二枚落ちで作り上げた秀作「王の男」 | 忍之閻魔帳

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王の男 01
*2005 Cinema Service Co. Ltd. All Rights Reserved

サイバーバズの依頼でもう1本続けて紹介しよう。

今回紹介する映画「王の男」は、
韓国史上最大の暴君と呼ばれた朝鮮王朝第10代の王、
ヨンサングン(燕山君)と、彼と関わったことにより
人生を一変させられた旅芸人を描いた作品である。
韓国では昨年上映され、17週間にも及ぶロングランヒットを記録。
「ブラザーフット」「SILMIDO」「シュリ」といった強豪を追い抜き、
韓国映画の歴代動員記録を塗り替えた。

多額の製作費を投じたわけでもなければ、
韓国映画におけるヒットの定番である朝鮮戦争を舞台にした作品でもない。
一人の暴君にスポットを当てたこの作品が
これほどまでに支持されたのは何故なのか。
「王の男」という映画がヒットしている、という話は
今年の春頃から日本にも届いていたものの、
今ひとつピンと来ていなかったのだが・・・
あれから半年、ようやく観る事が出来た。
作品の素晴らしさもさることながら、
この映画が大歓声をもって受け入れられたことに、
韓国の映画ファンの懐の深さと、韓国映画の進化の早さを見た。

まず、ヨンサングンという人物を良く知らない方のために
経歴を紹介しておこう。

1476年、朝鮮王朝第9代国王ソンジョン(成宗)の
第一子として生まれる。

1494年、父ソンジョンが死去。
若干18歳にして第10第国王に即位する。

朝鮮仏教の寺院・円覚寺を妓生(芸者)の養成学校に改築し、
国中の美女を宮中に招いて饗宴を催す等、
古い戒律を次々と打ち破る破天荒ぶりを発揮する。

1504年、実母ユンヒを服毒自殺に追いやった関係者を粛正。

国庫破綻により国家財政が逼迫。
功臣の土地を没収し、民衆に重税を課するも改善せず、
予てより不信感を募らせていた臣下からクーデターにあい、
王位を剥奪される。2ヶ月後、30歳にして死去。

この中にも出てくる実母の服毒自殺。
これこそが、ヨンサングンを暴君たらしめた「核」であり、
同時に本作の重要な「鍵」にもなっている。

王の男 02
*2005 Cinema Service Co. Ltd. All Rights Reserved

【あらすじ】

チャンセン(カム・ウソン)とコンギル(イ・ジュンギ)は
幼馴染みの旅芸人。
花形のチャンセンと女形のコンギルのコンビは常に観客を魅了したが、
美しいコンギルを地元の有力者にあてがう座長に業を煮やし、
ついにチャンセンはコンギルを連れて一座を飛び出すことに。

辿り着いたのは漢陽の都。
チャンセルとコンギルは、都を賑わしている
暴君ヨンサングン(チョン・ジニョン)と、ヨンサングンが宮中に招き入れたという
妓生のノクス(カン・ソンヨン)との噂を聞き、二人を皮肉った芝居を思い付く。
評判はたちまち宮廷まで届き、王の重臣チョソンはチャンセルらを逮捕、
侮辱罪で死刑を宣告する。
しかしこの芝居が意外にもヨンサングンに気に入られ、
一座は宮廷での暮らしを許されることとなる。


これまでの韓国映画といえば、感情表現が不必要なほどに派手で、
必要とあらば、残虐的なシーンであろうが生々しいシーンであろうが、
包み隠さず全て描くのが定石であった。
しかし、本作には派手な感情表現も残虐シーンもない。
ヨンサングンとコンギルが同じ寝室に居ながら、そこから先は描かない。
刀で斬りつけるシーンでは、直前でヨンサングンの顔のアップに切り替わる。
比類なき残忍さで歴史に名を残す人物を題材にしているため、
入れようと思えばいくらでもその手のシーンを入れられたはずである。
しかし、監督のイ・ジュンイクは、敢えて韓国映画の王道的手法に頼らず、
オーバーアクションも残虐表現も使用しない、
「二枚落ち」の状態で本作を完成させた。

抑揚の利いた演出で描かれる、暴君ヨンサングンの心の闇と、
その闇を唯一感じ取ることの出来たコンギル。
「同性愛というタブーを描いたためにヒットした」と揶揄する声もあるようだが、
本作で描かれているのはそんな単純なものでは無い。
コンギルに人形劇をせがみ、コンギルの膝枕で眠るヨンサングンは、
母親殺害の真相に迫った台本をチャンセン一座に上演させ、
そこでコンギルに母親役をさせる。
舞台上で殺害されるコンギルを見て逆上するヨンサングン。
ヨンサングンは、コンギルを通して母親の面影を追い求めているのだ。
そしてコンギルは、暴君として重臣達からすら疎まれる
ヨンサングンの中に、計り知れない孤独を見る。
これは、恋愛感情の枠をとうに超えた、人間愛の物語なのである。

コンギルとヨンサングンの関係にチャンセンが深く絡んで来ない点や
コンギルに嫉妬の炎を燃やすノクスが意外と手緩い点など、
各登場人物にもう少し深みが欲しかった気もするが、
観ておいて損は無い。
「グエムル 漢江の怪物」「トンマッコルへようこそ」に続く1本として、
韓国映画ファンにはお勧めだ。
「覇王別姫」あたりがお好きな方にも。

ただし、「その筋」の映画だと思って観に行くと
裏切られる可能性もあるので、腐女子や貴腐人の方々は要注意。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:王の男
    配給:角川ヘラルド
   公開日:2006年12月9日
    監督:イ・ジュンイク
    出演:カム・ウソン、イ・ジュンギ、チョン・ジニョン、他
 公式サイト:http://www.kingsman.jp/
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