小説『 人形と悪魔 <約束の章> 第四節 』 | SKILLARTGALLERY

小説『 人形と悪魔 <約束の章> 第四節 』


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■作品タイトル
『 人形と悪魔 <約束の章> 第四節 』

■作者
AZL

■スキルアート
小説

■作品
孫の記憶を探し求めて更に数ヶ月以上が経過したある日、
最後の最後におじいさんの家族が住む家にやってきました。

悪魔が言うには、孫の記憶を1番多く持っている家族から
譲り受けるのが一番良いらしいのです。

おじいさんは少し悩んだ末に自分の記憶はどうかと
悪魔に聞きますが、それでは約束の意味がないとそれを拒みます。
おじいさんは悪魔の言っている事がよくわかりませんでしたが、
家族が未だに深い傷を心に抱えている事を知っていました。

孫が蘇れば家族もきっと喜ぶと考えたおじいさんは悪魔に
家族の記憶も差し出します。

これで3つの条件が揃いました。

嬉しくなったおじいさんは居ても立ってもいられずに
すぐに自分の家に引き返します。
おじいさんは女の子が待っている部屋の扉を急いで開きます。

しかし、そこでおじいさんが見たものは
元気な孫娘の姿では無く、そこにあったのは彼女の変わり果てた姿でした。

おじいさんが孫の記憶を求めて費やした時間の中で
女の子の体は朽ちてしまっていたのです。

骨と衣服だけになった彼女からは強い死の匂いが漂っていました。

訳がわからなくなったおじいさんは、
事情を悪魔から聞こうと粗末な人形に話しかけます。

しかし、何度話しかけても人形からは返事がありません。

そうです、もうそこに悪魔はいませんでした。
おじいさんは悪魔に騙されたのです。

死んだ人間は生き返らない。

悪魔は最初からおじいさんを利用していました。
自分の力を大きくする為に人間の記憶が必要だったのです。

孫に会える。

その一心で頑張ってきたおじいさんは、孫が亡くなった時以上に落胆してしまいました。
そしてその悪魔はそれきり二度とおじいさんの前に現れる事はありませんでした。

孫の亡骸を再び棺桶に戻すと、おじいさんは街に出掛けます。
向かった先は長らく顔を出していなかった酒場でした。
酒場で孫の写真を眺めながら思い出に浸り、お酒を何杯も飲み続けます。

酔いがまわってきた頃、声をかけてくる他の客が1人いました。
おじいさんがその手にしている女の子の写真を覗きこむとその写真は
誰のものかと聞かれました。

おじいさんはお酒の性で意識は朦朧としていましたが、何か違和感を感じます。
よくよく声をかけてきた人物の顔を見てみるとおじいさんの家の近くに住む友人でした。
当然、孫娘とも知り合いで一緒に話もした事があります。

おじいさんは嫌な予感がしました。
大急ぎで隣の街にある家族の元を訪れます。

おじいさんの予想は的中します。
血の繋がっている家族の誰1人として、
女の子の事を覚えてはいなかったのです。

おじいさんは必死に手に握られている写真を家族や街行く人に押しつけて
写真に写っている子が誰なのかを問い詰めます。
何人もの人に同じ質問をしますが、返ってくる答えはみんな一緒です。

そんな女の子知らないよ?

おじいさんと悪魔が費やした時間はひたすら
孫娘が生きた足跡を消すだけのものでした。

孫の事を覚えているのはもうこの世ではおじいさんだけです。



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