レイトショーが似合うジブリ。映画「コクリコ坂から」 | 忍之閻魔帳

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スタジオジブリ 映画 コクリコ坂から 宮崎駿 宮崎吾朗
(C)2011 高橋千鶴 ・ 佐山哲郎 ・ GNDHDDT
発売中■Blu-ray:「コクリコ坂から 横浜特別版」
発売中■Blu-ray:「コクリコ坂から」

昨年の「借りぐらしのアリエッティ」に続き、2年連続で公開される
スタジオジブリの新作は「コクリコ坂から」。
1980年に「なかよし」で連載された高橋千鶴の同名コミックの映画化。
公開日の7月16日と言えば、シリーズ史上初の2作同時公開が話題となっている
「劇場版ポケットモンスター」と同日であり、1日早い15日には、
シリーズ完結編の「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」が公開されるなど、
今夏のメインが揃う激戦区。
1963年の横浜を舞台にしたノスタルジックな青春ドラマが
どこまで健闘できるのか、興行成績にも注目が集まっている話題作だ。
ちなみに、「コクリコ」とはフランス語で「ひなげし」の意味である。




発売中■Blu-ray:「コクリコ坂から 横浜特別版」
発売中■Blu-ray:「コクリコ坂から」



港町・横浜で暮らす16歳の女子高生・松崎海は、
下宿屋「コクリコ荘」を切り盛りしつつ、学校にも通う頑張り屋さん。
どんなに忙しくても、船乗りをしていた父を慕って
「航海の無事を祈る」というメッセージを込めた旗を上げ続け、
祖母は、健気な海の姿を見てそっと心を痛めていた。

若者達が日々論戦を繰り広げている高校では
老朽化した建物「カルチェラタン」の取り壊し計画が進んでいた。
文藝、思想、科学、それぞれの勉学に勤しむ学生達の憩いの場として
長年愛されてきたカルチェラタンを何とか残そうと奮闘する男子学生達だったが
男子だけでは校内の賛成票を増やすには限度がある。
そんな時、ふとしたきっかけでカルチェラタンにやってきた海は、
男所帯で埃塗れになっているカルチェラタンの清掃を持ち掛ける。
次第に輝きを取り戻してゆく建物と、広がる女学生達の協力の輪。
そして、カルチェラタンが取り持った海の淡い初恋も実を結ぼうとしていたが
二人には、ある秘密が隠されていた。
監督は「ゲド戦記」以来、5年振り2作目となる宮崎吾朗。企画および脚本は宮崎駿。
声優陣は、長澤まさみ、岡田准一、竹下景子、石田ゆり子、風吹ジュン、内藤剛志、
風間俊介、大森南朋、香川照之など。
主題歌は「ゲド戦記」に続き手嶌葵が担当。
1976年に森山良子が歌った「さよならの夏」を武部聡のアレンジでカバーしている。




原作は、「70年安保粉砕」をスローガンに掲げ学生運動が過激化していった
1970年代の話なのだが、映画版は7年ほど遡った1963年に設定されている。
たかだか7年ほど、わざわざ動かす意味があるのかどうか
若い方にはピンと来ないかも知れないが、1963年といえば
東京オリンピックの開催を翌年に控えて日本中が浮き立っていた頃で、
物語から重い社会背景を取っ払うという意味で、
この7年は作品に大きな影響を与えている。

潮風の香る港町の風景と、カルチェラタンという響き、
詰め襟とセーラー服、二人乗りの自転車、真っ直ぐな若者達、働く女達。
戦後の爪痕は徐々に薄れ、皆が「上を向いて歩こう」と思い始めた時代の物語は
「幕開け」や「再起」や「決別」といった前向きなメッセージに溢れ、
安穏とした日々を過ごしている私達の背筋をピンと伸ばしてくれる気がする。

物語上の重大な秘密として、まるで東海テレビ制作の昼ドラかと思うような
ベタな展開が仕掛けられているのだが、
ジブリの手にかかると、ベタな昼ドラも爽やかな青春ドラマへと変化する。
出生の秘密を辿ってゆく海と俊に悲壮感がなく、
結果がどうであれ真っ直ぐぶつかっていこうとする姿が何とも微笑ましい。

演出力やトータルバランスも含めて「ゲド戦記」からの進歩は目覚ましく
宮崎吾朗監督の評価を見直すきっかけになる良作だとは思うのだが、
台詞のひとつ、小物のひとつが世界と完璧に馴染んではおらず
「ノスタルジック風」で止まっているのは惜しい。
「ALWAYS 三丁目の夕日」を見た時と似た感覚、と言えばお分かりいただけるであろうか。
宮崎吾朗監督は1967年生まれなので、資料を掻き集めて
ここまでの物を作り上げただけでも大健闘なのだが、
傑作コミック「この世界の片隅に」でこうの史代(1968年生まれ)が作り出したような
時代の再現性があればと欲張らずにいられない。

チラシの裏に記載されている宮崎駿の覚書が、公式HPでも全文掲載されている。
少女マンガに対する氏の偏った考え方が見えたりする部分も含めて
とても読み応えがあるので、鑑賞前に読んでおくことをお勧めしたい。

従来のジブリ作品のように変な生き物が出てくるわけではないし、
空を飛んだりも、海の上を走ったりもしない。
ファンタジーのファの字もない作品なので、お世辞にもファミリー向けとは言えない。
作品を見る前に時代背景を多少なりとも入れておかなければ
高校生以下は「?」で終わってしまう可能性もあるだろう。

しかし、私はこの「コクリコ坂から」を強くプッシュしたい。
子供を寝かしつけた後に、大人だけで見るジブリがあっていいじゃないか、と思う。
ジブリ作品の中で「海がきこえる」「耳をすばせば」「おもひでぽろぽろ」なども
ファンタジー系と同じぐらいに好きだ、という方なら是非とも劇場で。

映画「コクリコ坂から」は今週末16日より公開。




06月23日発売■COMIC:「コクリコ坂から / 高橋千鶴」
07月27日発売■Blu-ray:「耳をすませば」
07月27日発売■BOOK:「ジ・アート・オブ コクリコ坂から」
07月29日発売■BOOK:「スタジオジブリ絵コンテ全集18 コクリコ坂から / 宮崎吾朗」
08月11日発売■BOOK:「コクリコ坂から(ロマンアルバム)」
08月27日発売■BOOK:「徳間アニメ絵本32 コクリコ坂から」

関連商品をいくつか。
鈴木敏夫プロデューサーによると、20日にBlu-ray版が発売される
「耳をすませば」は、企画の段階では「コクリコ坂の」と争っていたらしい。
時代性なども考慮し、当時はお蔵入りになった「コクリコ坂から」が
こうして陽の目を見たのだと思うと、なんとも感慨深い。




07月06日発売■CD:「コクリコ坂から歌集 / 手嶌葵」
07月06日配信■iTMS:「コクリコ坂から歌集 / 手嶌葵」
07月13日発売■CD:「コクリコ坂から サウンドトラック / 武部聡」
07月13日発売■CD:「上を向いて歩こう / 坂本九」

坂本九の「上を向いて歩こう」は今週13日にCDが再発売。
手嶌葵の主題歌は卑怯なほどに最高。ライブも行くぞ。




■COMIC:「この世界の片隅に 上 / こうの史代」
■COMIC:「この世界の片隅に 中 / こうの史代」
■COMIC:「この世界の片隅に 下 / こうの史代」

作品とは直接関係ないのだが、文中で取り上げたので紹介。
私がここ5、6年の間でもっとも感銘を受けたコミックで
戦争を知らない世代の作家が生み出した戦争の物語の中で
最高峰に位置すると確信している傑作。
初めて読み終えた時は、ポロポロと涙が溢れて止まらなかった。




11月25日発売■Blu-ray:「未来少年コナン Blu-ray メモリアルボックス」
12月22日発売■Blu-ray:「アルプスの少女ハイジ Blu-ray メモリアルボックス」

次の宮崎作品のBlu-ray化は何かと予想していたら
脳内候補に入っていなかった2作品が飛び込んできた。
宮崎駿と高畑勲のコンビが手掛けた大傑作「未来少年コナン」と
「アルプスの少女ハイジ」が相次いでBlu-ray化決定。

「未来少年コナン」には、本邦初公開となる企画書が封入されている他、
TV放映時のサイズとは別に、16:9のハイビジョン版も同時収録という豪華仕様。
「アルプスの少女ハイジ」は、演出を手掛けた高畑勲監督の監修のもとで
HDリマスター作業が行われている。
ノーマルDVD版のBOXに封入されていたライナーノートと企画書、
これまで何度かDVDでリリースされてきた同作の
全バージョンのインタビューをまとめた小冊子も付属する。

「機動戦士ガンダム」の富野由悠季が絵コンテで、
「劇場版ポケットモンスター」の小田部羊一がキャラクターデザインで参加していた
日本アニメーションの金字塔を、この機会に是非。



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  タイトル:コクリコ坂から
    配給:東宝
   公開日:2011年7月16日
    監督:宮崎吾朗
   出演者:長澤まさみ、岡田准一、他
 公式サイト:http://kokurikozaka.jp/
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