悲恋の少女キャリーの37年。映画「キャリー」、70年代後半〜80年代前半の名作ホラーまとめ | 忍之閻魔帳

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▼悲恋の少女キャリーの37年。映画「キャリー / CARRIE」

ホラー映画と学園モノのミックス、しかも主人公の少女には超能力あり。
現代の(主に若者向け)ホラー映画でも欠かせないヒットの条件を全て満たしていた
ブライアン・デ・パルマ監督の名作中の名作「キャリー」がリメイクされた。
オリジナル版が公開された1976年から2013年まで37年もの時が経っているのだが
2作を見比べてみても驚くほど変化が少ない。
最小限に止められた補足や追加は、全てオリジナル版への敬意でもあり、
リメイク版ならではの主張にもなっている。
そこで今回は、新旧の「キャリー」を比較しながら紹介してみたい。


発売中■Blu-ray:「キャリー」
発売中■DVD:「キャリー」

オリジナル版の「キャリー」は、ちょうど先月末に初Blu-ray化されたばかり。
ホラー好きならば誰もが知る名作だが、私にとって「キャリー」は
ブライアン・デ・パルマに惚れ込むきっかけとなった作品で思い入れは強い。
地味で目立たない少女キャリーは、学校では連日陰湿ないじめに遭い
家では狂信的な母親から厳しい躾を受け続ける日々を送っていた。
ある日、キャリーを不憫に思ったクラスメイト(女性)のひとりが
自分のボーイフレンドを使ってキャリーにパルムへの誘いをかける。
引っ込み思案な性格が災いし誰とも仲良くなれなかったキャリーは
学内一番のモテ男から誘われたことで希望を抱くようになり
少女として当たり前の青春を謳歌し始めようとしていた。
しかし、そのパーティ会場には思わぬ罠が。。。というストーリー。

まったくの余談だが、本作は同年公開された
ジョージ・ルーカス監督の「スター・ウォーズ」と合同でオーディションが実施された。
キャリーをパルムに誘うトミー役を演じたウィリアム・カットの本来の目的は
ルーク・スカイウォーカーだったがこちらには落選。
しかしデ・パルマの目には留り、トミー役を手にする。
本作にまだ無名だったジョン・トラヴォルタやナンシー・アレンが出演しているのは
そういった経緯もあるのだろう。


発売中■DVD:「歌え!ロレッタ 愛のために」

オリジナル版でキャリーを演じたシシー・スペイセクは当時26歳。
超能力を持ったいじめられっ子の17歳を演じるには年齢がいき過ぎていたのだが
結果的にこのキャスティングの妙が、怯えたような眼差しの奥に眠る
キャリーの狂気と怒りの感情とその暴走を見事に表現していた。
シシーは本作でオスカーの主演女優賞にノミネートされるが残念ながら受賞は逃し
その4年後の1980年に「歌え!ロレッタ 愛のために」で遂にオスカー像を手にする。

思春期の淡い気持ちを、その絶頂で踏みにじられたらどうなるか。
敬虔なクリスチャンである母親からの抑圧と、学校内でのいじめだけで進行する
終盤までの長い長い『溜め』は、超能力を全解放したキャリーの怒りを
何倍にも増幅するための仕込みに過ぎない。
オリジナル版の見どころはラスト15分に集約していると言っていいだろう。
デ・パルマお得意の官能的なカットと観客をあっと驚かせた幕引きで
本作は30年以上も名作として語り継がれているのである。

リメイク版の主演は「キックアス」「モールス」で
今や大スターのクロエ・グレース・モレッツ。
キャリーの母親役には「キッズ・オールライト」のジュリアン・ムーア。

ストーリーはオリジナル版とほぼ同じ。
ファッションセンスまでどことなく古めかしいが
いじめの手段としてスマートホンやYouTubeを利用しているのは
時代版ならではの味付けと言えよう。

リメイク版の特徴は以下の通り。

・冒頭に母親の出産シーンがある

キャリーの産まれた日が大罪を背負った日である母親にとって
この日を描いておくことは重要。
これを冒頭に入れたことで、母娘モノとしてのストーリーに厚みが増した。

・敵味方がはっきりしている

オリジナル版ではキャリーに救いの手を差し伸べる
友人の真意を図りかねるところがあるのだが、
リメイク版でははっきりと分かる形で謝罪の台詞を口にしており
誰が味方で誰が敵なのかがはっきりした。これは善し悪しか。

・後半のキャリーに手心あり

オリジナル版では殻を破りかけたところで絶望の淵に叩き落とされ
その復讐として敵味方関係なく全て燃やし尽くそうとするキャリーだが
リメイク版では暴走中のキャリーにも自制が利いている。
味方してくれたスー(ガブリエラ・ワイルド)に対しても
ちゃんと気遣いを見せ、オリジナル版のようなトラウマを植え付けたりもしない。
その分、敵と認識したクリスに対しての仕打ちはさらに酷いことになっているが。

クロエ・グレース・モレッツが可憐過ぎていじめられっ子に見えないのは残念。
いじめている側のクリスよりも手助けしてくれるスーよりも可愛いので
何故この子が学校中でいじめられているのかが今ひとつ伝わって来ないのだ。
クロエちゃんなら、女子からいじめを受ければ
助けてくれる男子が掃いて捨てるほどいるはず。
シシー・スペイセクは全く違った。
歪んだ教育の下、太陽の射す方に伸びることが出来なかった少女の
陰鬱としたオーラを全身から発していて、シャワーシーンの狼狽ぶりは
申し訳ないと思いながらも、心の片隅で「気持ち悪い」と感じてしまうほどだった。
ああいう「何をするかわからない」怖さがクロエ版のキャリーにはないのだ。
それが最も端的に表れているのが、後半のプロムのシーン。

哀しみを前面に押し出したクロエ版に対し
シシー版は精神の糸がプッツリと切れたように見える。
怒りなのかどうかすら判別つかない。
何も考えず、ただ目に入るもの全てを破壊しそうな恐ろしさがある。

長々と書いてしまったが、傑作と呼ばれた1976年版の
熱狂的なファンである私から見ても、このリメイクは充分及第ではないかと思う。
オリジナル未見には少々古臭いホラーにしか映らない可能性もあるが
私は「キャリー」復活歓迎組として本作を支持する。

映画「キャリー」は現在公開中。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:キャリー / CARRIE
    配給:ソニー・ピクチャーズ
   公開日:2013年11月8日
    監督:キンバリー・ピアース
   出演者:クロエ・グレース・モレッツ、ジュリアン・ムーア、他
 公式サイト:http://www.carrie-movie.jp/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



発売中■Blu-ray:「ハウス / HOUSE」(輸入盤)

デ・パルマの「キャリー」を語る上で欠かせないのが
大林宣彦監督の怪作「ハウス / HOUSE」。
「キャリー」と同じ1977年に公開された「ハウス」は
当時「映像の魔術師」と呼ばれていた大林監督のテイストが色濃く出た作品だった。
色使いや独特なカットはデ・パルマに通じる部分も多く
同じ時代だったことから、私の幼少期にとって二人は2大トラウマ監督だった。
本作では「少女の暴走」が描かれ、続く「ねらわれた学園」は超能力を描き、
「時をかける少女」で大林演出は頂点を極めることになる。

「ハウス」は海外での評価も高く、日本では未発売のBlu-rayも発売中。
幸運にも楽天で輸入盤を取り扱うショップがあり、私も即購入した。
字幕表示を切ってしまえば日本盤と何ら変わらない。

これまでビデオ、DVDなどで何度も見返してきたが
叔父に連れられて初めて劇場で見た時のインパクトが蘇るほどの高画質に驚愕。
音声がモノラルなのが残念だが、そのチグハグさも含めて「ハウス」らしい。
今日本で発売されても確実に修正されるであろう
「マックったら焼き芋キチガイなんだから」もそのままハッキリと発音。
南田洋子のおばちゃまの怖さ、池上季実子の美しさ
大場久美子の音痴&大根さ、今やDHCの顔となった神保美喜のへなちょこカンフー、
全編が見どころと言っても過言ではない。
この流れが角川全盛期の「ねらわれた学園」などに受け継がれてゆくわけで
日本のホラー史を語る上では外せない作品でもある。
1977年の日本にこれほどポップなホラーがあったことを誇りたい。



▼ホラー/サスペンス映画が隆盛を極めた70年代後半~80年代前半の名作群


アルフレッド・ヒッチコック「サイコ」(1960年)
ロマン・ポランスキー「ローズマリーの赤ちゃん」(1968年)

ここだけは別枠。
年代もぐっと離れているが、この2本が後の作品に与えた絶大なので敢えて入れておく。


ウィリアム・フリードキン「エクソシスト」(1974年)
トビー・フーパー「悪魔のいけにえ」(1974年)
スティーヴン・スピルバーグ「ジョーズ」(1975年)

「エクソシスト物」の元祖である「エクソシスト」、
今年久しぶりに続編が作られた「悪魔のいけにえ」、
凶暴化した●●タイプのパニック映画「ジョーズ」もこの頃に登場。
3作とも多数のフォロワーを生んだ名作。


リチャード・ドナー「オーメン」(1976年)
ブライアン・デ・パルマ「キャリー」(1976年)
ダリオ・アルジェント「サスペリア」(1977年)
デヴィッド・リンチ「イレイザーヘッド」(1977年)

エクソシスト系の変形として「オーメン」が登場。
超能力を持った少女を主人公にした「キャリー」オリジナル版も1976年公開。


ジョージ・A・ロメロ「ゾンビ」(1978年)

ゾンビ物の決定版として、ロメロの「ゾンビ」が公開。
ゲームでも映画でも、未だにこの「ゾンビ」で作られたルールが
守られているのがすごい。


リドリー・スコット「エイリアン」(1979年)
ジョン・カーペンター「ハロウィン」(1979年)

ついにSFに舞台にした「エイリアン」が公開。
シリアルキラーものから、主人公のキャラクター性を際立たせた
「ハロウィン」は翌年の「13日の金曜日」のジェイソンへと続いてゆく。


スタンリー・キューブリック「シャイニング」(1980年)
ショーン・S・カニンガム「13日の金曜日」(1980年)

閉塞された空間での緊張感をMAXにまで高める「シャイニング」が公開。
「13日の金曜日」も登場し、ホラー映画はますます花盛りへ。


サム・ライミ「死霊のはらわた」(1981年)
デヴィッド・クローネンバーグ「スキャナーズ」(1981年)
ジョン・カーペンター「遊星からの物体X」(1982年)

低予算製作とサブカル的な遊び心で話題を集めた「死霊のはらわた」が公開。
クローネンバーグの「スキャナーズ」、カーペンダーの「遊星からの物体X」と共に
ホラー映画がその幅を急拡大していったのがこの頃である。