<墨東綺譚(日・1992)> ★★★☆

こんな映画見ました-濹東綺譚

CATVで1992年の新藤兼人監督作品の<墨東綺譚>を見ました。永井荷風の同名の小説を基に、主人公の作家・大江を荷風本人に置き換え、玉ノ井の娼婦・お雪を中心に荷風の後半生を描いています。原作小説は生意気だった高校生の頃に読んでいますが、作品は1960年にも豊田四郎監督、山本富士子主演で映画化されていて今回はリメイクのようですが、とにかく見るのは今回が初めてでした。



「玉の井」は我が家から北東に4kmほどのところ(隅田(田)川の)で、少し手前の「鳩の街」と共に戦前からの私娼街、いわゆる赤線地区でしたが、昭和33年の売春禁止法で廃止されて今では普通の寂れた商店街兼住宅地域となっています。



>良家の長男として生まれた荷風(津川雅彦)は、親の意向に反して文学の道を志すと称して放蕩無頼の生活を続けて勘当同様になっていますが、結婚もせず、夜な夜なカフェや飲み屋に入り浸っています。必然的に彼の作品の対照は社会の底辺に生きる女性達となっていて、芸者を妾にして同棲したり、カフェの女給に金をセビられて警察沙汰になったりしていますが、それを逐一「断腸亭日乗」として記録しています。


>ある日、玉の井を訪れた荷風はお雪(墨田ユキ)という女と知り合い強く惹かれ、以後頻繁に通い続け、浅草へ連れ出して芝居を見せたり、食事をしたりします。太平洋戦争が始まり、玉の井にも軍人の姿が多く見られるようになりますが、徹底した自由主義者の荷風はそれを冷ややかな目で見ていました。お雪の雇い主の女将(乙羽信子)の息子も戦地に赴くことになり、お雪は女将の依頼で彼の“筆おろし”をします。そんな彼女から求婚の申し出があり、荷風は受けてしまいますが、約束の日に迎えには行かず、それっきり関係を絶ってしまいます。


>昭和20年3月の東京大空襲で、荷風の自宅は全焼、玉の井も壊滅状態となり、お雪も女将も行方不明となります。昭和27年、荷風は文化勲章を受章します。新聞で彼の写真を見たお雪は一度は驚きますが、人違いだと決め込んでしまいます。受賞しても相変わらず独り身で、浅草のストリップ劇場に出入りしたりして気ままに過ごしていましたが、昭和34年、自宅で胃潰瘍に基づく心臓麻痺で孤独なうちに急逝します。



画面に浅草寺や荷風が足繁く通ったという洋食の「アリゾナ・キッチン」、江戸時代、死んだ遊女の亡骸を投げ捨てたという淨閑寺など知っている場所がしばしば登場しました。しかし、荷風が生存中にはまだ再建されておらず存在しなかった雷門が出て来たり、まだ仮建築だった浅草寺が現状の建物で出てきた時には相当の違和感を感じましたが、これに気付く人は殆どいないでしょう。



津川雅彦は永井荷風の写真よりも小太りのように見えたためもあり、私のイメージする荷風の飄々としたところが不足しているように思いました。乙羽信子や杉村春子(荷風の母)も出ていましたがさすがに存在感がありました。そういう中でお雪を演じた墨田ユキという女優の一本拍子なセリフ回しの稚拙さが目立ちました。芸名から推測してこの映画がデビュー作のようで、その後どうなったか知りませんが、新藤監督がよくこれでOKしたものだと思いました。前作では山本富士子が演じたようですが、出来たら比較して見てみたいと思いました。内容柄、セックス・シーンも何度か出て来ますが生々しさに欠けていて、新藤監督はこういうシーンは不得手なのかなと思いました。しかし、戦前・戦中の人や町の雰囲気や風景は、私のイメージから考えて、さすがに良く描かれているように思えました。