ももクロが打ち立てた、青春映画の新たな金字塔。映画「幕が上がる」 | 忍之閻魔帳

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映画 幕が上がる ももいろクローバーZ


▼ももクロが打ち立てた、青春映画の新たな金字塔。映画「幕が上がる」


08月05日発売■Blu-ray:「幕が上がる」

百田夏菜子、玉井詩織、高城れに、有安杏果、佐々木彩夏。
相変わらずどの名前が何色なのかは覚えていないがこれだけは言える。
ももいろクローバーZが主演を務める映画「幕が上がる」は傑作だ。
本作からは、角川配給&大林宣彦監督作品がヒットを連発していた頃の
懐かしい風が吹いている。
単に古臭いのではなく、どんな世代にも通用する良質なジュブナイルとして
ほぼ完璧な仕上がりとなった本作の監督は本広克行。
共演は黒木華、ムロツヨシ、清水ミチコなど。


08月05日発売■Blu-ray:「幕が上がる 豪華版」

世間的に本広監督と言えば「踊る大捜査線」なのだろうが
私は断然「サマータイムマシン・ブルース」である。
「サマータイム~」の公開前に主演の瑛太を連れて各地を回っていた本広監督は
舞台劇が大好きで、暇さえあれば小劇場をハシゴしていると語っていた。
ヨーロッパ企画(上田誠)と2作を発表した後、再び「踊る」路線に戻っていったのは
高い評価とは裏腹に商業的に成功とは言い難かったからなのだろうが、
どっこい監督はまだ諦めていなかった。
五人五色の魅力を持ったももクロを主演に据え、
劇作家であり、劇団青年団の主宰でもある平田オリザの
小説「幕が上がる」の映画化に乗り出したのだ。
脚本には「桐島、部活やめるってよ」の喜安浩平を起用、
リー・ピンビンを思わせる撮影は「風が強く吹いている」の佐光朗。
彼女達を導く教師役には、野田秀樹や蜷川幸雄に才能を見出され、
舞台から映画の世界に飛び込んできた黒木華をキャスティングする万全の布陣。




毎年地区予選での敗退がお決まりになっている富士ヶ丘高校演劇部。
尊敬する先輩から次期部長に任命された2年生の高橋さおりは
実はそれほどの情熱をもって芝居に臨んでいるわけではなかった。
3年になり直視せざるを得ない進路問題と部活の両立は難しく苦悩するが、
ある日学校にやってきた新任の教師が副顧問に就任したことをきっかけに
舞台や芝居に対する情熱が少しずつわき上がっていった。
目指すは全国大会出場。彼女達は見事その目的を達成できるだろうか。



私はももクロの誰ひとりとして素性を知らないし、
インタビューを見たり聴いたりしたこともない。
私の知るももクロは常にハイテンションで、「わたしたちー」と自己紹介をした後に
耳触り一歩手前のキンキン声で元気一杯に歌って踊っている。
そんな彼女達にもきっと様々な葛藤があって、
「自分の望む幸福」と「周囲に望まれる幸福」を天秤にかけながら
幕の上がった舞台で「ももいろクローバーZ」を演じているのだろう。
いつの世も、アイドルとはそういう存在なのだ。
演劇部の5人が励まし合ったり慰め合ったりしながら前に進み、
問題をひとつクリアするごとに輝きを増していく過程は
ほとんどドキュメンタリーのよう。
「誰も知らない」の柳楽優弥を初めて見た時のようなインパクトを
この映画ではももクロメンバー全員が持っている。

平田オリザ&喜安浩平の紡ぐストーリーと
往年の大林宣彦テイストに通じるファンタジックな演出をミックスした本作は
「時をかける少女」の浮遊感も、
「風が強く吹いている」の清々しさも、
「ロボコン」の文科系の熱さも、全部持っている。
全部持っているのに、欲張り過ぎて闇鍋的な味になっていない。
思春期だけが持つ特別な輝きをフィルムに収められたことも奇跡なら
この映画自体もまた奇跡的なバランスの上で成り立っているのである。
冒頭のシーンで映った台本には
「ウィンタータイムマシン・ブルース」と書かれていた。
本広監督も「サマータイムマシン・ブルース」を超える作品を作る気合いで
ももクロと共に本作に賭け、挑んだのだと思う。
「明るく元気なももクロ」を一度リセットするべく本格的な芝居に挑戦したメンバーと
「踊る大捜査線の」を払拭すべく全力を注いだ本広監督のタッグによって
本作はアイドル映画史に残る傑作となった。


この映画で忘れてはいけないのが黒木華。
先日の日本アカデミー賞でも見事に助演女優賞を獲得したが
本作での彼女は「小さいおうち」を大きく上回るほどの熱演ぶり。

【紹介記事】思わせぶりなだけの空気映画。映画「東京オアシス」

「東京オアシス」で映画に初出演してから3年と少し、
これまでは舞台とは違う顔を出そうとしてきたが
本作では野田秀樹や蜷川幸雄に鍛えられた舞台女優としての才能が
スクリーンで開花していて、「告白」の松たか子を思わせる。
映画女優としての彼女しか知らない方は随分と驚かれたのではないか。
妄想のシーンで演じていた鬼演出家の態度が蜷川そのもので大笑いした。
相当あの調子でしごかれたのだろう。


私と同世代が製作者になってきたからなのか、
ここ最近、青春映画は80年代への回帰がブームになっている。
「大人ドロップ」もそうだし、「江ノ島プリズム」もそう。
ドラマではあるが「なぞの転校生」も角川全盛期を思わせる作品だった。
三木監督の「ホットロード」や現在公開中の「くちびるに歌を」も
やはりノルタルジックな香りを残している。
供給過多になりつつある中で本作が埋もれてしまわないか心配だが
ももクロの名前を聞いて敬遠してしまうような
純粋な邦画好きにこそ本作を強くお薦めしたい。
少なくとも私の中では、女子高生+演劇映画の最高峰として君臨していた
「櫻の園」(中原俊監督、ただし1990年版のみでリメイク版は除く)に比肩する作品。
例え歌っているももクロに興味がなくても、この映画を観るときっと好きになる。

映画「幕が上がる」は現在公開中。


08月05日発売■Blu-ray:「幕が上がる、その前に。彼女たちのひと夏の挑戦」

3月11日からは、撮影現場に迫ったドキュメンタリー
「幕が上がる、その前に。彼女たちのひと夏の挑戦」が公開。
さらに5月には本作の舞台版が上演予定。
主要キャストは映画版とほぼ同じになるようだが、黒木華も出るのだろうか。



03月11日発売■CD+Blu-ray:「青春賦 初回限定盤A / ももいろクローバーZ」
03月11日発売■CD+Blu-ray:「青春賦 初回限定盤B / ももいろクローバーZ」

エンディングもなかなかの佳曲。

ただ、ファンの方には申し訳ないが挿入歌だけは外して欲しかった。
エンドロールではアイドルを全開にしてくれても構わないのだが
挿入歌は明らかに空気を壊すタイミングで入って来るので
その瞬間に物語が止まってしまい、現実へと一気に引き戻されてしまうのだ。
小物としてグッズを置いてみたり、あちこちで
『これはももクロの映画ですよ』というアピールが多過ぎて
音楽番組で見せる顔を封印した彼女達の奮闘が台無しになっている。
そんなことをしなくとも、作品を観れば分かることなのに。




発売中■DVD:「サマータイムマシン・ブルース」


2005年度を代表する傑作青春映画。
物語を簡単に紹介すると・・・

SF研究会とは名ばかりの、SFを研究しない連中が野球に興じるある夏の昼下がり。
銭湯から帰ったメンバーが部室で騒いでいると、コーラがエアコンのリモコンを直撃、
リモコンでしか操作の出来ないクーラーはそれきり沈黙した。
翌日、うだるような暑さの部室にマッシュルームカットの見慣れない男が現れる。
男と共に部室に現れたのは、見た事もないバカデカい機械。
ダイヤルやレバーの作りからして、
「もしかしてタイムマシンなのでは?」と騒ぐ部員達は試乗を思い立ち
とりあえず「昨日」に行くことにした。
思い切りレバーを引いた瞬間から、昨日と今日のタイムトラベルが始まる。


原作はヨーロッパ企画の戯曲。
脚本を手掛けたのは、ヨーロッパ企画の公演でも作・演出を手掛ける上田誠。
「三谷幸喜の再来」と言われるだけあり、脚本の組み立て方が抜群に上手い。
宮藤官九郎のような勢いで押し切るタイプではなく、
どんなにテンポを早くしても、冷静に全体を俯瞰しているタイプだ。
「ガハハ」系のお笑いより「クスッ」系のお笑いが好きな方なら
計算し尽くされた展開と落とし方の上手さに舌を巻くと思う。

タイムトラベルというSFを、
SFに本気で取り組んでいない連中が体験するというところに
愛すべき「こぢんまり感」が漂っており、SFに精通している人間にありがちな、
「そこはおかしい」と突っ込む気持ちを萎えさせる効果を生んでいる。
馬鹿な連中が下らないことに一喜一憂しながら昨日と今日を往復するうちに、
少しずつ見えてくる時間の仕組みと、歴史の綴られ方。
それはどう足掻いても変える事が出来ないものなのか、はたまた介入可能な代物なのか。
希望を持たせるほろ苦いエンディングに辿り着いた時、
絶対にもう一度最初から観たくなること請け合いだ。
「仕込み」にあたる最初の15分ほどは
物語の全貌が明らかになっていないこともあってか、
意味不明なシーンがぶつ切れで続き不安になると思うが、
ここをしっかりチェックしておくと後半の面白さが倍増するので
序盤だからと流してしまわない方がより楽しめるはず。

小劇団の芝居などを好んで観に行く方はもちろん、
「やっぱり猫が好き」の頃の三谷幸喜の脚本が
最高に好きだったという方なら文句なしに楽しめる。