拍手小話からの移動です。加筆修正しています。
前中後編でしたが、手直しで文字数がどうなるのかわからないので、ナンバリングに変更しました。1話増えるだけで済んでヨカッタです!( ̄▽+ ̄*)
風が吹くとき 1 / 2 / 3
なんとなくな小話
風が吹くとき 4
この仕事は候補に上がった3人の俳優の誰にとっても良い話だと言える。
それなのに、1番その役に相応しいであろう自身の担当俳優が真っ先に、それも当然の様に候補から外されていく様子に、マネージャーである社は待ったをかけた。
マネージャーとしては是非とも受けたいと思う仕事なのに、うんともすんとも言わない当事者である筈の蓮にも、少し強めの口調で確認をとる。
しかし、社長であるローリィの返答は冷たいものだった。
「フン!やる気がない蓮より、喜んで受ける高野が適役だろぉが!」
確かにやる気がない奴に渡すには勿体なさすぎる仕事である。自社の社長から呆れた様な視線を送られているのに、何の反応も返さない蓮に、流石の社も焦りを覚えた。
「そ、それはそうですが……蓮、おい!!黙ってないで、なんとか言え!」
その声により、この場に意識を引き戻された蓮は、自分を出迎えた周囲の視線の冷たさによって、今は迷っている場合などではないことを痛感させられた。
───この話の中から弾き出されたのは、自分の態度がハッキリしないことが原因なのはわかっている。
お膳立てしてもらった風にさえ、飛びこむことを躊躇してしまう臆病な自分が悪いのだ。
だが、キョーコから何の期待もしていないかの様に振るまわれたことで、決断せねばならない場である関わらず、しっかり凹んでいた蓮は、すっかり自分の世界に閉じこもってしまっていた。
そして、気がつけば四面楚歌……。
いや、正確に言えば、一人は味方である。
彼のマネージャーである社だけは彼がこの役を受けることを望んでくれている。しかし、すでに彼に頼ることで好転するような状況ではなくなっていることは、自身の世界から出て来たばかりの蓮にもわかった。
───追いつめられた蓮が出来ることは、ひとつだけだった。
その場で深く頭を下げ、声を張り上げる!
「ハッキリしないで、すみません!!是非、俺にやらせてください!!お願いします」
「最初からそう言いやがれっ、このどヘタレがっ!ま、仕方が無いな。最上君、蓮で我慢してくれ!」
シレッとした顔でそんなことを告げたローリィの様子に、思わずキョーコは吹き出してしまった。
(どヘタレ!?我慢!!笑っちゃ駄目よ、キョーコ!!)
「ぶふっ!!」
顔を上げた蓮の少し恨めし気な、拗ねたような視線を受け、口元を必死で押さえたが、蓮以外の人間がすべて笑いだした為、そこからキョーコも大爆笑の渦に巻き込まれてしまったのだった。
ここから先は皆大忙しであった。
オーディションの為の渡米を可能にするべく、ローリィや松島がスケジュール調整に奔走した。
社はあちらでの撮影期間である1か月(キョーコは主要キャストなので2か月)を確保するため、大忙しだ。
蓮も普段以上に仕事に追われることになってはいたが、それでも、準備の為の時間は仕事ができる大人達により確保してもらっていた。
僅かではあるが捻り出してもらったその時間に、キョーコと写真を撮り、キョーコと相談しながら、役柄を作っていく蓮。
キョーコのおかげでハリウッドへの挑戦権を得た蓮は、挑戦すると決めたあとも、不安げな様子を見せてはいたが、それはほんの僅かな時間で済んだ。
足踏みするだけの時間がなかったことも幸いしたのだろうが、蓮を勇気付けたのは、やはりキョーコの存在だった。
蓮のオーディションの準備は、キョーコの役に付属する新しい役ということで、キョーコと二人三脚で進めることになったのだが、お互い多忙な身だ。
皆の協力で絞り出してもらった準備期間だけでは時間が足りず、蓮の自宅にキョーコが泊まり込むことで足りない時間を補うことになった。
それは、恋する男、蓮の勇気が100倍になっても不思議ではない程、短くも濃厚な時間となった。
そして、彼は気付いた。
キョーコと一緒にハリウッド(再)デビューするということがどういうことであるかを。
キョーコにオンでもオフでも(?)ベタベタできる設定。
(きっとホテルの部屋も隣同士とかで、24時間一緒に過ごすことになる!)
あんなに決断を渋ったにも関わらず、妄想も欲望も絶好調で成長中である。
おまけに、今回の役柄は、秘密を持つ彼としては大変有り難い設定であった。
カミングアウトせずとも敦賀蓮として挑めるのだから。
よくよく考えれば、この話は、蓮にとっては美味しいことだらけの話だったのだ。
自力ではなく、キョーコが起こしてくれた風に乗せてもらうことを少々恥ずかしく思っていた蓮だが、なんやかんや言っても……たとえ過去の苦しみにより今まで表にでることがなかったしても、蓮の根っこは陽気で楽天的なアメリカンなのである。
あちらで実力を発揮して認められれば何も問題はないと、あっさりと開き直ることにも成功していた。
(最上さんを一人で行かせて、馬の骨に攫われることを考えたらっ!!)
男として、俳優としてのプライドを大事にしているうちに、キョーコを失う羽目になるなんてまっぴら御免なのだ。
───それに……と思う。
(あっちで少なくとも1か月は同じ屋根の下で暮らせるんだし、その間に最上さんと……)
オーディションに無事合格し、クランクインに向け渡米を果たした時の彼の目標が、ハイウッドで俳優として成功する!ではなく、キョーコを恋人にする!にすり替わっていたのは、マネージャーの社氏のみが知る、ちょっぴり悲しい秘話となるのであった。(でも、そのせいでハリウッド挑戦への気負いは消えた模様)
風が吹くとき。
人はその風に乗って、思いがけない成長を果たすことが出来る。
fin
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前中後編でしたが、手直しで文字数がどうなるのかわからないので、ナンバリングに変更しました。1話増えるだけで済んでヨカッタです!( ̄▽+ ̄*)
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なんとなくな小話
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この仕事は候補に上がった3人の俳優の誰にとっても良い話だと言える。
それなのに、1番その役に相応しいであろう自身の担当俳優が真っ先に、それも当然の様に候補から外されていく様子に、マネージャーである社は待ったをかけた。
マネージャーとしては是非とも受けたいと思う仕事なのに、うんともすんとも言わない当事者である筈の蓮にも、少し強めの口調で確認をとる。
しかし、社長であるローリィの返答は冷たいものだった。
「フン!やる気がない蓮より、喜んで受ける高野が適役だろぉが!」
確かにやる気がない奴に渡すには勿体なさすぎる仕事である。自社の社長から呆れた様な視線を送られているのに、何の反応も返さない蓮に、流石の社も焦りを覚えた。
「そ、それはそうですが……蓮、おい!!黙ってないで、なんとか言え!」
その声により、この場に意識を引き戻された蓮は、自分を出迎えた周囲の視線の冷たさによって、今は迷っている場合などではないことを痛感させられた。
───この話の中から弾き出されたのは、自分の態度がハッキリしないことが原因なのはわかっている。
お膳立てしてもらった風にさえ、飛びこむことを躊躇してしまう臆病な自分が悪いのだ。
だが、キョーコから何の期待もしていないかの様に振るまわれたことで、決断せねばならない場である関わらず、しっかり凹んでいた蓮は、すっかり自分の世界に閉じこもってしまっていた。
そして、気がつけば四面楚歌……。
いや、正確に言えば、一人は味方である。
彼のマネージャーである社だけは彼がこの役を受けることを望んでくれている。しかし、すでに彼に頼ることで好転するような状況ではなくなっていることは、自身の世界から出て来たばかりの蓮にもわかった。
───追いつめられた蓮が出来ることは、ひとつだけだった。
その場で深く頭を下げ、声を張り上げる!
「ハッキリしないで、すみません!!是非、俺にやらせてください!!お願いします」
「最初からそう言いやがれっ、このどヘタレがっ!ま、仕方が無いな。最上君、蓮で我慢してくれ!」
シレッとした顔でそんなことを告げたローリィの様子に、思わずキョーコは吹き出してしまった。
(どヘタレ!?我慢!!笑っちゃ駄目よ、キョーコ!!)
「ぶふっ!!」
顔を上げた蓮の少し恨めし気な、拗ねたような視線を受け、口元を必死で押さえたが、蓮以外の人間がすべて笑いだした為、そこからキョーコも大爆笑の渦に巻き込まれてしまったのだった。
ここから先は皆大忙しであった。
オーディションの為の渡米を可能にするべく、ローリィや松島がスケジュール調整に奔走した。
社はあちらでの撮影期間である1か月(キョーコは主要キャストなので2か月)を確保するため、大忙しだ。
蓮も普段以上に仕事に追われることになってはいたが、それでも、準備の為の時間は仕事ができる大人達により確保してもらっていた。
僅かではあるが捻り出してもらったその時間に、キョーコと写真を撮り、キョーコと相談しながら、役柄を作っていく蓮。
キョーコのおかげでハリウッドへの挑戦権を得た蓮は、挑戦すると決めたあとも、不安げな様子を見せてはいたが、それはほんの僅かな時間で済んだ。
足踏みするだけの時間がなかったことも幸いしたのだろうが、蓮を勇気付けたのは、やはりキョーコの存在だった。
蓮のオーディションの準備は、キョーコの役に付属する新しい役ということで、キョーコと二人三脚で進めることになったのだが、お互い多忙な身だ。
皆の協力で絞り出してもらった準備期間だけでは時間が足りず、蓮の自宅にキョーコが泊まり込むことで足りない時間を補うことになった。
それは、恋する男、蓮の勇気が100倍になっても不思議ではない程、短くも濃厚な時間となった。
そして、彼は気付いた。
キョーコと一緒にハリウッド(再)デビューするということがどういうことであるかを。
キョーコにオンでもオフでも(?)ベタベタできる設定。
(きっとホテルの部屋も隣同士とかで、24時間一緒に過ごすことになる!)
あんなに決断を渋ったにも関わらず、妄想も欲望も絶好調で成長中である。
おまけに、今回の役柄は、秘密を持つ彼としては大変有り難い設定であった。
カミングアウトせずとも敦賀蓮として挑めるのだから。
よくよく考えれば、この話は、蓮にとっては美味しいことだらけの話だったのだ。
自力ではなく、キョーコが起こしてくれた風に乗せてもらうことを少々恥ずかしく思っていた蓮だが、なんやかんや言っても……たとえ過去の苦しみにより今まで表にでることがなかったしても、蓮の根っこは陽気で楽天的なアメリカンなのである。
あちらで実力を発揮して認められれば何も問題はないと、あっさりと開き直ることにも成功していた。
(最上さんを一人で行かせて、馬の骨に攫われることを考えたらっ!!)
男として、俳優としてのプライドを大事にしているうちに、キョーコを失う羽目になるなんてまっぴら御免なのだ。
───それに……と思う。
(あっちで少なくとも1か月は同じ屋根の下で暮らせるんだし、その間に最上さんと……)
オーディションに無事合格し、クランクインに向け渡米を果たした時の彼の目標が、ハイウッドで俳優として成功する!ではなく、キョーコを恋人にする!にすり替わっていたのは、マネージャーの社氏のみが知る、ちょっぴり悲しい秘話となるのであった。(でも、そのせいでハリウッド挑戦への気負いは消えた模様)
風が吹くとき。
人はその風に乗って、思いがけない成長を果たすことが出来る。
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