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3.イエス


「異端審問、か……」
 ふさふさとしたあご髭をしごきながら、困惑した様子でつぶやく老教授を、ロメオはテーブルの末席からぼんやりと眺めていた。
「むう……」
 髭の奥の口がへの字に結ばれていることがわかる。不機嫌な証拠だ。しかし老人は、感情を押さえるように声を落とし、すぐ左手に座っている太った男に質問をした。
「そもそも、どこの誰が僕を告発したんだ?」
「おそらく、ドミニコ会のロリーニの仕業かと……」
 太った男は額にうかんだ玉のような汗をハンカチで拭いながら応えた。
「あの修道士め……前に僕が論破してやったのを根に持ってるんだな!」
 <バン!>とテーブルを叩き、イスの背もたれに体を預けて腕組みをする。苛立ちを押さえきれない老教授は、眉間にぐっとしわを寄せ、恨めしい表情でこぼした。
「この、ガリレオ・ガリレイに楯突くとは……許せん……」

 当代切っての科学者ガリレオ・ガリレイは、人生最大の窮地に立たされていた。彼の唱える『地動説』が、教会の真理に反するとして、異端の嫌疑をかけられたのである。異端審問は枢機卿達によりローマの教皇庁で進められており、ガリレオはその結果次第では<<異端誓絶>>、つまり自らの学説を間違っていたと認め、二度と口にしないと誓わなければならなくなる。それだけではない。異端者の烙印を押されてしまえば、必死の思いで掴んだ<トスカーナ大公付き主席数学者兼哲学者>という華々しい肩書きも、すぐさま返上させられてしまうだろう。自らに異端の嫌疑がかかっているとの情報を掴んだガリレオは、すぐさまピサ大学の自室にスタッフを召集し、対策ミーティングを始めたのである。
 ガリレオのいらだちと危機感を感じて、召集された約20名のスタッフは真剣に議論を交わしていた。しかし、ロメオは、議論に集中することが全くできなかった。それは、ロメオのポジションがスタッフの中では最も低い天文観測スタッフのチーフであり、普段から発言の機会はほとんどなかったということもある。しかし今回はより大きな原因があった。三日前のあの出来事。白昼、ピサの斜塔のふもとでロメオの前に現れた、この世のものとは思えない禍々しい獣。そして、神の御業を操る怪しい男……。
 ぼんやりと議論を眺めながら、男が語った、にわかには信じがたい話を、ロメオは思い出していたーー
 


 

「そう、この世の中は、天上界、地上界、そして冥界の三つの世界に分かれている」
 ウイリアム・シェイクスピアと名乗る男は、まだ混乱し、恐怖から抜け出すことができずにいるロメオに語りかけた。
「その冥界を支配するのが、悪魔だ」
 さっきの恐ろしい出来事を忘れてしまうほど、爽やかで心地よい風が、斜塔の脇を吹き抜けていった。
「悪魔は人間の魂を狙って常にこの地上界に進出しようとしている。その際、冥界と地上界の接点となるのが、<<幽門>>と呼ばれる穴だ」
「幽門……?」
 ロメオは徐々に平静を取り戻しつつあった。
「そうだ。幽門は突然何もない空間に現れる。いつ、どこに現れるかは、予測不能だ。最近、どうやらこのピサの周辺で幽門が開いたという情報をキャッチしてね。私ははるばるイングランドからトスカーナまでやってきたというわけさ」
「冥界……の入り口が、このピサに?」
「間違いない。集めた情報を総合的に解釈すると、少なくとも5年ほど前には幽門が開いていたと思われる」
 5年前と言えば、ちょうどロメオがパドヴァからこちらへ移り住んだころである。
「5年前? そんなに前から……」
「そうだ。だが、悪魔達は通常、生きた人間を襲うことはない。彼らの目的は死んだ人間の魂を集めることだからね。だから幽門が開いていても、人々は普段と変わらない生活を送ることができる」
「じゃあ、僕がさっき襲われたのは……?」
「そうだな……」
 男は腕組みをして首を傾げた。
「私にもよくわからないが、今回君が襲われたのは、かなりのイレギュラーだと言えるだろう」
 <イレギュラー>の箇所で男は人差し指をたて、ロメオに迫るように続けた。
「悪魔の側に何か差し迫った事情が発生したのかも知れない。もしくは襲われる側、つまり君に原因がある、という可能性も否定できない」
 男は身を乗り出すようにし、顔をロメオにぐっと近づけた。
「僕に、原因が……?」
「何か心当たりはないかい?」
 心当たりは、ない。しかし、あの獣と対峙したときに感じた恐怖はただの恐怖ではなかった。獲物が天敵に睨まれたときのような、太古から血に刻み込まれた、原始的な恐怖……。ロメオはいつのまにか、首筋の痣を手のひらで押さえていた。
「心当たりは……ないんだね?」
「はい……」
 ロメオはうつむき加減で応えた。この男は何かを知っているのかもしれない。自分が悪魔に襲われた理由も、何もかもを。しかし、ロメオは自らそれを言い出すことができなかった。それを言ってしまうことで、なにか恐ろしいことに巻き込まれてしまうように思えたのだ。
「なら、仕方がないな……」
 一瞬、男は残念そうな表情をしたように思えたが、すぐに気を取り直したように続けた。
「話を戻そう。5年前、幽門から人間界に現れた悪魔の一人が、ある人間と契約を結んだと思われるのだ」
「悪魔が人間と契約?」
「そうだ。いわゆる、悪魔の契約、と呼ばれるものだ」
 ロメオはゾクリとした。<<悪魔の契約>>。話には聞いたことがある。死後、魂を悪魔に引き渡す代わりに、現世で悪魔の力を手に入れることができる、という恐ろしい契約だ。
「いったい、どんな悪魔が……?」
「それが、どうにもやっかいな奴でね。名前は<ベリト>という」
 ベリト……。聞いたことのない悪魔の名に、ロメオは首を傾げた。
「君が首を傾げるのもわかる。確かに、ベリトは強力な戦闘力を持つわけでもない、マイナーな悪魔だ。だが、奴が人間に与える能力、<イエス>がかなり面倒でね」
「イエス?」
「そう。人に<イエス>と言わせる能力だ。この能力を使えば、誰もその人間に逆らうことができなくなってしまう。周囲が皆イエスマンになってしまうんだ」

「それだけ……ですか?」

「フフフ、大した脅威は感じない……かね? それがこの能力の恐ろしいところだ。一回一回の能力の結果は、大した影響はない。ただ人に<イエス>と言わせるだけだからね。従って人に能力を気づかれることもほとんどない。だがこの能力を使い続けているうちに、その人間の発言力は次第に大きくなっていく。小さなイエスが積み重なることで、権力がどんどん集まってくるんだ。そうなると影響範囲はあっという間に広がり、やがて相当な数の人々が、その人間を盲信するようになる。その結果生み出されるものを君は知っているかい? <暴君>という名の恐ろしい存在だ。それは時に、王や教祖という地位を借りて地上界に君臨し、悪魔に人々の魂を供給し続けるようになる。そうなればもはや、悪魔より恐ろしい存在だと言ってもいいだろう……」
 ここまで話すと、男は疲れたように一息ついた。そして再びロメオに向き直り、情熱的な目をして続けた。
「私の使命は、ベリトを捕縛することだ。だが、ベリトは用心深く、なかなか姿を現さない。そこで、まずはベリトと契約した人間を探し、そこからベリトにたどり着きたいと考えている」
 ロメオは頭の中を整理していた。冥界、幽門、悪魔、契約、イエスと言わせる力……その全てがにわかには信じがたい、嘘のような内容だ。しかし、ロメオはそれが現実の話なのかも知れないと思い始めていた。
「君の周囲にベリトと契約したと思われる人物はいないかい? もしいたら教えてくれ」
 男の言うことを信じ始めていたロメオだったが、自分の周りに悪魔と契約するような人間がいるとは思えなかった。
「さすがに、心当たりはありませんね……」
「見つけたらでいいんだ」
「わかりました」
 ロメオが応えると、男はおもむろに、何かを探すようにポケットに手を入れた。
「じゃあ、そのときは私のスマホに連絡を……って、ガッデム!」
 突然、男は両手を広げ天を仰いだ。
「スマホはスられてたんだった! ヤバい! とりあえず回線止めないと!」
 クルリと向きを変え、男は走り出した。途中、思い出したかのように振り返り、叫ぶ。
「ロメオ君、すまない! また会おう。シーユー!」
 男は再び振り返り、広場を西の方へ駆けていった。その姿はまるで、母親に叱られまいと急いで家に帰る少年のようだったーー



 

 ロメオは、ふと我に返った。相変わらず、目の前では異端審問対策が熱心に議論されていた。しかしその瞬間、議論が煮詰まったのか、ふと沈黙が訪れたのだ。張りつめた空気の中、ロメオは視線を上に向けた。ガリレオの教授室の天井は高く、壁は書物でびっしりと埋め尽くされている。明かり取りの天窓の下には、ガリレオの肖像画が飾られており、召集された者達を威厳をもって見下ろしていた。
 それまで、自らの肖像画を背にして、黙って議論を聞いていたガリレオは、ゆっくり一同を見渡し、鼻から一つ息を吐いてから口を開いた。
「……それで結局、どうするのがいいのかね」
 少しの沈黙の後、ガリレオのすぐ右手に座っている、長い黒髪の男が口を開いた。
「ここはやはり、今一度クリスティーナ母公にお手紙を書かれてみては……」
 数学主任のカステリ。彼は若くして抜擢されたガリレオのお気に入りの一人で、常に的を射た提案でもってガリレオをサポートしている。しかし今回は、危機感を募らせたガリレオを満足させることはできなかった。
「手紙? そんな悠長なことやってたらダメでしょ? だって審問はもう始まっちゃってるんだよ?」
 ガリレオは口をへの字に結び、不満そうに一同を見渡している。
「君たちは本当にダメだな。こうなったらもう、僕がローマに行って、直接枢機卿に話をするしかないね」
 スタッフの一人が、驚いたように口を開く。
「それはあまりに性急ではないでしょうか……」
「うるさい! 僕が直接行って話をすれば何とかなるんだ!」
 だだをこねる子供のようなガリレオを見て、ロメオはどこかしら違和感を感じていた。
「カステリ君、今すぐバルベリーニ卿にアポ入れて!」
「教授、さすがにそれは難しいかと……」
 カステリまでもが意に沿わない態度を示すと、ガリレオは眉間にしわを寄せ、口をへの字に曲げて黙り込んだ。腕を組み、恨めしそうな表情で一同を睨みつける。と突然、ガリレオはカステリの方を向き、目を大きく見開いた。その瞳の奥に怪しいオレンジ色の光が灯った。
「バルベリーニ卿にアポを入れなさい」
 カステリは生気が抜けたようなうつろな表情になり、応えた。
「イエス」
 ロメオは息をのんだ。老人は、その豊かな髭をさわりながら、満足げにほくそ笑んでいた。

 

 

つづく

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 彼は、まどろみの中、夢を見ていた。遠い昔、少年だった彼は、美しい少女に恋をした。最初で最後のまばゆい恋。惹かれあい、互いに一目で恋に落ちた。しかしそれは、誰にも許されることのない<禁断>の恋。二人の恋を認める者はなく、愛し合う二人は強引に引き裂かれた。悲しみの淵でもがき苦しんだ少年は、失意の末、自ら毒をあおり、悲劇は幕を閉じた……<パチリ>……
 
 <神はおっしゃっている。君はここで死ぬ運命ではない、と>
 
 少年の耳の奥にはただ、誰かが指を鳴らす音がかすかに響いていた。
 
 
 
 
1.天上界からの使者
 
「エクスキューズミー」
 まどろみの中、誰かに声をかけられたような気がして、ロメオは目を覚ました。
 日曜の昼下がり、ピサの広場にそびえ立つ傾いた塔にもたれかかって本を読んでいるうちに、いつの間にかうとうとしていたらしい。手にした本を閉じ、深呼吸するように両手を広げて、小さく伸びをした。夢を見ていたような気がする。が、思い出すことを心が拒否していた……。<んぁぁ>ロメオは声を漏らしながら、今度は両手を天に突き上げて、大きく伸びをした。
「君! 君! 少しおとなしくしてくれたまえ!」
 気づくと、ロメオの横には、つばの広い帽子をかぶった男が身を屈めている。男は身を小さくし、ロメオ越しに斜塔の向こう側をチラチラと伺っている。
「あの……」
「しっ! 静かに」
 男は小声で、強くロメオを制止した。何かから身を隠すようにして斜塔にへばりつき、ロメオ越しに斜塔の向こう側をチラチラと伺っている。ロメオは男が警戒する方向をゆっくりと振り向いた。
「誰も、来ませんけど……」
「声を出してはいけない! 危険だ!」
 怪訝な顔で男を見るロメオ。どうやら、いけない人に絡まれてしまったようだ。どうにかしてこの場を立ち去らなくては……。ロメオは、あげていた両腕を男に気づかれないようにゆっくりとおろした。次に体を右に向け、そうっと右足を踏みだし、次に左足を……
「ノー! いけない! 動いては! 危険だってば!」
 ロメオはため息とともに肩を落とし、男を振り返った。男は身を屈めたまま、ロメオに素早く手招きをし、小さな声で懇願するように言った。
「プリーズ! お願いだから! もう!」
 目をつむって少し考えた後、ロメオは観念したように元の位置に戻り、再び斜塔にもたれかかり、本を開いた。男は相変わらず斜塔にへばりつき、ロメオ越しにチラチラと向こうを伺っていた。
 
 その状態がどれくらい続いただろうか。いつの間にか、斜塔が広場に落とす影が長く伸び始めていた。男の緊張感は先ほどよりもやわらぎ、少しリラックスしているようにも見える。と突然、男が口を開いた。
「君、名前は?」
「……」
 ロメオは無視を決めた。しかし、そんなロメオの抵抗など知った風ではなく、男はしつこく聞いてくる。
「君、君、名前は?」
「……」
「ヘイ! ボーイ! ホワッチュアネーム!?」
「ロメオです!」
 さっきまで、静かにしていろと言っていた男が大きな声を出したのに混乱して、ロメオも思わず大声で応えてしまった。
「おお! ロメオ! ローマ人の名だね。いい名前だ」
「……どうも」
 悔し紛れにロメオは会釈した。
「ところで、君は面白いところに痣(あざ)があるね」
 ロメオはギクリとし、首筋に手をやった。左の首筋に、直径3cmほどの黒い痣がロメオにはあった。男はめざとく、それを見つけたのだ。
「それは、産まれたときからあるのかい?」
 そう、ロメオが産まれたとき、この首筋の痣を見て祖父がとても喜んだと母から聞いたことがある。祖父は良い徴だと言って三日三晩宴を開き、ロメオの痣を親戚に披露して回ったそうだ。しかし痣がロメオに恩恵をもたらしたことは無かった。むしろコンプレックス……。ロメオは勢い良く本を閉じ、強い口調で応えた。
「そうですけど、それがなに……」
 とその時、世界が反転した。明るい色と暗い色が入れ替わり、まるで、時間が止まってしまったかのように、目の前の全てが静止した。いや、全てではない。ロメオの目には、それまで見えていなかった黒くネバネバとした物体が自分に向かって近づいてくるのが映っていた。その黒い物体は、禍々しい闇の固まりをドロドロと垂れ流しながら地を這い、スピードをあげてロメオに近づいてくる。しかしロメオは驚きと恐怖のあまり、その場を動くことができない。
「危ない! 避けるんだ!」
 男の声にロメオは我に返り、とっさに頭を抱え、体を丸めた。間一髪、ロメオの頭があった位置を、黒い物体が勢いよく飛び越え、斜塔に激突して焼けるような音を立てて消滅した。避けていなければ、ロメオの首も同じように消滅していただろう。
 斜塔にへばりついていた男がロメオの横に立ち、身構えた。
「うまくやり過ごしたと思ったが……突然凶暴化するとは……」
 さらに、二体目三体目の黒い物体がロメオの頭めがけて飛びかかってきたが、男がマントでひらりと払いのける。
 黒い物体は次第に数を増し、互いに重なり合って移動している。どうやら、一カ所に集まろうとしているようだ。
「どうやらこいつらのお目当てはロメオ、君のようだな。いったい何をしたんだ? 悪魔に嫌われるようなこと」
 男は余裕の表情でロメオに話しかける。しかし、ロメオは声に出して答えることができず、ただ震えることしかできなかった。
 そうしている間にも、黒い物体は折り重なりながら、何かを形作り始める。前足と後ろ足ができ、胴体から首、耳が立ち上がり、やがて凶暴な獣の頭部が現れた。体長3メートルはあろうかという巨大な闇の獣は、その煮えたぎる赤い目をぎらつかせ、ロメオをじっと凝視している。
 ロメオは言いようのない恐怖を感じていた。言葉では説明することのできない、初めての感覚。<ドクン……>首筋の痣が大きく一つ脈打った。それは体の奥底に刻まれた、本能的な恐怖だった。
<フガウ!>
 闇の獣が威嚇するように吠え、じりじりとロメオに向かって距離を詰め始めた。横の男には目もくれず、ロメオから目を離そうとしない。
「闇の悪魔ランプよ、この私を無視するとは、覚悟はできているんだろうな」
 そう言うと、男は一つ息を吐き、覚悟を決めたように右手を強く握りしめた。
「神よ! その聖なる力を我に与えたまえ!」
 そして、右手を天にかかげ、高らかに叫んだ。
「エンジェリック!」
 稲妻が落ちてきたかのような轟音とともに、男の右手が強烈に発光した。
 闇の獣は、その光に一瞬たじろぎ、足を止める。
 やがて光は収まり、男の右手には白い弓状の武器が握られていた。
「頼むぞ! アーチ!」
 アーチと呼んだ武器の両端を持つと、グリップの間の部分に発光する刃が現れた。男は居合い切りのように横一閃し、闇の獣に斬りつける。しかし獣はひらりとバックステップし、刃をかわす。男はすかさず間合いを詰め、両手でアーチを大きく振り上げた。
「バックトゥーヘル!」
 大鉈を振り下ろすようにアーチの刃をたたきつける。
<グギャアアアアアアアアアア!>
 断末魔を上げる闇の獣。その体は、アーチにふれた部分からキラキラとした灰になって消えていった。
 闇の獣が消えるとともに、反転した世界の色も徐々に元に戻ってゆき、気づけば、ロメオはピサの斜塔の横で、本を右手に立ち尽くしていた。さわやかな風が頬をなぞり、時間が正常に動きだしたことを教えてくれた。
 
「ふう……」
 大きく一つ息を吐いてから、男は体を起こした。いつの間にか、弓のような武器も姿を消している。旅装束にマントを羽織った男は、すらりと背が高く、がっしりとしている。帽子の下の細面の顔には、上品な口髭が蓄えられており、どこか威厳を漂わせていた。
 ロメオは、眼前で繰り広げられた理解を超えた出来事に、混乱していた。
「いやあ、危ないところだったな。怪我はないかい? ロメオ」
 男は、平然とした様子でマントの乱れを直しながら、ロメオに話しかけ続ける。
「フィレンツェからピサへの移動中にスマホをスられてしまってね。GPSが効かなくて困っていたところをヤツらに見つかってしまったんだ」
 よくわからないキーワードの登場に、ロメオの頭はさらに混乱した。
「しかし、ヤツらが君に襲いかかったのは驚いたよ。通常ネザーは一般の人間を襲うことはないんだが……」
 これ以上情報を増やされては、頭がパンクしてしまう。ロメオはとっさに男の話を遮り、根本的な質問をした。
「あの……あなたは……いったい……」
「オーソーリー、自己紹介が遅れたね」
 男は、姿勢を正し、左手で口ひげをピンとなぞり、胸を張って応えた。
「私の名はウイリアム・シェイクスピア。冥界にうごめく凶悪な悪魔たちから、人々の魂を守るために、天上界より遣わされたものだ」
 男はそう言って、笑顔で右手を差し出した。
「以後、よろしく。ロメオ君」
 ロメオの頭は理解の限界を超え、思考を停止していた。ロメオは条件反射のように男の右手を握った。男の肩の向こうの空に、昼の月が沈もうとしていた。
 

 
2.レクイエム
 
 冥界。
 闇に支配された暗黒の世界。
 
 その、果てしなく永遠につづくかとも思える漆黒の闇の中を、時折、キラキラとした灰が漂っては消えてゆく。それは、異界で戦った、兵士たちの残骸。敗北者たちは、闇の世界に舞い戻り、どす黒く染め上げられ、再び使命を与えられるのを待つ。永遠の闇の中で……
 
 
 
 
 冥界の片隅に、闇の空を見上げる三体の悪魔がいた。
 一体は、ピンク色の肌をし、ドラゴンとも麒麟ともつかぬ四足獣にまたがった小さな男。男は、拳を握りしめ、唇をかみしめながら、じっと空をみあげている。
「ランプの魂が散ったか……」
 その間にも、新たなキラキラとした灰が漂っては消えていく。
「ぬぬぬ、今ひとつ……」
 ピンクの男は耐えかねたように、両手を振り上げ、他の2体に向かって叫んだ。
「ようし! 消え行く勇者たちのために、吾輩たちは歌うのだ!」
 ピンクの男のエールに呼応するように、巨大な蠅がブルブルと羽音を立て始めた。
「……ブ……ブ…ブ…ブ……ブ……」
「もっとリズムに乗るのだ。ベルゼバブ!」
 どうやら蠅は、ベルゼバブと呼ばれているらしい。そしてその横には、蛇のような手足と尻尾を持ったフクロウも賢明に声を出している。
「ホッホー……ホーホー……」
 ピンクの男がフクロウに指示を出す。
「声が小さいぞ、アモン!」
「ホー?」
 アモンと呼ばれたフクロウは、一瞬疑問を感じたようだったが、すぐに諦めたように再び声を出し始める。
「ホッホーホホッホー……」
 それに合わせて蠅がベースのように羽音を刻んでゆく。
「ブブブブブブブブ ブルルルルルル ブブ……」
「もっとビートを効かせて!」
 ピンクの男は、小さな蛇を指揮棒のように持ち、蠅とフクロウに向かって振り回していた。その甲斐あってか、やがて二体の声はリズムに乗り、ハーモニーを奏で始める。
「ホッホー ブブブル ホホッホー ブブブブ ホーホー ブルブル……」
「よいぞ! よいぞ!」 
 ピンクの男は、その細いアゴに手をやり、満足げにほくそ笑んだ。
「よしよし、良い感じだ。これならきっと、吾輩たちの思いも、勇者たちに届いているであろうな……」
 
 悪魔のレクイエム(鎮魂歌)が、冥界中に響き渡っていた……

 

 

つづく

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やあ、みんな梅雨も始まりジメジメとした日々が始まったが、みんなの心は湿っていないかな?

さて、今ギャラリーエルシャダイでは”梅雨のルシフェル展”が開かれてるそうだ。

http://elshaddai.jp/gallery/galleryspace/002.html

 

兄さんのいろんな表情が見れるようなので是非一度覗きに行ってみてくれたまえ。

さて今日はそんな兄さんの宣伝ではなく、私の個人的なことなんんだが、実はあるゲームに出演することになってね、ここを読んでくれているみんなには報告しておこうと思ったのさ。

タイトルは、

The Lost Child(ザ・ロストチャイルド)

 PlayStation Vita / PS4 プレイステーション4

向けのソフトなんだが、詳しくはこちらを見てくれたまえ。

http://thelostchild.jp

このゲームには兄さんも出ているようで、まさかこうして

兄さんと共演することになる日が来るとは、世の中とは面白いものだね。みんなも知っての通り私と兄さんは決して出会うことがない存在だが、それでも尊敬と敬愛を忘れたことはないので、今回のことは私としてもとても幸せな出来事だったよ。

 

さて、

計画は順調だよ、あとは兄さんがうまくやってくれるさ

 

今日も最後まで読んでくれてありがとう。

 

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やあ、みんな元気かな?

1月以来ということで私も久しぶりだな〜と覗いて見たら、最後の更新が 書記官 「生肉食べ太郎」というのを見て、いやはや天使である私のブログにしては、ちょっと自由すぎるかなと溜息をついていたところさ。

さて、そんな事はさておきお陰様でエルシャダイも6周年、今はギャラリーエルシャダイで6周年記念展を開催中だ。

http://elshaddai.jp/gallery/

こちらも是非のぞいて見てくれたまえ。

 

そしてそれに合わせて久しぶりに私が登場する神話構想の物語が発売となった。まずは電子の先行発売だが、早読みをしたい人がいれば早速読んで見てほしい。私とエヴェドの不思議な物語だ。

https://www.amazon.co.jp/天使に絵を描きたかった男-富永民紀-ebook/dp/B0722MW7HP/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1494158760&sr=8-1&keywords=天使に絵を描きたかった

 

更にそれに合わせて、久しぶり私のプロマイド、いや複製原画が発売となった。

A2サイズは今月31日までの限定だ。

http://crim.free.makeshop.jp/shopdetail/000000000201

 

色々と動きがある中で私もまた、更新を続けて行きたいと思うので、これからも楽しみにしておいてくれたまえ。

 

今日も最後まで読んでくれてありがとう。

ゴールデンウィークは今日で最後だが、エルシャダイ6周年記念展は16日までだ。また現地で会おう。

 

 

 

 

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やあ、みんな新年も明けて今は普通の生活に戻ったところかな?

 

年初めから、たくさんのシャダラーがギャラリーエルシャダイに来店してると聞いて私も喜ばしく思っているよ。さて、今日はそんな中実際に来たと思われる書記官からの投稿だ。アルマロス、意外とファンが多いんだなと改めて思わされた作品だ。

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こんにちは、はじめまして。生肉食べ太郎と申します。

このたびは、アナザーエルシャダイの投稿をしたくメールいたしました。

ギャラリーエルシャダイとアルマロスを題材にした文章です。

 

ギャラリーエルシャダイの平穏は今日も保たれている | 生肉食べ太郎 #pixiv http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7686163

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今日も最後まで読んでくれてありがとう、又新しい投稿を楽しみにしているよ。
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