創作道標『発想との出会い』 | 交心空間

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◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

 現実界の出来事がドラマの発想に繋がるときがあります。ただし問題はその
出来事をどう扱い、ドラマに活かしていくかです。次の記事を題材に創作にお
ける思考と作業の方向性を一案として紹介しましょう。


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自転車盗からお礼と謝罪「祖父の臨終 間に合った」 【中日新聞】


【岐阜】今月初め、可児市内で鍵がついたままの自転車を盗まれた市内の男性
に、後日犯人からとみられる手紙が届いた。鍵を同封し、自転車の所在を告げ
る内容。かなだけを使ったつたない文章で「お礼とおわび」に千円分の商品券
が同封されており、「自転車も戻り、温かい気持ちにもなった」と話す。
 男性は同市広見の無職太田鐸美さん(82)。今月五日夕、通っている近くの
病院で盗まれた。
 約五年間乗り慣れた自転車は、市内の清掃など社会奉仕を続けている太田さ
んには大切な交通手段。「新しいのを買わねばならんか」とあきらめかけてい
た四日後、手紙が届いた。自転車に名前と住所を書いていたため、それを見て
犯人があて名を書いたらしい。
 花柄の封筒にゾウの便せん三枚を使い「はいけい、かってにじてんしゃをも
っていってすみませんでした。でもおかげでグランパ(祖父)のりんじゅうに
はまにあうことができました」と、お礼が述べられていた。日系外国人のよう
にも読める署名もあった。
 自転車は手紙の内容通り可児駅の自転車置き場で見つかった。太田さんは
「乗り捨てせず、知らせてくるなんて今どき珍しい」と感心しきり。
 一方、手紙には「わたしがいうのもなんですが、じてんしゃにはカギをかけ
とくほうがいいですよ」とちょっぴりあきれた苦言も。苦笑いの太田さん。
「これからは必ずかけます」
             【2007年7月27日 中日新聞(小川邦夫)より】
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 ──悪事でありながらも温かみのある出来事です。


 今の時代が「何を求めているか」を考えると、このように「優しさとの出会
い」や「和みの方向性」をもった話題は注目される可能性があります。脚本を
書く人なら、含まれたドラマ要素に敏感に反応してほしい瞬間です。
 ただこれだけでは「5分のお話」にしかなりません。しかも感動をもたらす
ための人物像や、それを肉付けする背景が見えない以上、「ちょっといいお話」
止まりです。


 ──記事との出会いは「発想の始まり」にすぎません。


 ドラマは虚構の産物です。出来事が現実だからといってその事実に拘る必要
はありませんし、脚本にする以上この事実だけでは材料不足です。したがって
作者の『想像力と創造力』が必要となります。


 ──ではどう考えるか。


                             《つづく》