日常を奪われる、ということ。映画「小さいおうち」 | 忍之閻魔帳

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▼日常を奪われる、ということ。映画「小さいおうち」

小津安二郎監督の「東京物語」をモチーフにした「東京家族」から
ちょうど一年で山田洋次監督の新作が届けられた。
第143回直木賞を受賞した中島京子の同名小説を読んだ監督が
読了と共にすぐさま原作者に打診をし、映画化が決定したとのこと。

主演は「告白」「夢売るふたり」の松たか子。
共演には山田洋次監督作品には欠かせない倍賞千恵子、
話題作への出演が続いている伸び盛りの黒木華、
片岡孝太郎、吉岡秀隆、妻夫木聡、室井滋、橋爪功、吉行和子、中嶋朋子、林屋正蔵など。



時代は昭和初期。
その頃にはまだ珍しい、赤い屋根を持った小さな家での物語。
少し背伸びをして建てたその一軒家には
平井雅樹・時子夫妻と息子の恭一が住んでいた。
上流階級とまではいかないが、雅樹が重役を務める玩具会社は
開催の決まった東京オリンピックを前に業績が絶好調で
時子の好きな家具や食器で家を飾る程度には裕福だった。
そんな平井家に、山形から女中奉公のため東京へと出て来た
布宮タキが住み込みで働き始める。
懸命に尽くしたおかげで、タキは恭一から慕われるだけでなく、
時子からも厚い信頼を得ていった。
しかし、平穏な平井家にひとりの男が現れる。
彼の名は板倉正治。
玩具会社のデザイナーとして平井家を訪れた正治は
音楽や美術に造詣が深く、時子は次第に正治に惹かれてゆく。
やがて・・・


映画は、平井家で働いていたタキの回顧録になっていて
回想シーンのタキを黒木華が、現代のタキを倍賞千恵子が演じている。
この組み合わせがまず素晴らしい。
二人の女優が同一人物を演じる時に必ず生じるズレ(違和感)が無く
布宮タキの人生が一本に繋がっているのだ。
すっかり白髪になったタキが小さな背中をさらに小さく丸めながら
「長く生き過ぎたの」とさめざめ涙を流すその向こうに
愛する平井家のために誠心誠意務めてきた若き日のタキの姿がはっきりと見える。

1940年に開催予定だった東京オリンピックが
日中戦争の勃発で流れてしまうとは夢にも思っていなかった時代。
時子の恋路とそれを見守り続けたタキの奇妙な三角関係は、
昭和モダンで彩られた背景の中で
山田洋次作品らしからぬ艶かしさを放ちながら進行する。
時子に対し主従関係以上の想いを抱きながら生涯独身を貫いたタキは
身分相応の幸せだけを願っていたはずだが
戦争はそんな細やかな希望を、日常を根こそぎ奪い去ってゆく。
こうしたアプローチは黒木和雄監督の「TOMORROW 明日」や「紙屋悦子の青春」、
新藤兼人監督の「一枚のハガキ」などでも用いられた手法で
直接的な表現を避けることで、戦争の愚かしさや悲惨さをより際立たせている。

教科書に記された歴史がその時代の全てではないように、
甥の健史(妻夫木聡)はタキの昔話に付き合いながら
歴史の裏に埋もれた当時の暮らしぶりを少しずつ学んでゆく。
事の成り行きを最後まで見届ける健史は、映画を観ている私達だろう。
タキや恭一が健史に語り聞かせる昔話は、これからの日本を生きてゆく
私達への遺言であり、タキの「長く生き過ぎたの」は山田監督の嘆きにも聴こえる。
描かれる時代は全く異なるが、前作「東京家族」と地続きの作品であることは間違いない。

俳優陣は皆好演していて、芝居劇としても安心して楽しめる。
倍賞千恵子&黒木華はもちろん、松たか子も室井滋も妻夫木聡も皆いい。
松たか子は「ヴィヨンの妻」「夢売るふたり」からさらに成長し
大女優としての風格も出てきた。
いささか気が早いが、今年の映画賞には必ず顔を出してくるに違いない。

「永遠の0」の紹介時に、

若者が観る戦争映画の入門編としては最適の1本。
この映画をきっかけにして歴史に少しでも興味を持ち
過去の名作に触れて下さる方が増えることを祈る。


と書いたのだが、この「小さいおうち」は
「戦争とは何か」をより深く知る為には最適の1本。
若い方にこそご覧いただきたい。

映画「小さいおうち」は現在公開中。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:小さいおうち
    配給:松竹
   公開日:2014年1月25日
    監督:山田洋次
   出演者:松たか子、倍賞千恵子、黒木華、妻夫木聡、他
 公式サイト:http://www.chiisai-ouchi.jp/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



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原作本。

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音楽はジブリ作品でお馴染みの久石譲。
倍賞千恵子が出ているからではないのだろうが
どこか「ハウルの動く城」を思わせるスコアでなかなか良かった。




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毎年8月になると読み返してしまうのが、こうの史代の2作。
悲劇的なエピソードを重ねるのではなく、
平々凡々とした生活の背景に「戦争」があった、というアプローチは
黒木和雄監督の作品のようで、まさに傑作と呼ぶに相応しい。
1冊で完結する「夕凪~」が入門編としても最適だが
3巻構成(後にワイド版で2巻構成になった)で
じっくりと描いた「この世界の片隅に」が圧巻。
リアルタイム世代ではなく、戦争を知らない世代が
資料を片手に描き出した作品であるという点にも希望を感じる。
若い方には特に読んでいただきたい。



戦争の悲劇を様々な形で描き続けた故・黒木和雄監督の名作群から
日本映画史に残る傑作(だと思っている)「TOMORROW 明日」、
原田芳雄と宮沢りえがほぼ二人芝居で火花を散らす「父と暮せば」、
遺作となった「紙屋悦子の青春」をピックアップして紹介。


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「Tomorrow」は、1945年8月9日、
長崎に原爆が投下される直前までを描いた作品。
原爆投下を知らずに何事もなく日々を過ごす人々を淡々と描き続け、
最後の最後で、長崎を「光」が包んで終了する。
光った後の姿を一切描かないことによって、
その瞬間、全てが「無」になってしまったことを強烈に印象づけるのだ。
私としては、本作が戦争を描いた邦画のNo.1だと思っている。


発売中■DVD:「紙屋悦子の青春」

「紙屋悦子の青春」は黒木監督が生涯をかけて行ってきた
「戦争への静かな抵抗」をテーマにした最終作。
昭和20年の鹿児島を舞台に、一組みの男女のひたむきで静かな愛を描いている。
群衆劇のスタイルをとっていた「Tomorrow」からさらに焦点を絞ったような脚本を
「父と暮せば」のような演劇的なセットで描いた秀作だが
残念ながら本作が黒木監督の遺作となってしまった。




発売中■DVD:「一枚のハガキ」

日本人監督の最高齢である99歳で新藤兼人監督が撮った作品。
同じ部隊に所属した100人の兵士が、戦地に赴くか、それとも掃除夫として働くかを
上官の「くじ引き」によって決められ、人生の明暗を分ける。
夫を亡くし、唾を吐きかける場所すら持たないひとりの未亡人(大竹しのぶ)と
偶然「当たり」のくじを引いて命を繋げた男(豊川悦司)。
二人の交流を新藤監督らしいユーモアを交えつつ描いていく。

監督の実体験を元にしていながら語り口はとても穏やか。
まるで監督から昔話を聞かされているような感覚に陥る瞬間が何度もあった。
全てを受け入れて、次の世代への遺言として作品を遺す。
スクリーン一杯に黄金に輝く稲穂が映し出された時、
私達はこの光景を守っていかなくてはならないのだ、と強く思った。



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