ちょっと太めのウルトラマン。映画「守護天使」 | 忍之閻魔帳

忍之閻魔帳

ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)

★今回の記事の携帯向けはこちら。

守護天使
(c)2009『守護天使』製作委員会

密室で展開するサスペンスにオタク心理を絡めた「キサラギ」は、
2007年度公開の邦画で私的なNo.1であった。
その「キサラギ」を撮った佐藤祐市監督が、「今週、妻が浮気します」
「シバトラ」などのドラマを経て、2年振りに目を付けたのが、カンニング竹山。
「キサラギ」でドランクドラゴンの塚地武雅から役者の才能を引き出した佐藤監督は、
今度はカンニング竹山を使って、冴えない四十男をヒーローに仕立て上げた。



須賀啓一(カンニング竹山)はどこにでもいるサラリーマン。
毎朝、仏頂面でテレビを見ている妻・勝子(寺島しのぶ)から
お小遣いとして500円玉1枚をもらって出勤、満員電車に揺られ、
必死で働くも給料は雀の涙ほどという典型的な小市民生活を送っている。
ある日の朝、満員電車の中でお年寄りに座席を譲る女子高生・宮野涼子(忽那汐里)と遭遇。
彼女に興味を持った須賀はこっそり後を追いかけたのだが、
人混みに押されてコケてしまい、大切な500円玉も彼女も見失ってしまう。
しかし、哀しみ暮れる須賀の前に、天使のような微笑みで彼女は立っていた。
彼女との出会いは、何ひとつ良いことのなかった須賀に訪れた、初めての恋だった。

主人公の須賀にカンニング竹山。
須賀の唯一の友人である村岡昌志に「アフタースクール」の佐々木蔵之介、
須賀が担当するイケメンの引きこもり少年・佐々木大和にAAAの與真司郎、
須賀が憧れる女子高生・宮野涼子には、現在放送中の「魔女裁判」にも出演中の忽那汐里。
その他、寺島しのぶ、バナナマンの日村勇紀、柄本佑、波瑠、大杉漣など。
監督は「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」も控えている
「キサラギ」の佐藤祐市。


守護天使
(c)2009『守護天使』製作委員会

絶賛された「キサラギ」に続く作品ということを意識してか、
オタク心理×サスペンスな展開や、ネットを使ったコミュニケーションとその弊害など、
本作には「キサラギ」との類似点が多い。
少女が心配なだけという純粋な動機を理解されず、ストーカーと間違われ、
不気味がられてしまう主人公の悲哀は、「キサラギ」のイチゴむすめ(香川照之)そのものだ。

だからといって、この作品は単なる使い回しではない。
登場人物も物語の舞台も限定されていた「キサラギ」と違い、
カンニング竹山が演じる主人公の須賀を集中的に掘り下げることで、
良いことなど何ひとつ無かったと思っている四十男の人生が、
実は本人が思うほど酷いものではなかったこと、
それどころか、人間関係にはむしろ恵まれていたということを上手く描き出している。
引きこもり少年、幼馴染みのチンピラ、いつもガミガミ怒鳴っているだけの妻、
一見すると最悪の人間関係も、映画の終盤には愛しく見えてくる。

物語が核心に近づいてくるまでが割とスローペースで、序盤の掴みが弱いのは気になった。
原作からしてそうなのか、脚本でそうなってしまったのかは不明。
冒頭のテレビ番組や、須賀が持っているウルトラマンのストラップが
きちんと後半で意味を持ってくるあたりは上手い。
特にウルトラマンは完全にやられた。
そのまま飛び去るかと思った。

全体的には綺麗にまとまった良作だが、ストーリーが予想以上にシリアスで、
チラシや予告編からは想像もつかないような血生臭い展開を見せたりもするので
「キサラギ」のような爽やかな映画だと思っている方は要注意。
監督は違うが、テイストはむしろ「アフタースクール」に近い。

『「101回目のプロポーズ」や「電車男」など、
しょせんは作り物のファンタジーだ』とボヤいている方は必見。
あなたの周りにもきっと隠れているに違いない、小さな幸せに気付かせてくれる作品だ。

以下はネタバレツッコミ。

いくら村岡から「警察沙汰はご免だ」と言われていたとしても
命を賭けても守りたい対象に危険が迫り、最早一刻の猶予もないという非常事態においても
まだ警察の手を借りようとしない点は気になった。
監禁された場所から少女が須賀の携帯に電話をかけて来た時、
着信履歴を警察に提供すれば発信元は簡単に特定出来たはずでは。
結果オーライとはいえ、新聞配達が始まる前に殺されていたらどうするつもりだったのか。


ネタバレ終わり

▼関連商品


■BOOK:「守護天使 / 上村佑 (宝島社文庫)」
■BOOK:「セイギのチカラ / 上村佑」

上村佑の原作本。
「セイギのチカラ」は、6月15日に発売になったばかりの最新作。


■DVD:「キサラギ スタンダード・エディション」
■DVD:「アフタースクール」

【紹介記事】密室劇の新たなる達人現る。映画「キサラギ」
【紹介記事】密度は濃いが、爽快感に欠ける。映画「アフタースクール」

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:守護天使
    配給:エイベックス・エンタテイメント
   公開日:2009年6月20日
    監督:佐藤祐市
  キャスト:カンニング竹山、佐々木蔵之介、寺島しのぶ、他
 公式サイト:http://syugotenshi.jp/index.html
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★