天才女形の光と影。映画「花の生涯 梅蘭芳」 | 忍之閻魔帳

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花の生涯 梅蘭芳
11月20日発売■DVD:「花の生涯 梅蘭芳 スペシャル・エディション」
11月20日発売■DVD:「花の生涯 梅蘭芳 & さらば、わが愛 覇王別姫 ツインパック」

チェン・カイコー監督の代表作はと聞かれれば
おそらく10人中9人が、いや、もしかすると10人全員が
「さらば、わが愛 覇王別姫」と答えるであろう。
ひとりの男の人生を通して、京劇の世界と中国史を余す事無く描ききった
「覇王別姫」は、1993年度のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した。
あれから16年、「北京バイオリン」や「PROMISE」などの作品を経て
チェン・カイコーが再び京劇の世界を映画化することとなった。
それが、今回紹介する「花の生涯 梅蘭芳」である。

花の生涯 梅蘭芳
11月20日発売■DVD:「花の生涯 梅蘭芳 スペシャル・エディション」
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京劇の名門に生まれながら、幼くして両親を亡くし、代わりに育ててくれた伯父も
些細なことで処刑されてしまった梅蘭芳(メイ ラン ファン)。
やがて、美しく成長した梅蘭芳は10代にして才能を開花、
京劇界の誇る女形のスターとして活躍するようになる。
しかし、京劇界に新たな風を送り込みたい梅蘭芳の考えは
伝統を重んじる師匠の十三燕(シー サン イェン)と対立。
同じ日に別々の劇場で舞台を上演し、動員数で勝負をつけることに。
梅蘭芳の才能に惚れ込んだ邱如白(チウ ルー パイ)のアドバイスを受けた
梅蘭芳の舞台は十三燕を圧倒、京劇界の世代交代が鮮明になった瞬間だった。
スターの道を駆け上っていく梅蘭芳は、その後も邱との連携でヒットを連発、
貞淑な妻も迎えて順風満帆に見えた。
ある日、京劇界きっての人気男形、孟小冬(モン ツァオ トン)と
運命的な出会いを果たす。
製作総指揮は「レッドクリフ Part I」「Part II」のハン・サンピン。
監督は「さらば、わが愛 覇王別姫」のチェン・カイコー。
主人公の梅蘭芳には「インファナル・アフェアIII 終極無間 」のレオン・ライ。
恋人役の孟小冬に「LOVERS」「2046」のチャン・ツィイー。
梅蘭芳に舞台出演を依頼する日本人役として安藤政信も出演している。


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これは私の不勉強でもあるのだが、本国では「四大名旦」と呼ばれている
梅蘭芳についてほとんど予備知識がなかったため、この映画で初めて、
梅蘭芳という人がどういう人生を歩んだのかを知ることとなった。
つまり、京劇に関しては「さらば、わが愛 覇王別姫」で観た程度、
梅蘭芳についてはど素人という立場であることをお断りしておく。

冒頭でも述べた通り、「さらば、わが愛 覇王別姫」は
程蝶衣(レスリー・チャン)という一人の男を通して
京劇世界に身を置くことの厳しさや、永遠に報われることのない、
胸を焦がすほどの想い、文革の波に呑み込まれていく芸術を描いていた。
3時間にも及ぶ大作ながら、画面を凝視したまま映画が終わったのを
昨日のことのように思い出す。
しかし本作は、京劇の全盛期を象徴するスター・梅蘭芳が主役ということで、
梅蘭芳の人生を追うことを第一に作られた伝記映画になっている。

本作の大きなテーマになっているのが、
破ろうと思えば簡単に破ることが出来るはずの
「紙の枷」に縛られ続けた、梅蘭芳の抱える孤独であろう。
スター故の孤独、天才故の孤独は、梅蘭芳に限らず多くの伝記映画で語られて来た。
しかし、本作からは「さらば、わが愛 覇王別姫」の程蝶衣が感じていた、
絶望の淵を彷徨うような深い孤独は見えて来なかった。
それはおそらく、主人公の置かれた環境と、映画の尺に原因があるように思う。

「さらば、わが愛 覇王別姫」は3時間の長尺を使って
程蝶衣が京劇の世界に売られる時から自決するまでの全てを描いているのだが、
本作では、梅蘭芳の孤独の原点になったはずの幼少期がばっさり省略されている。
30分近く短縮したおかげで(それでも147分あるが)見易くはなったものの、
全体的に言葉足らずな映画になっている。
尊敬する師をその手で打ち負かしつつも激励の言葉をかけてもらい、
信頼出来る兄弟と出会い、貞淑な妻を迎えつつも運命の女性と恋に落ち、
舞台に立てばいつでも拍手喝采、それでもまだ埋められないほどの孤独が
私には今ひとつ理解出来なかった。
凡人ならではの意地の悪い見方をさせてもらえば、「贅沢」に見えてしまったのだ。
孟小冬との別れを哀しむ梅蘭芳が、妻の作ったスープを飲みながら
ポロポロと涙を流すシーンがある。妻はそっと肩を抱き「そんなに泣かないで」と慰める。
ゴーギャンをモデルにした「月と六ペンス」という小説に
「彼は自分に与えられた才能に苦しめられている。
 だから彼の近くにいる者は、彼のことを許してやらなければならない」
というフレーズが登場する。
妻はおそらく、彼の才能を誰よりも認め、大きな愛で許したのだろう。
最後まで独りのままで逝った程蝶衣とは、やはり雲泥の差である。
不幸続きの幼少期にもっと時間をかけていれば、
こういった不満(誤解)は無くなっていた気がする。

衣装や舞台のシーンなど、芸術面の完成度は相変わらず極上で、
特に青年期の梅蘭芳を演じたユィ・シャオチュンが素晴らしい。
彼のインパクトが強過ぎて、その後のレオン・ライが霞むほどである。
とても映画初出演とは思えない。

花の生涯 梅蘭芳
11月20日発売■DVD:「花の生涯 梅蘭芳 スペシャル・エディション」
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忘れてはならないのが、梅蘭芳に舞台出演を依頼しに来る
田中少佐を演じた安藤政信。
日本公開時だけ名前を大きくしてもらったチョイ役出演の俳優も多い中、
「日本人の良心の象徴」とも言える重要な役どころを好演している。

チャン・ツィイーのファンというだけで観に行くにはハードルが高い作品。
梅蘭芳についてある程度の予備知識があって、京劇がお好きな方なら文句無し、
「さらば、わが愛 覇王別姫」を傑作だと思っている方も観ておいて損は無い。

「花の生涯 梅蘭芳」は、3月7日より新宿ピカデリーにて先行公開中。
札幌シネマフロンティア(北海道)、ミッドランドスクエアシネマ(愛知)、
なんばパークスシネマ(大阪)、MOVIX京都(京都)、神戸国際松竹(兵庫)、
ユナイテッドシネマキャナルシティ13(福岡)では4月11日より公開予定。

▼関連作品


11月20日発売■DVD:「花の生涯 梅蘭芳 スペシャル・エディション」
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▼関連書籍

■Book:「花の生涯 梅蘭芳」
■Book:「花の生涯 梅蘭芳 写真集」
■Book:「梅蘭芳 世界を虜にした男」

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  タイトル:花の生涯 梅蘭芳
    配給:アスミック・エース、角川エンタテイメント
   公開日:2009年3月7日(全国で順次公開予定)
    監督:チェン・カイコー
  キャスト:レオン・ライ、チャン・ツィー、安藤政信、他
 公式サイト:http://meilanfang.kadokawa-ent.jp/
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