──記述「30分」はNGか。
以前、ショートストーリー集『魅惑のスケッチ』を塾生たちと執筆したとき、
塾生のひとりから「半角で“30分”と書くのはいけないか」と質問を受けまし
た。普段は脚本を書いている者がほとんどです。脚本では“坂本(51歳)”の
ように人物名のあとに括弧書きで年齢を付記するときがあります。よく見かけ
る表記方法です。
■魅惑のスケッチ(電子書籍) dex-one.com 発刊
──縦書きの小説で算用数字を使うのはNGか。
脚本ならば答えは「OK」としたでしょう。しかし目的が『縦書きの小説形
式で発刊』と明確でしたから「全角漢数字を使ってほしい」と伝えました。
とはいうものの、実際発刊されている(縦書き)小説でも算用数字で書いて
いる作家もいます。そこで当時(2004年)話題を呼び、芥川賞を受賞した『蹴
りたい背中』(綿矢りさ著)と直木賞を受賞した『号泣する準備はできていた』
(江國香織著)を二作品から、数字表記部分を引用して説明しました。
ちなみに『蹴りたい背中』では、台詞で“「……教科書のP23の原核生物の
拡大写真もよく見ておくこと。」”“「このチケット、3500円もするんだ
! 私出すよ。」”、描写で“案の定袋の中の紙切れに「6月号読者プレゼン
ト 一名様 オリチャン愛用のインナー」とある。”“酸っぱい。濃縮100
%の汗を嗅がされたかのように、酸っぱい。”“縄跳びの8の字でうまく縄の
中に入れないみたいに”などの表記があります。
作者(綿矢氏)にどんな意図や意識があったかは分かりませんが、私が感じ
たのは次のとおりです。
◆“6月号”は、紙切れにそのように書いてあったので見たままを表現し
たといえます。
◆“8の字”は、縄を回す形を表現しているので、これを“八の字”と書
くほうが不明になり、NGといえます。
◆悩むのが“100%”です。本では全角縦書きで記述しています。「%」
自体が数学記号なので、その前の「100」も算用数字でもいいかと思
いますが……ほかに“百パーセント”“100%”(半角3桁なら全角一文
字ないに組み込めるか?)……このように悩んだあげく、どれかの形で
書きます。そのうえで校正担当者と相談するでしょうね。いずれにして
も、安易には書きません。
◆むずがゆいのが“3500円”です。私は“三千五百円”と書きます。
“三五00円”と書く人もいるでしょう。八百屋や魚屋などで見かける
「二00円」のように算用数字の「0(ゼロ)」を混ぜた書き方です。
私も年賀状を縦書きにする場合、電話番号や住所表記に使います。ただ
し小説であっても西暦の年を表す場合は“二00八年”と書くでしょう。
しかし和暦なら“平成二十年”と書きます。
二 平
0 成
0 二
八 十
年 年
問題は、桁数が多くなるとどうするかです。“350000000円”
“三五0000000円”と書くのでしょうか。あるいは“3億500
0万円”“三億五000万円”はたまた“3億5千万円”と書くのでし
ょうか……。結局ここで“3”と“5”を漢数字にすれば“三億五千万
円”に落ち着きます。つまり桁が少なくても“三千五百円”と書いてい
れば一貫性があるというわけです。
今では見かけなくなりましたが、何年か前には冬になると国道沿いでこ
んな看板を見かけました。
┌───┐
│ カ │
│ ニ │
│ 一 │
│ 匹 │
│ 五 │
│ 0 │
│ 0 │
│ 円 │
└───┘
車で通り過ぎながら見ると「何がどれだけでいくらなの?」と思ってし
まいます。縦書きで漢数字を用い、しかも売りたいものが「カニ」で数
を「一匹」と一列に並べると、カタカナの「ニ」や単位の「匹」が漢数
字の「二や四」と見間違えてしまい、「214500」と映ったのを覚
えています(笑)。せめてこれなら一瞬で判読できたのに……。
┌─────┐
│ カ │
│ ニ │
│ │
│ 五 一 │
│ 0 匹 │
│ 0 │
│ 円 │
└─────┘
◆納得がいかないのが“P23”です(“23”は、同記事の(1)の“30分”
の例で示したように半角を一組にして90度回転した形です)。“23”を
ページを表す単位の“P”と組み合わせたところが、どうにも気になり
ます。
とはいうのも、これは台詞なんですよ。その人物は「P(ピー)23」と
言ったのだろうかと、疑問を抱きます。もし『表記は“P23”だが「二
十三ページ」と読んでほしい』が作者の意図なら、安易で軽率といわざ
るをえません。
一方『号泣する準備はできていた』は、私の見落としがなければ、算用数字
の使用はありません。“午前七時十五分”“十五歳”“三分の二ほど”“ワイ
ンを一、二杯”“千二百円”などすべて漢数字です。当たり前のことでしょう
が、小説家のポリシーを感じましたね。
──縦書きでも算用数字で表記。
《つづく》
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■算用数字と漢数字の扱い(1)
(2010年1月23日記事)