茶柱が立つ | 交心空間

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◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

 ──あなたの家庭に「やかん」や「きゅうす」「茶筒」はありますか。


 若い人の家庭になるほど、やかんもきゅうすも、ましてや茶筒というものが
ないんですね。カップラーメンを食べたいと思えば、お湯はポットにある。お
茶を飲みたいと思えば、冷蔵庫にペットボトルのお茶がある。熱いお茶ならテ
ィーパックのものを湯呑みに入れてポットのお湯を注ぐ。ティーパックがない
と……。え~い、ペットボトルのお茶をポットに移して沸かしちゃえ。そんな
暴挙にでる人もいるようです。
 やかんに水を入れ火にかける。あとは邪道ですが、茶筒をポンッと開けて、
目分量ながらお茶っ葉をトントントンときゅうすに入れる。お湯をきゅうすに
注ぐ。入れた茶っ葉が少ないかなと思えば、軽くきゅうすを回してお茶の出を
よくして、きゅうすから湯呑みに注ぐ……なんてことはしないみたいです。
 つまりこれからの人は、『茶柱が立つ』のを見ることもなく、それで「今日
はいいことがあるかも」と話題にすることもなく、庶民のささやかな期待を味
わうこともなく生きてゆくのでしょう……。(侘)