前話へ
「…………っ!!?」
驚き過ぎて言葉も出ない。
椅子から転げ落ちそうになるのを必死にこらえるのに精いっぱいだった。
錯覚か、あるいは幽霊かと思ってしまいそうになるくらい唐突に、リコは教室にいた。
おそらく私が頭を抱えていたその間に、教室に戻ってきていたのだろう。
それにしても目の前に現れるまで気づかないなんて、私はどれだけ考えに耽っていたのか……
だが原因はそれだけではないようだった。
リコの表情はどこか虚ろで、荷物を鞄にしまう動作の一つひとつに生気がない。
長い黒髪と外の薄暗い雰囲気もあって、本当に超自然現象的な何かを思い起こさせてしまいそうだった。
あの時私を見ていた瞳も、昏く淀んでいた。
でも声をかけることができない。
気まずいからだけじゃない。リコのこの状態が、保健室で何かあったからだと察したからだ。
リコとルイの間にあった何か。
それなら私からは、何も言えない。何も言うことができない。
私にはフラフラと教室を出ていく彼女を、ただ見届けることしか――――
「お願い…………気をつけて……帰って……どうか」
あまりにもか細くて、聞き逃しそうになる声。
でもそれは、紛れもなくリコが発した言葉だった。
教室と廊下を隔てる扉を通るか否かのところで、背を向けたまま話すリコ。
そしてそのまま、彼女は帰っていってしまった。
「…………え?」
突然すぎて私の内側で起こる感情の変化についていけない。
驚き、怒り、喜び、恐怖、不安、疑問……
一つ言えることは、もはやプリントの内容など、頭に入らないということだけだった。
次話へ