全てはバルセロナのせい。映画「それでも恋するバルセロナ」 | 忍之閻魔帳

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■DVD:「それでも恋するバルセロナ」
■CD:「それでも恋するバルセロナ オリジナル・サウンドトラック」

「ローマの休日」や「マディソン郡の橋」などに代表されるように、
恋愛映画をよりロマンティックに魅せるためには、舞台選びが重要である。
今回、ウディ・アレンが最新作で選んだのは、情熱の国、スペイン・バルセロナ。
旅行会社も旅番組も、「スペインと言えば情熱の国」をセットで出してくるおかげで
「スペイン=男性も女性もフェロモン過剰」というイメージがあるのは私だけではあるまい。
そんなバルセロナで展開する恋物語の登場人物は、
ハビエル・バルデムにペネロペ・クルスにスカーレット・ヨハンソン。
今回は、見事なぐらいにフェロモン過剰なキャストが繰り広げる
恋愛映画「それでも恋するバルセロナ」を紹介しよう。



ひと夏のバカンスを楽しむためにバルセロナへとやってきたヴィッキーとクリスティーナ。
二人は親友だが恋愛観は真逆で、慎重派のヴィッキーは真面目な青年と婚約中の身、
情熱派のクリスティーナは、その時その時にアンテナに反応した男達と
自由奔放に恋愛を楽しんでいた。
ある日、二人が食事をとっていると、一人の男がやって来た。
その男とは、色恋沙汰のもつれで元妻から殺されかけたと噂の画家・フアン・アントニオ。
フアンは二人を別荘のあるオビエドに招待したいと持ち掛けるが
フアンの色気に興味を持ったクリスティーナに対し、ヴィッキーは警戒を強める。
結局、クリスティーナのたっての願いでオビエドに行くことにした二人。
しかし、最初にフアンと一夜を共にしたのは、クリスティーナではなくヴィッキーだった。
フアン、クリスティーナ、ヴィッキーの三角関係が出来上がろうとしている時、
フアンの別れた元妻マリア・エレーナまで現れて、事態はさらにややこしいことに…。

フェロモンたっぷりの画家フアンに、「ノー・カントリー」のハビエル・バルデム。
奔放なクリスティーナには、ウディ・アレン作品への出演が続くスカーレット・ヨハンソン。
生真面目なヴィッキーには「フロスト×ニクソン」のレベッカ・ホール。
ひとたびキレると手が付けられないマリアには、本作でオスカーを受賞したペネロペ・クルス。
監督は「マッチポイント」「タロットカード殺人事件」のウディ・アレン。


それでも恋するバルセロナ
(c) 2008 Gravier Productions, Inc. and MediaProduccion, S.L.

これは凄い。
大したことは何ひとつ起こらず、あっちこっちでくっついたり離れたりしながら
時にピストルまで持ち出して喧嘩しているだけの90分がちゃんと面白い。
ストーリーは、ひと夏のバカンスを利用して旅行に出掛けた女性二人が
バルセロナの風にあたって開放的になり、それまでの人生を見つめ直したり
新たな可能性を見出したりしながら、でも結局は「全てはバルセロナのせいね」と気付き
また元通りの生活に戻って行くという、実に良くあるお話である。
旅先のロマンスを描いた作品の大半はこのパターンなわけで、となれば後はキャスト次第。
この作品は、キャスティングの妙において同種の作品の中でも群を抜いている。
饒舌なナレーションも、しつこいほどに繰り返されるメインテーマも霞んでしまうほど
強烈な個性を持った登場人物達(しかも美女揃い)がバチバチと火花を散らしているだけで
ウディ・アレンでなくとも眼福、眼福という状態。

凡人にの私には完全には理解出来ないものの、何となく分かる気がしたのが、
フアンとマリアという二人の芸術家の間は、一般人(クリスティーナ)を挟むことで
かえって上手くいくのだろうな、ということ。
愛情を注ぐ対象をパートナーに絞るのではなく、共通の対象を見つけることで
均衡を保とうというのは、暴れ馬のようなマリアのパトスを分散させる手段として
おそらく最良の選択だったのだろう。
(かと言って、平穏な状態が未来永劫続いたかと言われると疑問符ではあるのだが)

日本人の感情に最も近いのがヴィッキーではないか。
旅先で気が緩みながらも一応の自制心を持ち続け、いざ一線を越えてしまうと、
一夜のアバンチュールと割り切ることが出来なくなってしまう難儀な性格は
日本人なら多少ならずとも共感し得る部分があるはずだ。
ちなみに、ヴィッキー役のレベッカ・ホールはこれだけの濃いキャストに囲まれながら
埋もれることなく、スカーレットともいいコンビだった。今後が楽しみ。

本作でオスカーを受賞したペネロペ・クルスは
私的には「ボルベール」でのペネロペが圧倒的に素晴らしかったので
正直なところ本作で、というのは解せないのだが魅力的なのは確か。
これだけエキセントリックで天才肌の美女を演じられるのは、
2009年ではペネロペぐらいしか思いつかない。

そして、3人の美女が奪い合う男性にキャスティングされたハビエル・バルデム。
「ノー・カントリー」では、バナナマン日村かと見紛う髪型の殺人鬼役を演じて
見事にオスカーを受賞したのだが、本作では一転してフェロモン全開の優男を演じている。
観る前は、自分が口説けば女性は落ちると信じて疑わないナルシズムと、
相当な遊び人だと分かっていながら、それでも女性達が惹かれてしまうような役を
ハビエル・バルデムで大丈夫なのか(失礼)と思っていたのだが、
ペネロペとスカーレットが奪い合うだけの男にきちんと見えた。
ハビエル・バルデムを初めて知った「海を飛ぶ夢」で、彼は尊厳死を望む老人役だった。
作品によってこれほど顔を変える役者も珍しい。

教訓めいた台詞も出て来るので、おそらくウディ・アレンとしては
余白部分に色々とメッセージを仕込んでいるのだろう。
だが、そんなことは一切気にせず、キャスティングだけ観て決めるのも良いと思う。
観に行く予定の方は、劇場近くにスペイン料理の店がないか探しておくことをお勧め。
観賞後に絶対行きたくなるので。

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■DVD:「マッチポイント」
■DVD:「タロットカード殺人事件」

ウディ・アレン監督のスカーレット・ヨハンソン出演作品。
スカーレットとの出会いは、アレン作品にも多大な影響を与えたように思う。

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  タイトル:それでも恋するバルセロナ
    配給:アスミック・エース
   公開日:2009年6月27日
    監督:ウディ・アレン
  キャスト:ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス、他
 公式サイト:http://sore-koi.asmik-ace.co.jp/
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