奇跡を支持したアメリカの今。映画「スラムドッグ$ミリオネア」 | 忍之閻魔帳

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スラムドッグ$ミリオネア
(C)2008 Celador Films and Channel 4 Television Corporation

「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」
「ダウト あるカトリック学校で」
「フロスト×ニクソン」
「ミルク」
「チェンジリング」

例年以上に強豪が揃った今年のオスカーで、作品賞と監督賞の他、
最多の8部門を制したのが、この「スラムドッグ$ミリオネア」である。
10館という超小規模公開から始まった作品が
アメリカ映画界最高の賞を獲得するまでのサクセスストーリーは
スラム育ちの青年がクイズ番組に出場し、大金を獲得するまでを描いた
本作のストーリーともオーバーラップする。

インドでも高視聴率を誇る人気番組の「クイズミリオネア」。
その番組が今、最高の盛り上がりを迎えていた。
まともな教育も受けていない、スラム育ちの青年ジャマールが、
あと1問で番組史上最高額の賞金を手にしようとしていたのだ。
「スラムドッグごときが分かるはずがない、きっと何か裏がある」と怪しんだスタッフは
ジャマールから不正の自白を引き出すため警察に逮捕させる。
初めは不正に違いないと思っていた警官だが、ジャマールの生い立ちや
過去のエピソードを聞くにつれ、次第に感情移入していく。
監督は「トレインスポッティング」「28日後・・・」のダニー・ボイル。


面白い。
確かに良く出来ている。
が、この映画がやっていることは、2時間を費やした「潔白の証明」である。
番組側が用意した問題をジャマールが解けたのは、
事前に問題を入手していたわけでも、会場に仲間が潜んでいたわけでもなく、
過去の経験が偶然問題とリンクしていただけなのだ、ということを、
ひとつひとつ説明しているに過ぎない。
要するに観客は、ジャマールを尋問している警察官とほぼ同じポジションなのだ。
冒頭でジャマールが大金を手にすることが明かされていなければ、
最終的にどうなるのかで2時間引っ張ることも出来たのだろうが、
そうしなかったのは、そこ(結末)に辿り着くまでの道中こそが
この映画の肝だからではないかと思う。

偶然の上に偶然が重なっているようで、
全てが予め定められていた運命のように思わせる展開は
私の敬愛する今敏監督の「東京ゴッドファーザーズ」に少し似ている。
今監督はパンフレットの中で(うろ覚えで申し訳ないのだが)
「何かにつけて非現実的だ、非科学的だと言われる時代だからこそ
 奇跡というものをもう一度信じられるような作品にしたかった」と語っていた。

本作の主人公であるジャマールも、いくつものピンチを奇跡的にくぐり抜け、
ついには番組史上最高額の2000万ルピーを手にする。
彼を支えたものは、稀に見る幸運と、ラティカへの一途な愛だけ。
大スターにも、マフィアのボスにも、スラム育ちの青年にも、
奇跡は誰の上にも等しく訪れる可能性があるのだ、という希望こそが、
本年度のオスカーを受賞した最大の理由であろう。

昨年「ノー・カントリー」が作品賞を受賞し、
本年「スラムドッグ&ミリオネア」が作品賞を受賞したことは
アメリカが今どこに向かって進んで行こうとしているのかを明確に表している。
「ベンジャミン・バトン」に感動し、「チェンジリング」や「ダウト」に唸らされたが、
やはり今年はもっと力強い、希望の光が欲しい、ということだったのでは。

エンドロールの楽しさでハッピー指数がさらに倍。
出来過ぎたおとぎ話も、たまには心地良い。

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全編で流れる音楽がどの曲も素晴らしく、
オスカーで音楽賞、歌曲賞をダブル受賞したのも納得。

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今敏監督のアニメ。
舞台設定やキャラクターなど、何もかもが違う話なのだが
奇跡の描き方や観賞後の心地良さがどことなく似ている。
アニメを毛嫌いする方でも楽しめる人情劇なので、幅広い映画ファンにお勧め。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:スラムドッグ$ミリオネア
    配給:ギャガ
   公開日:2009年4月18日
    監督:ダニー・ボイル
  キャスト:デヴ・パテル、マドゥル・ミッタル、フリーダ・ピント、他
 公式サイト:http://slumdog.gyao.jp/
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