認めたくないものだな、沢尻がハマり役だということを。映画「ヘルタースケルター」 | 忍之閻魔帳

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映画化決定の頃から何度も取り上げてきた「ヘルタースケルター」。
岡崎京子の傑作コミックを、蜷川実花監督×沢尻エリカ主演で実写化した話題作が
今週末よりいよいよ公開となる。
全身整形によって美を手に入れたトップモデル・りりこが
若手に追われる恐怖や整形の後遺症に悩まされながらも
必死にスターの座にしがみつこうとする姿を描いた壮絶なドラマ。
共演に綾野剛、窪塚洋介、水原希子、鈴木杏、新井浩文、大森南朋
寺島進、哀川翔、原田美枝子、寺島しのぶ、桃井かおり。



誰もが羨むパーフェクトボディで巷の話題を独占しているモデル・りりこ。
書店に並ぶ雑誌の表紙はりりこで埋め尽くされ、
テレビをつければ、彼女を見かけない日はない。
しかし、快進撃を続けるりりこにはある秘密があった。
彼女の美は全て造られたものだったのだ。
垢抜け無い田舎娘だったりりこは、親代わりである多田社長と
怪しい噂の絶えない整形外科医・和智の力を借りて究極の美を手に入れた。
忌まわしい過去を捨て、トップモデルとして生きるりりこだが
美しい姿を維持するためには強い免疫抑制剤が必要であり
その副作用は常にりりこを苦しめていた。
ある日、多田社長がひとりの女性を連れてきた。
りりこよりずっと若い吉川こずえは、
メス一本も使っていないナチュラルビューティ。
それは、りりこがどれだけ欲しても得られない究極の美だった。
こずえの登場により、瞬く間にトップの座から転落したりりこは
激しい嫉妬と憎悪により精神までが蝕まれてゆく。




沢尻エリカは面白い。
人を小馬鹿にしたような素振りや、
親父芸能レポーターを骨抜きにする小悪魔っぷりの向こうに
「小娘なりの精一杯の強がり」が透けて見える。
真性ではない、造られた「エリカ様」像を
実はそれほど器の大きくない沢尻本人も制御し切れなくなってきている。
いつ壊れてもおかしくない不安定さを抱えながら
そのことを気取られないよう、さらに分厚いメークを施してカメラの前に現れる。
バッシングを繰り返しながら、腹の底では「面白い、もっとやれ」と煽る
芸能レポーターと、彼等の思惑に乗ってやっているつもりの沢尻の化かし合いは
まさに「THE・芸能界」であり、甘ったるい愛の言葉を口にするロックバンドより
遥かにロックな生き様を私達に見せてくれている。
そんな彼女が「ヘルタースケルター」の主人公りりこを演じるのだから
ハマらないわけがない。
「りりこ=沢尻」ではなく「りりこの一番のファン=りりこの妹=沢尻」的な
ハマり方ではあるが、2012年に「ヘルタースケルター」を実写化するならば
例え蜷川監督でなくても、りりこ役は沢尻しか考えられなかったろう。
映画を観終えてみて、その思いは確信へと変わった。



第1回:沢尻エリカ・新垣結衣(同率首位)
第2回:柴咲コウ
第3回:松嶋菜々子
第4回:北川景子
第5回:綾瀬はるか

毎年変わる「女性がなりたい顔ランキング」の歴代トップである。
去年なりたかった顔が今年は古くなる。
移り気な憧れを繋ぎ止め、一年でも長く咲き続けようとするりりこを、
4年前に「なりたい顔」のトップだった沢尻が演じる説得力たるや凄いものがある。

血反吐を吐いてもスターであり続けたいと願うりりこも
忌み嫌っているはずの過去を完璧には捨て切れない。
名声と引き換えにゴミ箱に投げ入れた「昔の自分」を
御守りのように心の奥深くにしまい込みながら、
御曹司と控え室でセックスに及び、マネージャーにSMプレイを強要する。
エキセントリックで、ガラスのように繊細。
ひび割れた心をガムテープで補強し、幸と不幸せをごちゃ混ぜにして
安定剤と共に流し込むりりこが、悔しいことにどんどん好きになっていった。

「人は簡単にテレビや雑誌の中の人間なんて愛しやしないよ」(原作より)

との声に耳を貸さないわけではない。
向けられる歓声がかりそめのものであることなど承知の上で
彼女はカメラの前でポーズをとっている。
観衆から寄せられる「もっとちょうだい」の本音が
「面白ければ何でもいいのよ」だと見抜いていても
願うなら欲しいだけ見せてあげよう。
見せてあげるから、そこに座ってじっと見てろ。
私から目を離すな。
まるで、りりこにそう言われているような2時間だった。



蜷川監督のアプローチは、動くグラビア。
デビュー作の「さくらん」も同じ手法だが
上っ面に執着するモデルを描いた本作と
蜷川監督の色使いや演出法は相性が良かったようで
短いカットを速射砲のように繰り出す演出法がプラスに作用している。
原作からの改変も極僅かで、絶対ソフトになるだろうと思っていた
過激な性描写もほぼそのまま再現。これには驚いた。
原作が発表されたのが1996年。映画の設定は2012年。
あれから16年が経過しているのだから
多少は時代の変化も取り入れて欲しかったところだが
下手にいじくり回してぶち壊しになるよりずっといいか。

その他にも、8年前「花とアリス」で可憐な少女を演じていた鈴木杏に
「どうして神様は、まず私達に若さと美貌を与え、そして奪うんでしょう」と吐かせたり
「キャタピラー」では亭主に跨がっていた寺島しのぶが
本作では沢尻に縛り上げられた挙げ句に可愛がられたり、
「疑惑」では岩下志麻に擁護してもらっていた桃井かおりが
りりこを守ろうとする女社長を演じていたりと、見どころは山ほどある。
そう言えば窪塚洋介や原田美枝子も、キャストの多くは
いくつものスキャンダルを乗り越えて一線で活躍している面子ばかり。
曲者だらけの映画で、スキャンダル処女の水原希子が
吉川こずえにキャスティングされたのも大正解だろう。

良く出来た原作とそのファンに敬意を表して
監督というよりはフォトグラファーに止まったような仕事ぶりが
映画監督としてどうなのかはさておき、
少女マンガ史に残る傑作「ヘルタースケルター」が
さほど凌辱されることなく実写化されたことは素直に喜びたい。

ただ、最後にひとつだけ。
音楽のセンスは最低最悪。
選曲も流すタイミングも、何もかもがなってない。
せっかくの戸川純も全く活かされていなかった。
「ねらわれた学園」の時代(80年代)ならいざ知らず
2012年にこのセンスはどうかと思う。

映画「ヘルタースケルター」は7月14日公開。



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岡崎京子の原作コミック。
何はさておき、まずはこちらから。



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発売中■COMIC:「洗礼 1洗礼 2洗礼 3 / 楳図かずお」

「ヘスタースケルター」を観て脳裏をかすめた作品を3つほど。



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  タイトル:ヘルタースケルター
    配給:アスミック・エース
   公開日:2012年7月14日
    監督:蜷川実花
   出演者:沢尻エリカ、寺島しのぶ、桃井かおり、他
 公式サイト:http://hs-movie.com/
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