猪木の求心力に陰りが見え始めた80年代後半の新日本プロレス。
レオン・スピンクスとの異種格闘技戦、TPG(たけしプロレス軍団)、海賊男…。
混迷を極めたこの時期(今振り返ると抜群に面白い時期！)にブレーンを務めていたのが、骨法の創始師範・堀辺正史先生だ。
舞台裏を知り尽くした堀辺先生が語る秘話の中でも特に衝撃度が高いのが、ベイダー誕生にまつわるエピソード。
TPGの隠し玉として登場したビッグバン・ベイダー誕生の裏には、とんでもない構想が秘められていたのだ…。
2010年発行の「kamipro」151号に掲載された堀辺先生のインタビューの一部を紹介しよう！
私と漫画家の永井豪先生と猪木さんで集まって、よく突拍子もない話をしてたんですよ。3人とも常識から外れた人間だから(笑)。その頃、猪木さんが「中国やブラジルの山奥には、身長3メートル近い大男がいるはずだ。それをリングに上げられないか」って言ったんです。でも、そんなのなかなかいないんですよね。
まず、身長3メートルの巨人って発想が小五レベル。
川口浩探検隊もビックリである。
いるかも知れない風に「そんなのなかなかいないんですよね」って語る堀辺先生もさすがだ！
で、「いないなら作っちゃえばいいんじゃないか」って話になって、そこから始まったのがベイダー計画なんですよ。ベイダーって甲冑を被ってましたけど、永井豪先生が描いた最初のデザインでは、全身が覆われていたんです。
フィクションをリアルへ。
不可能を可能にする猪木イズム爆発である。
結果、予算の関係もあって、上半身のみとなった甲冑。
なんだか、ジオング的でもある。
巨大ロボットみたいなのがガシャーン、ガシャーンと入ってきて、その鎧を脱ぐと中から怪物的なレスラーが出現する。そういうのがあったら、プロレス界が変わるんじゃないか、と。
実現したら、天龍革命の比じゃないレボリューションが起こっていた模様。
実は誰よりもアメプロのエンターテインメント性を理解していたのが猪木という事実。
しかし、時代を先取りしすぎてたのもまた事実であった…。
そして、この「ベイダー開発プロジェクト」には、あのテリー伊藤氏も関わっていたというのだ。
そう、ベイダーは“プロレス・バラエティー”へと変貌を遂げた「ギブUPまで待てない！ワールドプロレスリング」の目玉となる新キャラクターでもあったのだ。
当初のベイダーのキャラクター原案は「妖魔獣 デバステーター」！
企画コンセプトには、アンチヒーローのイメージとして、「ターミネーター」や永井豪の傑作「バイオレンスジャック」が挙げられている。
抜群のセンスである。
さらに、企画コンセプトにはネーミングの由来についてこんな記述も。
「妖魔獣デバステーター」というネーミングは、英語のDEVASTATE(破壊する、壊滅する、荒廃させる、じゅうりんする)という単語からヒントを得た造語で、DEVASTATORとは、破壊者、略奪者という意味。かなり暴力的なキャラクターを連想させるネーミングであり、妖魔獣の「妖」は、不思議な力、怪しい様子、妖気、妖怪、妖星などの言葉からくる「人間以上の力」を持った者というサジェッションを含んでいる。
(2002年発行「週刊プロレススペシャル8 新日本プロレススーパー30年史」より)
「じゅうりん」が平仮名だったり、「サジェッション(示唆)」を使ってたり、単なる思いつきにまわりくどく説明を後付けしていたりと、ザ・テレビ業界が垣間見える企画案である。
全編に漂う『悪の組織の大幹部』ライクな中二っぽい感じがたまらない！
しかも、実写映像とアニメの同時発信も予定されていたというんだからスケールがデカすぎる！
これって、「アステカイザー」的なごちゃまぜ式ではなく、それぞれが独立ってこと…？
このアニメ企画が後の「獣神ライガー」の構想に繋がったんだろうか…？
いずれにせよ、あまりに早すぎたメディアミックス構想である。
さらに、『中身』の候補には、ディンゴ・ウォリアー(後のアルティメット・ウォリアー)や、当時、新日の外国人留学生レスラーだったブライアン・アダムスも挙がっていたのだ。
ビジュアル重視のアルティメット・ウォリアーバージョンも見たかった気はする。
試合内容は期待せずに。
なんだかんだで、荒削りながら猛烈なパワーを秘めたレオン・ホワイトに決まったんだから、結果オーライ。
他のレスラーでは、イロモノから超一流のガイジンレスラーにまで上り詰めるのは不可能だろうから…。
このコンセプトそのままに「プロレス・スターウォーズ」で見たかったなぁ…。
東京ドームで壊滅した恐竜軍団の生き残りとして、妖魔獣デバステーター登場！
連載終了直後のエピソードにいかがですか～～！？？
みのもけんじ先生！！！