SPIDER
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
音楽:ハワード・ショア
主演:レイフ・ファインズ、ミランダ・リチャードソン、ガブリエル・バーン、ブラッドリー・ホール、リン・レッドグレーヴ、ジョン・ネヴィル
2002年フランス/カナダ/イギリス映画

 

 



平日の過去記事アーカイブシリーズ・・・




 

ダークで陰影な雰囲気のあるクローネンバーグ作品の中にあって、
恐らく最もダークで地味~なサイコ・サスペンス。
統合失調症の男性が抱える不安や苦悩、出口の無い深い闇のような世界をビジュアルで表現したような作品で、
あまりに地味な展開のお話なので、世間の評価は低そうですが、僕はかなり引き込まれました。
精神養護施設を退院した男性が、20年振りに実家のある街に戻り、そこで患者の社会復帰を助ける夫人の家に身を寄せます。
そこで男は自分の少年時代の出来事の数々に思いを馳せ、ノートに思い浮かぶことを書き綴っていく・・・というお話。
主演の3人の演技が素晴らしく、特に1人3役(母親と娼婦、さらに途中から管理人にも入れ替わる)を演じ分けるミランダ・リチャードソンはスゴイ。
レイフ・ファインズも主人公になりきって演じる姿が素晴らしい。
カメラも色調を押さえてあり、薄汚れて暗くジメ~っとした世界が延々と続いて、息苦しさすら覚える中で、知らないうちにオチにつながって映画が終わってしまいますが、
ダークな中にもなんとも言えない「美」をたたえた作品だと思います。
ただ、統合失調症の主人公の視点でお話が進んでいくので、
不条理であったりつじつまが合わないことはザラで、一度観ただけでは分かりづらい部分もあり、二度観することをオススメします。






 

 

 

 

音楽は、クローネンバーグ作品の常連、ハワード・ショア。
クローネンバーグ作品での彼は、常にダークで陰鬱な音を貫いています。
これが「ロード・オブ・ザ・リング」、「ビッグ」等を手がけた人と同一人物だとはとても思えません。
本作品のスコアはクローネンバーグ作品の中でも1、2を争うダークなスコアです。
しかも、今回は演奏にクロノス・カルテットを起用しています。
この人たちの演奏はただでさえ「影」を感じる独特の雰囲気があるのですが、
これがショアのダークサイドと化学反応を起こして、人間の深層心理に潜む深い闇を見事に表現したような音になっています。
カルテットなので小編成の弦楽器で演奏されますが、シンプルなピアノと弦楽器の絡みが冷淡なイメージを感じさせます。
CD単独で聴くには決して面白いスコアではありませんが、本編を知っている人には「聴ける」スコアだと思います。

 

 

アルバムのオープニングに収録されている歌モノ「Love Will Find Out The Way」が、かなり浮いて聞こえます。
コマーシャリズムとは無縁の世界の作品で、

フランスでのみ発売されたサントラもとっくに廃盤になっていると思いますが、奇妙な味わいのあるサントラです。




・・・と、ここまでが過去記事。

サントラはずっと廃盤のままで、現在ではしっかりプレミアがついています。

恐ろしく地味なサントラですが、こういうアルバムこそ売れ残りを気にせず販売できるダウンロード版を出して欲しいなあ。