燻し | 豊池美術店のブログ

燻し

幼い時に耳にした言葉が、ずっと後になってから意識に昇って来ることがあります。

森陶岳先生は、子供の頃に家で聞いた覚えのある燻し(くゆし)と云う言葉が大窯を焚く時に突然に思い浮かんで来たとお伺いしました。

それは、窯の焚口の手前から煙のみを登り窯の内部に送る事です。

傍で見ていると非効率で何も意味のない事に見えます。

その事を質問しますと「煙を送っているのです。中で作品は真っ黒に成っているでしょう。」とお応えになりました。かつての大窯はそのようにしていたようです。

この度読んだ「井戸茶碗の謎」の中でそれと全く同じ事が記されています。

キムチなどの保存容器としての土器を焼く登り窯では「薪の煙を器物に浸透させ、煙を器物の表面に付着させます。そのためチルグッ(素焼陶器)の色は真っ黒になっています。煙を発生させ付着させる理由は、抗菌作用、水漏れ防止、通気性をよくするためです。保存容器として極めて優れています。」と記述しています。

先人の智恵のレベルの高さは驚異です。