まる舞台への期待を込めて、40点。


 厳しい?


 エドウィンって、難しい役です。とりわけ一幕は、もう大変! どうすりゃいいんだ? って感じだと思う(笑)。


 例えば「あの劇団」だったら、ああいう難しい役といっても、スポットライトを当てたり、ちょっと音楽入れたり、周りに人が来ないような位置に置いてくれたりしてくれたし、難しい役としてファンは見てくれたけど、これからはそうはいかない。


 どんな役でも自分でなんとかして、ファンじゃない人にも見てもらわなきゃいけない。試されるのはこれからだと思う。


 そういう意味での40点です。


 相当に取りくみ甲斐があると思います。この作品、この役。エドウィン・ドルードッ!


 シアター・クリエでの『エドウィン・ドルードの謎』は、4月4日(月)から4月25日(月)まで。きっかり3週間。


 きゃああ…。書いてたら、クリエで観るのがめちゃくちゃ楽しみになってきたー。


(こんな書き方はしたけれど、『エドウィン・ドルードの謎』は本当に素敵な作品だし、壮さんもチャーミング! ただ、もっと出来ると思っちゃうの。つまりは、ひいき馬鹿(笑) )

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