ノイズの中のトオル | 交心空間

交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

 1997年当時「親が子どものカバンなどに盗聴器を仕掛けていじめの実態を調
べる」という事象がありました。これをモチーフにFMシアター(NHK)の
ドラマ執筆依頼があったのが発想の始まりです。
 依頼を受けたとき「盗聴はテレビ的」だと思いましたが、結局盗聴している
親にしてみれば、受信機から聞こえるのは「音だけ」です。つまりそれは「ラ
ジオとして描く可能性と価値がある素材」といえます。さらに、ラジオドラマ
が台詞(音声)とSE(効果音)を駆使して、聴く人にイメージを膨らませて
いく世界であるのに加えて、ドラマ自体で、受信機から聞こえる内容によって
「登場人物自身もあれこれ想像していく」展開が描けたら、この作品はおもし
ろくなると考えました。
 キーワードは「盗聴・いじめ・子ども・親」の四つです。必要な登場人物を
考えると、盗聴器を仕掛ける親(父親・母親)、仕掛けられる子ども(小学生
?・中学生?・高校生?)がいます。それは男の子?・女の子?……そしてこ
れら三人といじめる側の生徒が登場し、ストーリーは、いじめの実態が親の仕
掛けた盗聴器で浮き彫りになり、いじめを解決してハッピーエンド……といっ
た感じでしょう。
 しかしそれでは素材に盗聴器を取り入れただけの「ありきたりドラマ」にな
り、ともすればドキュメンタリーっぽくなります。そこで閃いたのが「いじめ
の実態とは別に、もうひとつ親の知らない子どもの姿を表現してみたい」とい
うインパクト(惹き付け部分)のエピソードです。そして「いじめも乗り越え
て強く成長していく子どもの姿」を描くよう考えました……。どんなインパク
トかは、本編でお楽しみください。