マンハッタン・ジャズ・クインテット | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


ジェームズ・キャメロン監督の映画「アバター」の

勢いがすごいですね。


全世界興行収入が、歴代1位。

それも、同じ監督の映画「タイタニック」が

1年半かけて作った記録を、

わずか40日間で抜いてしまったというのですから、

ものすごいスピードです。


おそらく、この映画の興行収入はまだまだ伸びるでしょう。

「タイタニック」の時もそうだったのですが、

周りで「あの映画を見た」という人が増えると、

「時代に乗り遅れまい」と、映画館に足を運ぶ人が

さらに増えるからです。


私はこの映画、お正月休みの時に見ました。

映像は確かに圧巻。

私が行った映画館は3D対応ではなかったのですが、

いまにも登場人物が飛び出してきそうな迫力は堪能できました。

また、戦闘シーンで思いっきり派手さを出す一方、

ラブ・ロマンスや環境問題を適度にまぶして

「動」と「静」のコントラストをつける構成も巧みだと思いました。


ただ、見終わった後の印象は、「感動した!」

というものではありませんでした。

「すごいプロデュース作に唸ってしまった」というのが

正直なところでしょうか。


素晴らしいキャスト、豪華な映像、誰もが納得できる結末。

そして、3D映画という話題性。

こうした要素は、いかにお客を呼び込むか、

綿密に計算した「プロデュース」がなければ揃いません。

一方、見る側は「お釈迦さまの手のひらの上で踊らされている」

ような、「乗せられちゃった」感を覚えるのです。

批判ではなく、優れたエンタテイメント作品とはそういうものです。


ジャズでも「緻密なプロデュース」で成功した作品があります。

「マンハッタン・ジャズ・クインテット」。

もともと、ジャズ雑誌「スイング・ジャーナル」と

キング・レコードの共同企画で結成された、

「日本制作」グループによるアルバムです。

発売当時、ジャズとしては記録的なヒットを記録しました。


メンバーは主にスタジオ・ワークで活躍してきたベテラン4人と、

チャーネット・モフェットという若手ベーシスト。

この「キャスト」が、それまでになかった組み合わせで、新鮮でした。

さらに、サウンドもユニーク。

1980年代半ばという、保守的な気分が高まっていた時期に、

4ビートを基本としつつ、現代的なアレンジを取りいれました。

ジャズ・ファンはもちろん、

当時流行していたフュージョンのファンにも聴きやすく、

幅広い層から支持を得たのです。


ただ、この作品の印象が強いのは、

「プロデュース」の力だけではありません。

スタジオ・ワークが中心だったミュージシャンが発奮し、

力強いソロを取ったことが人気を決定づけました。

演奏のテンションの高さは、プロデューサーの予想を

超えていたのではないでしょうか。


1984年7月11日、NYでの録音


Lew Soloff(tp)

George Young(ts)

David Matthews(p)

Charnett Moffett(b)

Steve Gadd(ds)


①Summertime

斬新なアレンジが施されたスタンダード。

ピアノ・トリオによるイントロで緊張感が高まったところで、

ルー・ソロフのトランペットがメロディを提示します。

ここでバックが最低限のリズムを刻む中、

ソロフが思いっきりヒットを放つ瞬間があります。

この張りつめた感じが、最大の聴きどころです。

その後、一瞬のブレイクをはさみ、ベース・ソロへ。

メロディ提示の後にベース・ソロというのは掟破りなのですが、

モフェットの若さにまかせた勢いある演奏が

ぐいぐい聴く者を惹きつけます。

その後、ソロフの熱いトランペット・ソロ、

デビッド・マシューズの冷静なピアノ・ソロへと続くのですが、

合間にホーン・アレンジをはさむことで、

この「動」と「静」もうまく接着されています。

全体的に「ストーリーがうまく展開されている」

演奏となっています。


④My Favorite Things

ジョン・コルトレーンの演奏などで有名なスタンダード。

普通なら、「二番煎じ」と言われることを恐れて、

あまり取り上げたくないナンバーでしょう。

そんな曲を入れたのは日本人プロデューサーなのかも

しれませんが、アレンジのおかげでこの演奏も

新鮮なものになりました。

反復するリズムの中、メロディがホーンで提示されますが、

これが「クール」なのです。

コルトレーンの熱い演奏とは対極で、

スティーブ・ガッドのドラムの影響もあってか、

フュージョンの雰囲気も漂います。

ソロはテナー~トランペット~ベース

と続き、それぞれなかなかの内容です。

完成度が高いとは言えませんが、

チャーネット・モフェットの激しいベースは特筆ものでしょう。


マンハッタン・ジャズ・クインテットが売れたのは、

「保守的な気分」と「軽さ」がもてはやされた80年代という時代に

そのサウンドがぴったり合っていたからなのでしょう。

そういう点では、「時代を背負った作品」と言えなくもありません。


おそらく、映画「アバター」も、「感動作」や「名作」といった

「時代を超えた作品」という位置づけにはならないでしょう。

むしろ、混迷を深め、価値観が多様化している時代にあっても、

巧みな「戦略・プロデュース」で成功を収めた、

「時代とともに思い出される作品」になるのだと思います。