哀しい予感
吉本ばなな
角川文庫
- 哀しい予感 (角川文庫)/角川書店
- ¥432
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弥生はいくつもの啓示を受けるようにしてここに来た。それは、おばである、ゆきのの家。
濃い緑の匂い立ち込めるその古い一軒家に、変わり者の音楽教師ゆきのはひっそりと暮らしている。
2人で過ごすときに流れる透明な時間。それは失われた家族のぬくもりだったのか。
ある曇った午後、ゆきのの弾くピアノの音色が空に消えていくのを聴いたとき、弥生の19歳、初夏の物語は始まった。
(文庫背表紙より)
ブロガーさんの記事を読んでいたら、久しぶりに読み返したくなって
初めて読んだのは、高校生のとき。
とても共感して、憧れて、頻繁に読み返すことはしないけど、ずっと「好きだ」「私にとって大切な存在だ」という記憶だけは持ち続けていました。
今改めて読んでみると、若々しくて、青々としている感性に、自分の昔の日記帳を開いてしまったような、少しこそばゆい感じを覚えるけど。
やっぱり、好きだなぁと、しみじみ感じています。
吉本ばななさんと、江國香織さんは、私にとって特別で。
そのありふれているようで、ちょっと特殊な日常を読み終えるといつも、自分の目の前の世界が少し、それまでと違って見えるのです。
高校生のときには、まさしく少女漫画のように読んでいて、真っ直ぐな心根の持ち主である弟の哲生に、私も弥生と同じように恋をしました(あぁ、こんなの書くの恥ずかしいですね)
今は弥生のおばに、とても惹かれる。
ただ一人でだらしない生活をしている、音楽教師で変わり者の、美人のおば。
いつも同じ人(ジェイソン)が登場するからという理由で、映画「13日の金曜日」のシリーズが大好きだったり。
料理は何もできないのに、姪の弥生の訪問を歓迎して、夜中に何時間もかけて、大きなケーキを焼いてくれたり。
私にとって美と映ったのは彼女の生活とか、動作とか、何かするときのかすかな表情の反応にまでびっしりとはりめぐらされたある「ムード」だった。それはがんこなまでに統一され、この世の終わりまで少しも乱されることがないように思えた。だからおばは、何をしていても不思議と美しく見えた。彼女の発する空ろで、しかし明るい光はまわりの空間を満たしていた。
長いまつ毛をふせて眠そうに目をこする様は天使のようにまばゆく見えたし、床に投げ出された細い足首は彫像のようにつるりと整っていた。その汚く古い家中が、おばの動きにあわせてゆっくりと満ちたりひいたりしているように感じられた。
向かい合いたくないものは全て、手放して、打ち捨てて、「なかったこと」にしてしまう、おば。
でも捨てられない本当に大切なものは、皆、自分という迷路の奥深くでしっかりと抱えているのだと思います。
だからこそ、「何も減ってはいない。増えてゆくばかりだ。」というフレーズに、じんと心を暖められました。
ばななさんの作品、もっと読んでみたくなりました