Michaelのblog
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久しぶりだね。

早速だがギャラリーエルシャダイのスタッフから投稿が

あったので紹介するよ。

 

 

 

 

ミカエル様

 

こんにちは!

ギャラリーエルシャダイのスタッフです!

 

 

 

今日は見ていただきたいものがございまして、

アナザーエルシャダイとしてエントリーさせてください!

http://www.crim.co.jp/crim/another.html

 

 

 

ただいまギャラリーエルシャダイでは「ふわふわのくま展」を開催しております。

http://elshaddai.jp/gallery/galleryspace/007.html

 

 

もっと「ふわふわのくま展」のことを皆様に知っていただきたい。

 

そして、「ふわふわのくま展」にすでにいらっしゃった方もまだの方も、

もっともっとふわふわしてほしいと思いまして、

応援動画を作成させていただきました!

https://www.youtube.com/watch?v=xOOcyg418a0&feature=youtu.be

 

 

初めて作った動画ですのでいろいろと拙いところ、お見苦しいところなどがあるかと思いますが、どうぞよろしくおねがいします!

 

 

また、個人的に作らせていただいたいわゆるファンアートのような動画ですので、

双方の公式の設定、世界観などに準じていない部分などあるかと思いますが、どうぞご容赦願います。

 

 

ストーリーは、ふわふわのくまさんが神の使命を受けて、ギャラリーをふわふわにするというお話です。

 

 

今回、動画制作にあたり、ご承諾、ご参加いただきました

ふわふわのくまの作者の原田みどり様、まっくろくろいの様、熾天使ミカエル様(湯口和明様)

本当にありがとうございました!

 

 

ふわふわのくま展 5月1日まで開催しております!

皆様のご来店お待ちしております!

 

 

 

ミカエル様、

いつも見守っていただきまして、ありがとうございます!

 

 

 

なるほどね、色々と私が天上界での仕事に追われている間にも

活動をしてくれているんだね。

感謝してるよ。これからもその調子でよろしく頼むよ。

今日も最後まで読んでくれてありがとう。

やあ、久しぶりだね。

だいぶご無沙汰しているが何事もなかったように更新するよ。

今日は書記官 「すなまんじう」からの投稿だ。

以下本人からのメッセージだ

ミカエルさんこんにちは。

お久しぶりです!

 

 

「アートテラリウム」ならぬ、「アートセタリウム」を作ってみました!

 

今回は、私がエルシャダイの中で特に大好きなモチーフの「"セタ"と"知恵の実"」にしてみました。

 

ちょっと小さくてわかりにくいかもですが・・・もっと精進してまいります!

(セタ本体、知恵の実もどちらも高さ9㎜程度です)

 

 

 

遅くなりましたが、「The Lost Child(ザ・ロストチャイルド)」の発売&ご出演おめでとうございます!

 

「またゲームでお姿を拝見できる機会があるなんて...///」と

驚きと喜びで胸がいっぱいになりました!

 

 

ミカエルさんは前にブログで、

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

 

メッセージに答えます22 

2011年09月08日

 

https://ameblo.jp/sitensimichael/entry-11009272945.html

 

君たちが望めば、いつか私の声を届ける機会が得られるかもしれないよ。

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

とおっしゃっていましたね。

 

 

 

私もずーっと望んでいた一人です。

 

ゲーム「エルシャダイ」のミカエルさんのいかにも上位の天使らしいセリフと美しくステキなお声に

すっかり心を魅了されてしまった私は、今回また新たなお話しとお声を聴くことができて、

願いがかなって、とても嬉しく幸せです///

 

 

 

そして本日、11月21日は、ミカエルさんと同じ声をお持ちの

湯口 和明さんのお誕生日のようです♪

 

 

湯口さん、お誕生日おめでとうございます~!!

 

 

もっとミカエルさんのお声が聴けることを、

益々のご活躍を心から願っております。

 

 

なるほどね、湯口くんは今年で幾つになったのかな?

私の存在をこの世で定義してくれていることはいつも感謝しているよ。

お祝いというわけでもないが、来年もまた君にとって有意義な一年であるように

私からも神に進言をしておこう。

今日も最後まで読んでくれてありがとう。

それではまた。

 

4.ガリレオの憂鬱

 

 ロメオは、扉の前に呆然と立ちすくんでいた。両手に抱えた大量の資料が今にも落ちそうになっているが、気にかける様子は全くない。扉の向こうから聞こえる話し声に、食い入るように耳を傾けている。

 やがて、扉の向こうから聞こえてきたのは、聞き覚えのあるフレーズだった。

<イエス>

 ロメオは再び戦慄した。

 間違いない。扉の向こうでは、今まさに悪魔の能力が使われている。

 ロメオがそう確信したときだった。両手の資料が腕をすり抜け、勢い良く床にばらまかれた……

 

 

 異端審問対策ミーティングから13日後、ロメオは再びガリレオの教授室へ向かっていた。ロメオは、ガリレオの命を受けて太陽の観測を行っており、今日はその定期報告を行うことになっていたのだ。

 しかし、道中、ロメオの足取りは重かった。それは、両手に抱えた大量の研究資料のせいではなかった。

 ——悪魔と契約したのは、自分のボス、ガリレオ・ガリレイ教授かもしれない——

 あのミーティングで、ロメオは悪魔の能力が使われるのを目の前で見た。ガリレオの目の奥が怪しく光り、側近のカステリに<イエス>と言わせるのを目撃したのだ。だが、それが本当に悪魔の能力なのか、ロメオは確信が持てなかった。カステリがただボスであるガリレオの圧力に負けただけなのかもしれなかったからだ。ロメオはイングランドから来たというあの怪しい男が再び現れるのを待っていた。彼に話して、真偽を確かめたかった。しかし、男は一向にロメオの前に姿を現さず、ただ闇雲に時が過ぎていった。

 ガリレオの秘書に指示されて、ロメオは一人教授室へ入った。長いテーブルが置かれている教授室には、今日は誰もいない。奥に飾られたガリレオの肖像画が、不気味にほくそ笑んでいるだけだ。ガリレオの執務室は、肖像画の下の少し奥まったところにあり、わずかに灯りが漏れている。今日はカステリが先に執務室に入ってガリレオと打ち合わせをしているらしい。ロメオは、灯りの方へと足を進めた。

 執務室が近づくにつれ、中の声が漏れ聞こえてくる。内容までは分からないが、ガリレオとカステリの会話らしきものが聞こえる。どうやら扉が少し開いているようだ。

 と、突然、はっきりとした声が響き渡った。

「この役立たずめ! あれから何日経っていると思うんだ!?」

 ガリレオの声だ。どうやらカステリを責め立てているらしい。ロメオには経験はないが、ガリレオは機嫌が悪いときによく声を荒げる、という話を聞くことがある。特に今は異端審問の件でかなり苛立っているのだろう。その矛先が不幸にもカステリに向けられているようだ。

「申し訳ございません。ローマまでの道のりは遠く、使者が戻るには、今しばらくのお時間が必要かと……」

「ふん! そんなことわかっとるわ! それを何とかするのが君の仕事だろう!」

 どうやらガリレオは、ローマのバルベリーニ卿とのアポイントが未だ取れていないことに腹を立てているらしい。

「本当に申し訳ございません……」

「何が申し訳ございませんだ! 僕は君に謝れと言ってるんじゃない。なんとかしろと言ってるんだ!」

「……」

 ガリレオの怒りは収まらず、カステリはかなり萎縮してしまっているようだ。扉越しにもピリピリした雰囲気が伝わってくる。ロメオはカステリを気の毒に思った。(こんなに怒鳴られてしまっては、何も言い返すことはできないだろう……)やはり、先日の異端審問対策ミーティングでの<イエス>は、悪魔の能力などではなく、ただのボスに対する<イエス>だったのかもしれない。いやきっとそうだ。ガリレオは悪魔と契約などしてはいない。カステリはただボスを恐れてイエスマンとなってしまっているだけなのだ。ロメオはそう思うことにした。そう思うことで、心を落ち着かせたかった。

「どうせ君は、自分の研究ばかり進めていたんだろう?」

 ガリレオの叱責は執拗に続く。

「なんだったかな、君が今取り組んでいる研究は……」

 カステリはガリレオの右腕と言われているだけあり、非常に優れた研究者でもあった。ガリレオからは独立して多くの論文を発表しており、現在は海の満ち引きについての研究を行っていたはずだ。

「海の満干と大地の回転に関する報告、でございます」

「それはどれくらい進捗しているんだ?」

 ロメオはなぜか胸がざわつくのを感じていた。同じような会話をどこかで聞いたことがあるような気がしていた。

「ほぼ完成しておりまして、近々教授のご意見を賜りたいと考えておりますが……」

「そうか……だったら……」

 胸のざわつきが増してきた。頭の奥の方に封印されていた記憶が蘇りつつあった。ロメオは、衝動に駆られたように扉に近づき、隙間から部屋の中を覗きこんだ。

 カステリの背中が見えた。肩を落とし、うなだれたように立っている。そして、デスクを挟んだ向こう側にガリレオが座っていた。革の椅子に深く座り、カステリを睨みつけている。

「じゃあ、その研究、僕にくれない?」

 突然のガリレオの言葉に、カステリはうなだれていた首を起こし、唖然とした様子でガリレオを見直した。

「……どういう意味でしょうか、それは……」

「ん? 君は言葉も理解できないのか? 君のその海のなんとかって言う研究を、僕の名前で発表するって言ってるんだよ」

 ロメオは記憶の底にある何かをつかもうとしていた。カステリの気持ちが手に取るようにわかった。ロメオは確かに、同じ場面を経験していた。

「まさか、本気でおっしゃっているのですか? あの研究は、この3年間、私が……」

「あーもうわからん奴だ。カステリ君、その研究は、誰の研究だい?」

 ガリレオの瞳の奥が怪しく光った。

「僕だよね?」

 カステリはガクリと膝を落とし、虚ろな声で応えた。

「イエス」

 ロメオの体を戦慄が走った。

「ククククク……そうだろう? カステリ君。いかんよ、勝手に僕の研究を横取りしちゃあ」

「もうしわけございません」

 間違いない。ガリレオは悪魔と契約し、その能力を悪用している!

 そして、こうしてガリレオが他人の研究を奪い取るのは、初めてのことではない。そう、ロメオは思い出した。自分もまた研究を奪われた者の一人だということを!

 

<バサリ>

 

 ロメオが両手に抱えていた大量の資料が、勢い良く床にばらまかれた。

「だれだ!?」

 物音に気づいたガリレオが声を上げる。

 ロメオは散らばった資料を拾おうともせず、唖然と立ち尽くしていたが、やがて決意したように口元を固く結び、扉を開けた。自らのボスを直視するその瞳には、強い意志が宿っていた。

「むう? 君は確か……」

 ガリレオは目を細めた。

「お忘れでしょうか、教授。観測主任のロメオ・モンタギューです」

「ああ……ロメオ君か。今日は何の用かな? 新しい研究の報告かい?」

 ガリレオは髭をしごきながら、警戒するような目でロメオを見つめている。

 ロメオはガリレオを直視したまま足を進め、ゆっくりと近づいていった。

「教授、今のは一体、どういうことでしょうか……」

 ロメオの声は怒りで震えていた。

「なんだい? 何かおかしいことでもあったかね?」

 ガリレオはとぼけたように首をかしげた。

「何もないよねえ? カステリ君」

「イエス」

 カステリは膝をついたまま、生気の抜けた目をしている。完全にイエスの能力により骨抜きにされてしまっているようだ。

「ほうら、カステリ君もこう言っているだろう」

 ガリレオはロメオを挑発するような表情で笑っている。ロメオは拳を握りしめ、歩み寄る足を早めた。

「しかし、盗み聞きとはなんとも無礼な男だ……君は罰を受けなければならないようだね」

 ちょうどカステリの横まで来たところだった。ガリレオはニヤリとほくそ笑み、瞳の奥を怪しく光らせた。

「土下座して謝りなさい」

 膝がガクリと折れ、ロメオは膝立ちになった。

「イエス」

 反射的にロメオはそう応えていた。それは完全に自らの意志に反した言葉だった。さらに追い打ちをかけるように、勝手に膝が折れ、両手のひらが地面についた。

「そうだ、それでいい。さあ、謝罪の言葉はどうした?」

 いつの間にか、ガリレオがロメオの前に立っていた。ロメオの意志は懸命に抵抗をしていた。が、どうしても体が言うことをきかない。それどころかロメオは額を地面にすりつけ、思いもしない言葉を口にしていた。

「たいへん……もうしわけございません……どうか……おゆるしくださいませ……」

 ガリレオはニヤニヤしながらロメオを見下ろしていた。

「おや? 君は面白いところに痣があるねえ」

 首筋の痣を見つけ、ロメオの襟元をめくり上げる。

「ククク……この下賤の者め……こんなことで罪が許されると思っているのかい?」

 ガリレオは汚れたものでも見るような目つきでロメオを見下した。

 ロメオは今まで感じたことがないほどの強い憤りを感じていた。全身の血が逆流するような、強烈な恥辱感だった。しかし、体は言うことをきかず、地面に突っ伏していることしかできなかった。

「そうだ!」

 ガリレオはふと、いたずらを思いついた子供のような顔をして笑い、右足をすっと前に出した。

「ほら、これを舐めてごらんよ」

 地面に伏せたロメオの顔の前に、ガリレオのうす汚い靴が置かれた。

「ほうら、僕の靴を舐めてきれいにするんだ。そうしたら許してあげるよ」

 ガリレオは靴をジリジリとロメオの顔に近づけてくる。

 ロメオは必死の思いで抵抗した。歯を食いしばり、体は小刻みに震えていた。この屈辱を受け入れてはいけない。悪魔の能力に操られてはいけない……ロメオは最後の意思を振り絞り、顔を上げ、必死の形相でガリレオを睨みつけた。

「プププ、なんて顔をしてるんだ。お前ら、本当にバカばっかりだな……」

 ガリレオは吹き出すようにして笑った。そして、瞳の奥を怪しく光らせ、ゆったりと告げた。

「僕の靴を舐めなさい」

 もはやロメオには悪魔の能力に抗う力は残されていなかった。ロメオの目はドロリと濁り、口からは抑揚のない声が漏れた。

「……イエス……」

 ロメオはゆっくりと顔を下に向けた。そしてその顔をガリレオのうす汚い靴に近づけ、口を開き、舌をだし……

 

<ドンドンドンドンドン!>

 

 突然、扉を叩く音が響いた。それに続いて、男の声がガリレオを呼んだ。

「教授、いらっしゃいますでしょうか?」

 しかし、ガリレオは嬉々とした表情のまま、ロメオから目を離そうとしない。

「ちょっと、今いいところなんだ、後じゃあダメなの?」

「吉報でございます。ローマより使者が戻り、バルベリーニ卿との会談がセッティングされたとのことでございます」

「本当に!」

 ガリレオは顔をあげ、扉を見た。その途端、ロメオの体は呪縛が解かれたように軽くなった。

「よし、これで僕の疑いは晴れたも同然だ!」

 ガリレオは拳を握りしめ、ロメオには目もくれず、意気揚々と扉へ向かった。

「早く準備をしなければ!」

 勢い良く扉を開け、立っていた太った男に指示を出した。

「今夜僕は、ローマ行きの準備のために地下室にこもる」

 ガリレオは小躍りするように部屋を出ていった。太った男もガリレオを追いかけた。ガリレオは歩きながら男に指示を出し続けた。

「地下室には、絶対に誰も近づけちゃあいかんよ。絶対にだ。あと、ろうそくをたくさん用意してくれ。今夜は長くなるからね……」

 ガリレオの声は遠ざかり、やがて聞こえなくなった。執務室に取り残されたロメオは、ただ呆然とうずくまることしかできなかった。

 

 

5.地下室

 

 地下室の低い天井から水滴がしたたり落ち、ごつごつとした敷石をじっとりと濡らしていた。数本のろうそくの灯が狭い室内を薄ぼんやりと照らし出している。部屋の中央、大きな黒い塊が天井からつり下げられていた。ろうそくの灯りが揺れ、黒い塊の輪郭を明らかにする。それは、豊かなあご髭を蓄えた老人だった。黒革のボンデージを身につけ、両手首を枷(かせ)で束ねられた老人が、天井から鎖でつり下げられている。老人は、目隠しをされ、浅く小刻みに呼吸を続けていた。

 

 <ビターン!>

 

 甲高い音が地下室に鳴り響いた。老人が「ひあ!」と声をあげる。

 傍らには、老人と同じ黒革のボンデージをつけ、蝶を模した仮面をつけた女が、長い鞭を手にし、老人をにらみつけていた。女は、ボンデージの下にはレース状の黒いタイツしかつけていないらしい。その美しい体の曲線を露わにしている。

 再び、女が鞭を振り上げ、勢いよく老人を打った。

「ひあ!」

 髭の奥から、喜悦の声が漏れた。

「ひい! もっと! もっと僕をいじめて!」

 さらに横、縦と鞭が飛ぶ。

「あひい! ひひい!」

 老人のたるんだ皮膚には無数のミミズ腫れができあがり、赤く血がにじみ出している。それに追い打ちをかけるように強く鞭が飛んだ。

「あはあ!」

 歓喜の声を老人があげる。と、どこからともなく湿った風が吹き込み、ろうそくの灯を妖しく揺らめかせた。

 

 <汝、新たなる力を欲するのか?>

 

 地の底から聞こえるようなどす黒い声が地下室に響いた。

 その声に応えるように、老人が細い声でつぶやく。

「……やっと来てくれた……僕がこうしてお楽しみでないと、君は現れないんだね……」

<我々と交信できるのは極限状態の魂のみ。ただそれだけだ>

「ククク……まあいいや……僕は今、異端審問だなんて、バカげたことに巻き込まれている……」

 地下室には、老人と女以外には誰もいない。しかし老人は闇の声に語りかけ続けた。

「僕の潔白を……わからせないといけないんだ……あいつらに……」

 <ならば、新たなる魂を捧げよ>

「新たなる、魂……」

 <そう、美しく純粋なる“太陽の一族”の魂だ>

 闇の声には、どこか楽しそうな響きが感じられる。

「太陽の一族? どこに……」

 <“スティグマ”を探せ……黒く大きな聖恨を……>

「スティグマ……承知した……」

 老人が応えると、再び妖しい風が吹き、ろうそくの火を一つ消した。柔らかい煙が流れ、張り詰めていた空気が緩んだ。

「ククク……」

 天井から吊り下げられたまま、老人は笑っていた。

「太陽の一族……スティグマ……あいつだ……」

 

 

 ドサリと床に崩れ落ち、老人は目を覚ました。いつの間にか眠ってしまっていたが、突然、女が手首にはめられた鎖を外したようだ。

 老人は疲れていた。意識が朦朧としている。しかし、休息は許されなかった。女が老人の豊かな髭を鷲掴みにし、顔をグイとあげさせる。

「ああ……マンマ……僕を許して……」

 意味不明の言葉をつぶやく老人の頬を女は容赦なく平手打ちした。

「ひゃあ!」

 返す手でもう一度頬を打ち付ける。

「いひっ!」

 女が髭を離すと老人は再び床にうずくまった。その目線の先に、女が黒いハイヒールの足を伸ばした。

「ウプププププ」

 老人の目の色が変わった。枷で束ねられた両手を女の足に伸ばす。芋虫のように地面を這いずり、黒光りするハイヒールに近づいていく。その目は血走り、口からはよだれがダラダラと垂れ流されていた。

「ああ……マンマ……マンマ……」

 女の足にすがりつくと、老人はベロリと舌をなめずり、ゆっくりとハイヒールに顔を近づけた。

 

<べチョリ>

 

 老人の舌がハイヒールを拭う。

 

<べチョリべチョリ>

 

 老人は、恍惚の表情でハイヒールを舐め回し続ける。

 

<べチョべチョべチョべチョチョべチョべチョべチョべチョベ>

 

「んふっ……」

 やがて、老人は昇天したかのように息を漏らし、意識を失った。

 失神した老人を、女が冷たい目で見下ろしていた。

 どこかで、野良犬の遠吠えが聞こえた。

 

つづく

 

 


3.イエス


「異端審問、か……」
 ふさふさとしたあご髭をしごきながら、困惑した様子でつぶやく老教授を、ロメオはテーブルの末席からぼんやりと眺めていた。
「むう……」
 髭の奥の口がへの字に結ばれていることがわかる。不機嫌な証拠だ。しかし老人は、感情を押さえるように声を落とし、すぐ左手に座っている太った男に質問をした。
「そもそも、どこの誰が僕を告発したんだ?」
「おそらく、ドミニコ会のロリーニの仕業かと……」
 太った男は額にうかんだ玉のような汗をハンカチで拭いながら応えた。
「あの修道士め……前に僕が論破してやったのを根に持ってるんだな!」
 <バン!>とテーブルを叩き、イスの背もたれに体を預けて腕組みをする。苛立ちを押さえきれない老教授は、眉間にぐっとしわを寄せ、恨めしい表情でこぼした。
「この、ガリレオ・ガリレイに楯突くとは……許せん……」

 当代切っての科学者ガリレオ・ガリレイは、人生最大の窮地に立たされていた。彼の唱える『地動説』が、教会の真理に反するとして、異端の嫌疑をかけられたのである。異端審問は枢機卿達によりローマの教皇庁で進められており、ガリレオはその結果次第では<<異端誓絶>>、つまり自らの学説を間違っていたと認め、二度と口にしないと誓わなければならなくなる。それだけではない。異端者の烙印を押されてしまえば、必死の思いで掴んだ<トスカーナ大公付き主席数学者兼哲学者>という華々しい肩書きも、すぐさま返上させられてしまうだろう。自らに異端の嫌疑がかかっているとの情報を掴んだガリレオは、すぐさまピサ大学の自室にスタッフを召集し、対策ミーティングを始めたのである。
 ガリレオのいらだちと危機感を感じて、召集された約20名のスタッフは真剣に議論を交わしていた。しかし、ロメオは、議論に集中することが全くできなかった。それは、ロメオのポジションがスタッフの中では最も低い天文観測スタッフのチーフであり、普段から発言の機会はほとんどなかったということもある。しかし今回はより大きな原因があった。三日前のあの出来事。白昼、ピサの斜塔のふもとでロメオの前に現れた、この世のものとは思えない禍々しい獣。そして、神の御業を操る怪しい男……。
 ぼんやりと議論を眺めながら、男が語った、にわかには信じがたい話を、ロメオは思い出していたーー
 


 

「そう、この世の中は、天上界、地上界、そして冥界の三つの世界に分かれている」
 ウイリアム・シェイクスピアと名乗る男は、まだ混乱し、恐怖から抜け出すことができずにいるロメオに語りかけた。
「その冥界を支配するのが、悪魔だ」
 さっきの恐ろしい出来事を忘れてしまうほど、爽やかで心地よい風が、斜塔の脇を吹き抜けていった。
「悪魔は人間の魂を狙って常にこの地上界に進出しようとしている。その際、冥界と地上界の接点となるのが、<<幽門>>と呼ばれる穴だ」
「幽門……?」
 ロメオは徐々に平静を取り戻しつつあった。
「そうだ。幽門は突然何もない空間に現れる。いつ、どこに現れるかは、予測不能だ。最近、どうやらこのピサの周辺で幽門が開いたという情報をキャッチしてね。私ははるばるイングランドからトスカーナまでやってきたというわけさ」
「冥界……の入り口が、このピサに?」
「間違いない。集めた情報を総合的に解釈すると、少なくとも5年ほど前には幽門が開いていたと思われる」
 5年前と言えば、ちょうどロメオがパドヴァからこちらへ移り住んだころである。
「5年前? そんなに前から……」
「そうだ。だが、悪魔達は通常、生きた人間を襲うことはない。彼らの目的は死んだ人間の魂を集めることだからね。だから幽門が開いていても、人々は普段と変わらない生活を送ることができる」
「じゃあ、僕がさっき襲われたのは……?」
「そうだな……」
 男は腕組みをして首を傾げた。
「私にもよくわからないが、今回君が襲われたのは、かなりのイレギュラーだと言えるだろう」
 <イレギュラー>の箇所で男は人差し指をたて、ロメオに迫るように続けた。
「悪魔の側に何か差し迫った事情が発生したのかも知れない。もしくは襲われる側、つまり君に原因がある、という可能性も否定できない」
 男は身を乗り出すようにし、顔をロメオにぐっと近づけた。
「僕に、原因が……?」
「何か心当たりはないかい?」
 心当たりは、ない。しかし、あの獣と対峙したときに感じた恐怖はただの恐怖ではなかった。獲物が天敵に睨まれたときのような、太古から血に刻み込まれた、原始的な恐怖……。ロメオはいつのまにか、首筋の痣を手のひらで押さえていた。
「心当たりは……ないんだね?」
「はい……」
 ロメオはうつむき加減で応えた。この男は何かを知っているのかもしれない。自分が悪魔に襲われた理由も、何もかもを。しかし、ロメオは自らそれを言い出すことができなかった。それを言ってしまうことで、なにか恐ろしいことに巻き込まれてしまうように思えたのだ。
「なら、仕方がないな……」
 一瞬、男は残念そうな表情をしたように思えたが、すぐに気を取り直したように続けた。
「話を戻そう。5年前、幽門から人間界に現れた悪魔の一人が、ある人間と契約を結んだと思われるのだ」
「悪魔が人間と契約?」
「そうだ。いわゆる、悪魔の契約、と呼ばれるものだ」
 ロメオはゾクリとした。<<悪魔の契約>>。話には聞いたことがある。死後、魂を悪魔に引き渡す代わりに、現世で悪魔の力を手に入れることができる、という恐ろしい契約だ。
「いったい、どんな悪魔が……?」
「それが、どうにもやっかいな奴でね。名前は<ベリト>という」
 ベリト……。聞いたことのない悪魔の名に、ロメオは首を傾げた。
「君が首を傾げるのもわかる。確かに、ベリトは強力な戦闘力を持つわけでもない、マイナーな悪魔だ。だが、奴が人間に与える能力、<イエス>がかなり面倒でね」
「イエス?」
「そう。人に<イエス>と言わせる能力だ。この能力を使えば、誰もその人間に逆らうことができなくなってしまう。周囲が皆イエスマンになってしまうんだ」

「それだけ……ですか?」

「フフフ、大した脅威は感じない……かね? それがこの能力の恐ろしいところだ。一回一回の能力の結果は、大した影響はない。ただ人に<イエス>と言わせるだけだからね。従って人に能力を気づかれることもほとんどない。だがこの能力を使い続けているうちに、その人間の発言力は次第に大きくなっていく。小さなイエスが積み重なることで、権力がどんどん集まってくるんだ。そうなると影響範囲はあっという間に広がり、やがて相当な数の人々が、その人間を盲信するようになる。その結果生み出されるものを君は知っているかい? <暴君>という名の恐ろしい存在だ。それは時に、王や教祖という地位を借りて地上界に君臨し、悪魔に人々の魂を供給し続けるようになる。そうなればもはや、悪魔より恐ろしい存在だと言ってもいいだろう……」
 ここまで話すと、男は疲れたように一息ついた。そして再びロメオに向き直り、情熱的な目をして続けた。
「私の使命は、ベリトを捕縛することだ。だが、ベリトは用心深く、なかなか姿を現さない。そこで、まずはベリトと契約した人間を探し、そこからベリトにたどり着きたいと考えている」
 ロメオは頭の中を整理していた。冥界、幽門、悪魔、契約、イエスと言わせる力……その全てがにわかには信じがたい、嘘のような内容だ。しかし、ロメオはそれが現実の話なのかも知れないと思い始めていた。
「君の周囲にベリトと契約したと思われる人物はいないかい? もしいたら教えてくれ」
 男の言うことを信じ始めていたロメオだったが、自分の周りに悪魔と契約するような人間がいるとは思えなかった。
「さすがに、心当たりはありませんね……」
「見つけたらでいいんだ」
「わかりました」
 ロメオが応えると、男はおもむろに、何かを探すようにポケットに手を入れた。
「じゃあ、そのときは私のスマホに連絡を……って、ガッデム!」
 突然、男は両手を広げ天を仰いだ。
「スマホはスられてたんだった! ヤバい! とりあえず回線止めないと!」
 クルリと向きを変え、男は走り出した。途中、思い出したかのように振り返り、叫ぶ。
「ロメオ君、すまない! また会おう。シーユー!」
 男は再び振り返り、広場を西の方へ駆けていった。その姿はまるで、母親に叱られまいと急いで家に帰る少年のようだったーー



 

 ロメオは、ふと我に返った。相変わらず、目の前では異端審問対策が熱心に議論されていた。しかしその瞬間、議論が煮詰まったのか、ふと沈黙が訪れたのだ。張りつめた空気の中、ロメオは視線を上に向けた。ガリレオの教授室の天井は高く、壁は書物でびっしりと埋め尽くされている。明かり取りの天窓の下には、ガリレオの肖像画が飾られており、召集された者達を威厳をもって見下ろしていた。
 それまで、自らの肖像画を背にして、黙って議論を聞いていたガリレオは、ゆっくり一同を見渡し、鼻から一つ息を吐いてから口を開いた。
「……それで結局、どうするのがいいのかね」
 少しの沈黙の後、ガリレオのすぐ右手に座っている、長い黒髪の男が口を開いた。
「ここはやはり、今一度クリスティーナ母公にお手紙を書かれてみては……」
 数学主任のカステリ。彼は若くして抜擢されたガリレオのお気に入りの一人で、常に的を射た提案でもってガリレオをサポートしている。しかし今回は、危機感を募らせたガリレオを満足させることはできなかった。
「手紙? そんな悠長なことやってたらダメでしょ? だって審問はもう始まっちゃってるんだよ?」
 ガリレオは口をへの字に結び、不満そうに一同を見渡している。
「君たちは本当にダメだな。こうなったらもう、僕がローマに行って、直接枢機卿に話をするしかないね」
 スタッフの一人が、驚いたように口を開く。
「それはあまりに性急ではないでしょうか……」
「うるさい! 僕が直接行って話をすれば何とかなるんだ!」
 だだをこねる子供のようなガリレオを見て、ロメオはどこかしら違和感を感じていた。
「カステリ君、今すぐバルベリーニ卿にアポ入れて!」
「教授、さすがにそれは難しいかと……」
 カステリまでもが意に沿わない態度を示すと、ガリレオは眉間にしわを寄せ、口をへの字に曲げて黙り込んだ。腕を組み、恨めしそうな表情で一同を睨みつける。と突然、ガリレオはカステリの方を向き、目を大きく見開いた。その瞳の奥に怪しいオレンジ色の光が灯った。
「バルベリーニ卿にアポを入れなさい」
 カステリは生気が抜けたようなうつろな表情になり、応えた。
「イエス」
 ロメオは息をのんだ。老人は、その豊かな髭をさわりながら、満足げにほくそ笑んでいた。

 

 

つづく


 彼は、まどろみの中、夢を見ていた。遠い昔、少年だった彼は、美しい少女に恋をした。最初で最後のまばゆい恋。惹かれあい、互いに一目で恋に落ちた。しかしそれは、誰にも許されることのない<禁断>の恋。二人の恋を認める者はなく、愛し合う二人は強引に引き裂かれた。悲しみの淵でもがき苦しんだ少年は、失意の末、自ら毒をあおり、悲劇は幕を閉じた……<パチリ>……
 
 <神はおっしゃっている。君はここで死ぬ運命ではない、と>
 
 少年の耳の奥にはただ、誰かが指を鳴らす音がかすかに響いていた。
 
 
 
 
1.天上界からの使者
 
「エクスキューズミー」
 まどろみの中、誰かに声をかけられたような気がして、ロメオは目を覚ました。
 日曜の昼下がり、ピサの広場にそびえ立つ傾いた塔にもたれかかって本を読んでいるうちに、いつの間にかうとうとしていたらしい。手にした本を閉じ、深呼吸するように両手を広げて、小さく伸びをした。夢を見ていたような気がする。が、思い出すことを心が拒否していた……。<んぁぁ>ロメオは声を漏らしながら、今度は両手を天に突き上げて、大きく伸びをした。
「君! 君! 少しおとなしくしてくれたまえ!」
 気づくと、ロメオの横には、つばの広い帽子をかぶった男が身を屈めている。男は身を小さくし、ロメオ越しに斜塔の向こう側をチラチラと伺っている。
「あの……」
「しっ! 静かに」
 男は小声で、強くロメオを制止した。何かから身を隠すようにして斜塔にへばりつき、ロメオ越しに斜塔の向こう側をチラチラと伺っている。ロメオは男が警戒する方向をゆっくりと振り向いた。
「誰も、来ませんけど……」
「声を出してはいけない! 危険だ!」
 怪訝な顔で男を見るロメオ。どうやら、いけない人に絡まれてしまったようだ。どうにかしてこの場を立ち去らなくては……。ロメオは、あげていた両腕を男に気づかれないようにゆっくりとおろした。次に体を右に向け、そうっと右足を踏みだし、次に左足を……
「ノー! いけない! 動いては! 危険だってば!」
 ロメオはため息とともに肩を落とし、男を振り返った。男は身を屈めたまま、ロメオに素早く手招きをし、小さな声で懇願するように言った。
「プリーズ! お願いだから! もう!」
 目をつむって少し考えた後、ロメオは観念したように元の位置に戻り、再び斜塔にもたれかかり、本を開いた。男は相変わらず斜塔にへばりつき、ロメオ越しにチラチラと向こうを伺っていた。
 
 その状態がどれくらい続いただろうか。いつの間にか、斜塔が広場に落とす影が長く伸び始めていた。男の緊張感は先ほどよりもやわらぎ、少しリラックスしているようにも見える。と突然、男が口を開いた。
「君、名前は?」
「……」
 ロメオは無視を決めた。しかし、そんなロメオの抵抗など知った風ではなく、男はしつこく聞いてくる。
「君、君、名前は?」
「……」
「ヘイ! ボーイ! ホワッチュアネーム!?」
「ロメオです!」
 さっきまで、静かにしていろと言っていた男が大きな声を出したのに混乱して、ロメオも思わず大声で応えてしまった。
「おお! ロメオ! ローマ人の名だね。いい名前だ」
「……どうも」
 悔し紛れにロメオは会釈した。
「ところで、君は面白いところに痣(あざ)があるね」
 ロメオはギクリとし、首筋に手をやった。左の首筋に、直径3cmほどの黒い痣がロメオにはあった。男はめざとく、それを見つけたのだ。
「それは、産まれたときからあるのかい?」
 そう、ロメオが産まれたとき、この首筋の痣を見て祖父がとても喜んだと母から聞いたことがある。祖父は良い徴だと言って三日三晩宴を開き、ロメオの痣を親戚に披露して回ったそうだ。しかし痣がロメオに恩恵をもたらしたことは無かった。むしろコンプレックス……。ロメオは勢い良く本を閉じ、強い口調で応えた。
「そうですけど、それがなに……」
 とその時、世界が反転した。明るい色と暗い色が入れ替わり、まるで、時間が止まってしまったかのように、目の前の全てが静止した。いや、全てではない。ロメオの目には、それまで見えていなかった黒くネバネバとした物体が自分に向かって近づいてくるのが映っていた。その黒い物体は、禍々しい闇の固まりをドロドロと垂れ流しながら地を這い、スピードをあげてロメオに近づいてくる。しかしロメオは驚きと恐怖のあまり、その場を動くことができない。
「危ない! 避けるんだ!」
 男の声にロメオは我に返り、とっさに頭を抱え、体を丸めた。間一髪、ロメオの頭があった位置を、黒い物体が勢いよく飛び越え、斜塔に激突して焼けるような音を立てて消滅した。避けていなければ、ロメオの首も同じように消滅していただろう。
 斜塔にへばりついていた男がロメオの横に立ち、身構えた。
「うまくやり過ごしたと思ったが……突然凶暴化するとは……」
 さらに、二体目三体目の黒い物体がロメオの頭めがけて飛びかかってきたが、男がマントでひらりと払いのける。
 黒い物体は次第に数を増し、互いに重なり合って移動している。どうやら、一カ所に集まろうとしているようだ。
「どうやらこいつらのお目当てはロメオ、君のようだな。いったい何をしたんだ? 悪魔に嫌われるようなこと」
 男は余裕の表情でロメオに話しかける。しかし、ロメオは声に出して答えることができず、ただ震えることしかできなかった。
 そうしている間にも、黒い物体は折り重なりながら、何かを形作り始める。前足と後ろ足ができ、胴体から首、耳が立ち上がり、やがて凶暴な獣の頭部が現れた。体長3メートルはあろうかという巨大な闇の獣は、その煮えたぎる赤い目をぎらつかせ、ロメオをじっと凝視している。
 ロメオは言いようのない恐怖を感じていた。言葉では説明することのできない、初めての感覚。<ドクン……>首筋の痣が大きく一つ脈打った。それは体の奥底に刻まれた、本能的な恐怖だった。
<フガウ!>
 闇の獣が威嚇するように吠え、じりじりとロメオに向かって距離を詰め始めた。横の男には目もくれず、ロメオから目を離そうとしない。
「闇の悪魔ランプよ、この私を無視するとは、覚悟はできているんだろうな」
 そう言うと、男は一つ息を吐き、覚悟を決めたように右手を強く握りしめた。
「神よ! その聖なる力を我に与えたまえ!」
 そして、右手を天にかかげ、高らかに叫んだ。
「エンジェルアームズ!」
 稲妻が落ちてきたかのような轟音とともに、男の右手が強烈に発光した。
 闇の獣は、その光に一瞬たじろぎ、足を止める。
 やがて光は収まり、男の右手には白い弓状の武器が握られていた。
「頼むぞ! アーチ!」
 アーチと呼んだ武器の両端を持つと、グリップの間の部分に発光する刃が現れた。男は居合い切りのように横一閃し、闇の獣に斬りつける。しかし獣はひらりとバックステップし、刃をかわす。男はすかさず間合いを詰め、両手でアーチを大きく振り上げた。
「バックトゥーヘル!」
 大鉈を振り下ろすようにアーチの刃をたたきつける。
<グギャアアアアアアアアアア!>
 断末魔を上げる闇の獣。その体は、アーチにふれた部分からキラキラとした灰になって消えていった。
 闇の獣が消えるとともに、反転した世界の色も徐々に元に戻ってゆき、気づけば、ロメオはピサの斜塔の横で、本を右手に立ち尽くしていた。さわやかな風が頬をなぞり、時間が正常に動きだしたことを教えてくれた。
 
「ふう……」
 大きく一つ息を吐いてから、男は体を起こした。いつの間にか、弓のような武器も姿を消している。旅装束にマントを羽織った男は、すらりと背が高く、がっしりとしている。帽子の下の細面の顔には、上品な口髭が蓄えられており、どこか威厳を漂わせていた。
 ロメオは、眼前で繰り広げられた理解を超えた出来事に、混乱していた。
「いやあ、危ないところだったな。怪我はないかい? ロメオ」
 男は、平然とした様子でマントの乱れを直しながら、ロメオに話しかけ続ける。
「フィレンツェからピサへの移動中にスマホをスられてしまってね。GPSが効かなくて困っていたところをヤツらに見つかってしまったんだ」
 よくわからないキーワードの登場に、ロメオの頭はさらに混乱した。
「しかし、ヤツらが君に襲いかかったのは驚いたよ。通常ネザーは一般の人間を襲うことはないんだが……」
 これ以上情報を増やされては、頭がパンクしてしまう。ロメオはとっさに男の話を遮り、根本的な質問をした。
「あの……あなたは……いったい……」
「オーソーリー、自己紹介が遅れたね」
 男は、姿勢を正し、左手で口ひげをピンとなぞり、胸を張って応えた。
「私の名はウイリアム・シェイクスピア。冥界にうごめく凶悪な悪魔たちから、人々の魂を守るために、天上界より遣わされたものだ」
 男はそう言って、笑顔で右手を差し出した。
「以後、よろしく。ロメオ君」
 ロメオの頭は理解の限界を超え、思考を停止していた。ロメオは条件反射のように男の右手を握った。男の肩の向こうの空に、昼の月が沈もうとしていた。
 

 
2.レクイエム
 
 冥界。
 闇に支配された暗黒の世界。
 
 その、果てしなく永遠につづくかとも思える漆黒の闇の中を、時折、キラキラとした灰が漂っては消えてゆく。それは、異界で戦った、兵士たちの残骸。敗北者たちは、闇の世界に舞い戻り、どす黒く染め上げられ、再び使命を与えられるのを待つ。永遠の闇の中で……
 
 
 
 
 冥界の片隅に、闇の空を見上げる三体の悪魔がいた。
 一体は、ピンク色の肌をし、ドラゴンとも麒麟ともつかぬ四足獣にまたがった小さな男。男は、拳を握りしめ、唇をかみしめながら、じっと空をみあげている。
「ランプの魂が散ったか……」
 その間にも、新たなキラキラとした灰が漂っては消えていく。
「ぬぬぬ、今ひとつ……」
 ピンクの男は耐えかねたように、両手を振り上げ、他の2体に向かって叫んだ。
「ようし! 消え行く勇者たちのために、吾輩たちは歌うのだ!」
 ピンクの男のエールに呼応するように、巨大な蠅がブルブルと羽音を立て始めた。
「……ブ……ブ…ブ…ブ……ブ……」
「もっとリズムに乗るのだ。ベルゼバブ!」
 どうやら蠅は、ベルゼバブと呼ばれているらしい。そしてその横には、蛇のような手足と尻尾を持ったフクロウも賢明に声を出している。
「ホッホー……ホーホー……」
 ピンクの男がフクロウに指示を出す。
「声が小さいぞ、アモン!」
「ホー?」
 アモンと呼ばれたフクロウは、一瞬疑問を感じたようだったが、すぐに諦めたように再び声を出し始める。
「ホッホーホホッホー……」
 それに合わせて蠅がベースのように羽音を刻んでゆく。
「ブブブブブブブブ ブルルルルルル ブブ……」
「もっとビートを効かせて!」
 ピンクの男は、小さな蛇を指揮棒のように持ち、蠅とフクロウに向かって振り回していた。その甲斐あってか、やがて二体の声はリズムに乗り、ハーモニーを奏で始める。
「ホッホー ブブブル ホホッホー ブブブブ ホーホー ブルブル……」
「よいぞ! よいぞ!」 
 ピンクの男は、その細いアゴに手をやり、満足げにほくそ笑んだ。
「よしよし、良い感じだ。これならきっと、吾輩たちの思いも、勇者たちに届いているであろうな……」
 
 悪魔のレクイエム(鎮魂歌)が、冥界中に響き渡っていた……

 

 

つづく