近過ぎて見えないもの。映画「幸福な食卓」北乃きい 勝地涼 | 忍之閻魔帳

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■DVD:「幸福な食卓 プレミアム・エディション」

「博士の愛した数式」(小川洋子)
「夜のピクニック」(恩田陸)
「天使の卵」(村山由佳)など、
ここ最近、女性作家原作の映画化が続いているが、
今回紹介する「幸福な食卓」も、吉川英治文学新人賞を受賞した
瀬尾まいこの原作の映画化である。

監督は、20年後には確実にカルトムービーとして
その名を轟かせているであろう傑作「奇談」の小松隆志。
小松監督はテレビドラマの演出も多数手掛けており、
「ドラゴン桜」「結婚できない男」など、何故か阿部寛とのタッグが多い。

音楽は小林武史。
「深呼吸の必要」ではMY LITTLE LOVER、
「地下鉄に乗って」ではSalyuと、
自身がプロデュースするアーティストを主題歌に起用して来たが、
今作でも、MR.CHILDRENの大ヒット曲である「くるみ」を
「くるみ for the Film 幸福な食卓」として使用している。

【あらすじ】

受験を控える中学3年の中原佐和子(北乃きい)は、
父の弘(羽場裕一)、兄の直(平岡祐太)と共に暮らす4人家族。
母の由里子(石田ゆり子)だけは、
ある事件をきっかけに一人暮らしをしている。

ある朝、父が朝食の席で父親引退を宣言。
仕事も辞め、大学を受験したいという。
特に反対する理由もなく、素直に受け入れる家族達。
一見、個人の意志を尊重する、理解ある家庭に見える中原家だが、
見えないところで少しずつ歪みが生じ始めていた。

そんな時、佐和子の中学にひとりの転校生がやって来た。
底抜けに明るく、真っ直ぐな性格の大浦勉学(勝地涼)に
次第に惹かれていく佐和子だったが・・・


「大丈夫。気づかないうちに、守られてるから。」

というキャッチコピーと、Mr.Childrenの「くるみ」が全てであり、
あとは何を書いても付け足しにしかならないのだが、
これで済ませると試写状をいただいた
サイバー・バズや松竹にも悪いのでもう少し書いてみる。

「どこにでもいる家族の、どこにでもある話」を題材にしながら
どこかで「映画」であることを捨て切れない作品の多い中、
この映画の登場人物や風景は実に飾り気が無い。
デビュー当時の池脇千鶴を思わせる北乃きいを始め、
強面のくせに内面はナイーブな羽場裕一も、
秀才であるが故に色々な物が見えてしまう平岡祐太も、
背負う事も逃げる事も出来ずにいる石田ゆり子も、
悪ぶりながらも「けっこういい奴」なさくらも、
明るく正しく、少し間の抜けたボンボンの勝地涼も、
登場人物の誰ひとりとして「作り物」の匂いがしないのだ。
「博士の愛した数式」や「夜のピクニック」でも
似たような演出がされているが、
観客に舞台裏を感じさせないという点において
本作は2作を大きく上回っている。

観る前は「家族の再生」がテーマかと思っていたのだが、
実際には、張りつめた糸を緩ませる術を覚え、
近過ぎて見えていなかったものに気付かせるという
「佐和子の成長物語」になっていた。
家族ひとりひとりのエピソードには敢えて深入りせず、
佐和子と勉学との関係を丁寧に描くことで
佐和子を支える多くの「見えざる手」を鮮明に描き出している。

ミスチルの「くるみ」をバックに
佐和子が延々と川辺を歩き続けるラストシーンは出色。
時折後ろを振り返り、前を向き、また振り返りを繰り返す佐和子の表情と
「くるみ」の歌詞が染み渡り、素晴らしい余韻を残してくれる。

物語のラストが正月明けなので、観るなら今が最適。
大切な人と、桜の芽が膨らむ前までに劇場へ。



■CD:「しるし/Mr.Children」


70万枚を突破し、現在もヒット中の最新シングル。
劇場用にアレンジされた「くるみ」もこちらに収録されている。



■DVD:「夜のピクニック 通常版」(2月23日発売)

■DVD:「夜のピクニック 特別版」(2月23日発売)

冒頭で挙げた女性作家原作の映画の中で
最も本作に近い雰囲気を持っているのがこちら。
24時間かけて80キロの道のりを歩く「歩行祭」をきっかけに
新たな一歩を踏み出そうとする若者の物語。
主人公は18歳なので「幸福な食卓」からもう一世代上。
出演は多部未華子、石田卓也、西原亜希、郭智博、池松壮亮など。

かなりいい線まで行っているのだが、
原作の地味さを映像でフォローしようとしたのか、
キャラクター設定や特撮など装飾過多になってしまった部分があり、
そこがそのままマイナス点になってしまっている。
非常に惜しい作品。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:幸福な食卓
    配給:松竹
   公開日:2006年1月27日
    監督:小松隆志
    出演:北乃きい、勝地涼、平岡祐太、石田ゆり子、他
 公式サイト:http://ko-fuku.jp/pc/
 公式ブログ:http://blogs.yahoo.co.jp/kurumi070127
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