「ちょっとシャワー浴びてくるわ」
そう言ってザラキエルはボロボロの部屋の中をかき分けて
シャワールームへと向かった。
ロイは買って来た種を撒きにベランダへと向かった。
何粒かジャスミンとは形の違う種を見つけたが気のせいだと思い、
そのまま一緒にばらまいた。
ひとり部屋に残され三角座りをし、ぼーっと座るロイ。
「お前の愛称はロイでどうだ?」
ザラキエルのそんな言葉を思い出していた。と同時にさっきの買い物でザラキエルが全ての支払いをカードで払っていたのを思い出した。部屋のリフォーム代も確かカードと言っていた。
もしかして……
ロイはやな予感がした。
まさか……先の事を考えずに何でもカード払いをしているのではないのか?”
”胸毛の濃い人間は、ガサツなやつが多い”というのがロイの持論だ。
その持論が正しければ、もしかして、ザラキエルはカードを
”タダ無駄使い”
しているだけなのでは?
慌てて郵便受けを覗きに向かう。するとそこには思った通りイブスから催促状と書かれた封筒が入っている。ロイは慌てて封を切った。
まるで呪文のような明細の羅列、支払いは 157万ポンド。
ロイはおちついてもう一度見た。
157万ポンド!?いや待てそんなはずは無い、そもそも限度額があるはずだ!慌てて明細を再度確認。
最初に目に入ったなぜか1万ポンド(日本円で約15万円)の会費の請求。
どういう事だ?書面裏にある新聞以上に細かい契約内容を確認すると、会費が1万ポンドとあった。内容は限度額無しのキャッシングとある。パサと落ちたチラシにカードを右手に戦車に寄りかかるビジネスマンの姿。戦車も買えるステータスカード、【イブス】。マジか……ロイは呆然とした。やめさせないといけない……慌てて更に詳細を確認する。すると今月の引き落としまで期限が4日ある。
ロイは現状確認、そして何よりカード解約のため慌ててカード会社に問い合わせた。
プープーっ
(はい!イブスカードです。
こちらは音声案内になっています
今からお知らせする1~9の番号に……、)
長い道のりをロイは察した。
3番をおせ!
1番!
7番!
6番!
又1番!
長い攻略が続く、しかも世界カードだけにいちいち2言語で音声案内が出る。
その間にも正直解約を言うのに、色々と理由は聞かれるのではとロイは心配をしていた。
(ではオペレーターにお繋ぎします)
プープーっ
「はいお待たせしました、どうされましたか?」
やっと繋がった。ロイは今回の経緯を説明し取り急ぎカードの会費請求だけでも止めるために解約手配を依頼した。
すると電話口でオペレーターが質問をしていた。
「今回お電話頂いているのはザラキエル様ご本人様でしょうか?」
ここまでたどり着くのに10分は掛かっただろうか。ロイは素直に
「はい……」と答えた。
その後解約手続きは、あまりのスマートな対応に感動をする流石最高と歌われるステータスカード【IVES】。
お金に余裕が出来たら俺もこのカードを作るか、一瞬ロイにも魔の囁きが聞こえた。
「それではこの電話をお切りになった時点で契約は解除になります、長い間ありがとうございました」
「じゃあとりあえず、会費の請求はこれで終わりだな?」
ロイは電話を切ろうとしたすると電話の先のオペーレータが
「ところで残ったポイントをどうしましょうか?」と言って来た。
「ポイント?」
「はい、今111906ポイントあります、1ポイント1ポンドとお考え下さい」
ポイントが残っていた……。
有効ポイント111906ポイント、いやポンド!
結構マジにたまっている。
流石のロイもこれを捨てるのはもったいないと感じオペーレーターに質問をした。
「このポイント今すぐ使えるのか?」
「はい、ただその場合、一度ポイントを使って頂いた後、改めてご連絡を頂ければと思います」
彫刻のように美しいロイの顔が情けなく延びているのを誰にも見られなかった事が唯一の幸運だったのではないだろうか。
ロイは力なく肩を落とし一旦電話を切った。
〈欲しくない物を買わないといけない〉
157万ポンドの負債を抱えた上で111906ポンドの無駄遣いをザラキエルがシャワーから出るまでにしないと行けない。
正義とは明日証明されるもの、正にこれが正しいのかどうかは今のロイには分からない。
ただ、前を進む事が未来を引き寄せる。
ロイは早急に何か買う物を探した。
まさかこんな夜中に111906……10万ポンド以上の無駄使いをしないといけないとは想像もしていなかった。
とりあえず、ネットでカード会社のポイント商品一覧を見る。
残念ながら、欲しい物はなかった……。
だが今10万ポンド使わないと4日後には1万ポンドの請求。それ以前に10分もすればザラキエルがシャワールームから出てきる。
ロイの必死のネットショッピングがはじまった。
そのころシャワールームではザラキエルが胸毛をゴシゴシと念入りに洗っていた。
「あっ抜けた」
真面目に擦り過ぎで何本か毛が抜けたようだ。ザラキエルはそれを残念そうに見つめている。
胸毛は男の装飾品、ネックレスみたいな物だとザラキエルは考えていた。
それだけにちょっと残念だったのだろう。
そこに一筋の光がザラキエルの目に入った。
逆光に目を覆った。
「今回のアダモの調子はどうだ?」
光の中より突然現れたのはミカエルだった。
「どぅわっ!!」ザラキエルは思わず仰け反った。
「お前、マジか!出るタイミング考えろよ!」
狭いシャワールームに裸の胸毛と、タキシードの男が向き合っている。
ミカエルは言った。
「君に届けたアダモは先日のリヴァイアサン戦の生き残りだ。中々腕が立つと期待してるよ」
そう言ってミカエルは神に等しい笑顔を見せた。
それを聞き、ザラキエルは言った。
「ふっそれは違うな~」
「何がだい?」
ガラス越しにザラキエルは親指を部屋の外に向けて言った。
「このアダモの名はロイ」
「ロイ?」
「そうだ、人のように笑う事を知ってるアダモだ」
次回






