「実践的『哲学』入門」(後半) | 新人経営コンサルタントの奮闘記録-読書を通じての徒然日記-

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週刊東洋経済 2010/8/14-21
「実践的「哲学」入門」(pp.34-73)


では少々時間が空いてしまいましたが、前回の【前半】 に引き続きまして、早速後半に入って行きたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します!


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【前半】
■週刊東洋経済流「哲学ポートフォリオ」
■現代の重要テーマを4つの主義で斬る!


【後半】
哲学が人気を博す理由と「哲学的思考力」
大前氏流「哲学的思考力の鍛え方」には要注意!


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哲学が人気を博す理由と「哲学的思考力」


現在、「哲学」が人気を博しているようでが、その背景には一体何があるのでしょうか?


関西学院大学社会学部准教授の鈴木謙介氏(この方、社会学者・宮台真司氏のお弟子さん)は次のように述べます。


「ノウハウではなく、ホンモノを読みたい」という欲求が高まるのは、当然。もっと抽象的なこと、原理的なことを知りたいという潜在的な欲求があった。》(p.73)


確かに、氏の指摘はその通りだと思います。


昨今、多様な「ノウハウ本」が世間を賑わせています(例えば、すぐに年収アップにつながる勉強法や時間管理法を売りにする書籍やパーソナルブランドを高めよう!と啓発する書籍等)。


私自身、そのような書籍を否定することなどいたしませんが、ただ、どうもその手の本が出版され過ぎで、供給過剰な気がしています。


そのため、読み手はもう「ノウハウ本」に飽きている(ノウハウ本欲求充足状態)。そうすると、次に欲求する書籍が、鈴木氏の言葉を拝借すれば《ホンモノ》ということになるのでしょう。つまり、現在はホンモノ渇望状態ということですね。


そこで、《もっと抽象的なこと、原理的なことを知りたい》という読み手の、その欲求を満たすものが、まさに「哲学」だったんでしょう。確かに、「哲学」は抜群に抽象度が高く、根源的な思考をしますしね。


ちなみに私自身、以前も記したことがあるのですが、「ノウハウ本」はほとんど目を通しません。


その理由はシンプルでして、あまりにも考えずに読めてしまうからであり、それゆえ、読んだらすぐ忘れるからです(苦笑)。


従って、そのような書籍に貴重なお金と時間を費やす(投資する)ことは、どうも気が引けてしまうのです。


その点に改めて気づくと、やはり私は、書籍に対して次の点を求めていることがわかります。


つまり、「ノウハウ」ではなく「ノウホワイ」


もう少し具体的に言いますと、「どのように年収をアップさせるのか?」ではなく「なぜそもそも年収をアップさせる必要があるのか?」や「年収をアップさせる意味とは何なのか?」、また「年収をアップさせようと思考するその根拠とは一体何か?」といった《原理的なこと》を書籍に求めるということです(これはある意味、メタ思考ですね。でも、周囲からは「めんどくせ~」と言われます(悲)。が、私は全くヘコみません(笑))。


私は、このような「ノウホワイ」を思考する力が、つまり本質を追究する力が1つの「哲学的思考力」だと思います(大前氏も同様なことを仰っていましたが)。


「ノウハウ本」も決して悪くはありません。むしろ、使い方次第では読み手に多くの効用を提供してくれることでしょう。だたし、「ノウホワイ」を考えずに、「ノウハウ」に飛びついてしまうがゆえに、少なくない人々が「ノウハウ」を追い求めるなかで立ち止まってしまうのです。


「あれ?そもそも自分は何がしたかったんだっけ??」


そうならないためにも、まず順番として「ノウホワイ」に思考を巡らせて欲しいと思います。そして、その次に「ノウハウ」ですね。優先順位を大切に!


大前氏流「哲学的思考力の鍛え方」には要注意!


では、この「ノウホワイ」という、いわば、事象の本質を追究する思考はどのようにすれば鍛えることができるのでしょうか?


大前氏は、次のような端的なアドバイスをします。


《哲学的思考を身に付けるためには、具体的にどうすればいいか。まずは哲学の古典をしっかり読むべきだ。》(p.59)


なるほど、確かにこれは、最も基本的かつオーソドックスな方法ですね。


しかしながら、私はここに「大きな罠(トラップ)」があると思っています(笑)


それは、哲学の書籍を読むトレーニングをしっかりとせずに、いきなり古典に手を出してしまえば、「何を言っているのかわからん!」となり、二度と哲学の書籍に目を通さなくなる、というもの。


それゆえに、哲学の書籍に読み慣れていない方は(私も含めて)、古典などに手を出してはいけない。むしろ、そうではなく、まずは解説書からスタートすること。


もちろん、解説書にも玉石混交があると思います。けれども、”複数”(決して、1冊ではなく)の解説書に目を通して、そこから共通点と差異点を見いだせば、それだけで十分に理解へのフェーズに近づくことでしょう。


「どうも多くの学者や実務家が書籍や雑誌の中で、カール・H・マルクスという名前を挙げている。確かマルクスは、経済学者であり、哲学者でもあったな。そうか、ではマルクスの本で、代表的な作品でもある『資本論』でも読んでみるか!」


これは、大変に危険なことでしょう。


例えば、経済学者、哲学者でも、マルクスの大著である『資本論』を最初から最後まで読んだ人は決して多くはないと思います(スイマセン、そうではないとも思うのですが)。そんな状況で、専門家でもない方が『資本論』に手を出してしまえば大きな火傷をしてしまうこと間違いなし。そして、火傷ならまだしも、哲学自体に変なアレルギーを持ってしまうかもしれません。


だからこそ、大前氏流「哲学的思考力の鍛え方」には要注意!なのです。


「哲学的思考力」を鍛えるためには、まずは入門書として数冊の解説書を読む。次に基本書に進んで、そこでさらに理解したい点があれば、その点を専門書を読んでさらに深く理解していく。


私は、これが多くの方にとっての「哲学的思考力の鍛え方」だと思っています(無論、私はそうしています)。


ただ、哲学書を読むトレーニングを学生時分にしっかりと受けている方にとっては、当然のこととして、大前氏が述べる、古典を読むというアプローチで良いと思います。


大前氏も、どうも高校生の時から哲学の書籍に親しんでいたようです。


《私が哲学書を読みあさったのは高校生のとき。難書として知られるカントの『純粋理性批判』も高校生のときに読んだ。》(p.59)


このように、学生のときから哲学の書籍(しかも、大前氏は『純粋理性批判』!ん~ホントか?スイマセン、失礼いたしました(苦笑))に触れていれば、いきなり古典を読んでも、著者のパーソナリティや人間関係、またその古典が著された時代背景や専門用語の理解といった予備知識もあると思うので、たいして苦も無く読み進めていけると思います。


ただし繰り返しになりますが、そうではない方にとっては、何よりもまず解説書からのアプローチです。焦ってはいけません。急がば回れです。


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以上、後半では哲学が人気を博す理由や「哲学的思考力」を、また「哲学的思考力の鍛え方」について触れてきました。


言うまでもないことなのですが、やはり多くの方が哲学の書籍を読むことは、本当に良いことだと思います。それは、他人ではなく自分で考える力を醸成することに貢献するからです。


その意味で、これからも多くの方が哲学に触れ、「ノウハウ」のような他人の考えを追求するよりも、「ノウホワイ」といった本質を追究する思考を実践していかれることを切に望みます。


私も負けないように「ノウホワイ」を意識して、他の誰でもない、自分だからこそできる思考を実践し、発信していきたいと思います!


Have fun this weekend!!


余談:

今回改めて認識しましたが、私のようなデキナイ人が、大前氏のようないわゆるデキル人のコメントをまに受けると非常に危険ですね。というのも、そうすると目的が達成できないので(つまり、哲学的思考力を鍛えることができない!)。


これは少し見方を変えると、デキル人の陥穽(落とし穴)とも言えます。


デキル人は(もちろん、デキナイ人もですが)、必然的に自分の経験則から色々なコメントをします。デキル人は聞き手にとって有効だと思うからこそ、そのような自らの経験を踏まえたコメントをすると思うのですが、しかしながら、聞き手全員にとってそれが有効かと問われれば、答えは「NO」でしょう。


聞き手の中にはデキル人もいれば、中程度の人も、またデキナイ人もいます。にもかかわらず、それらを十把一絡げにして、聞き手全員をデキル人かのように扱い、自らのコメントを述べるのも、どうかなと思います。デキル人であればこそその点に配慮して、たった一人ではなく、何人かの聞き手のパターンを想定して有効なコメントを述べてほしい。紙幅の都合上なかなか難しいとは思いますが、私なら極力そうします。


「デキル人のパラドックス」。


今回大前氏の記事を読みながら、私はそんなパラドックスを垣間見ました。


追伸:

そのデキル人・大前研一氏が、「哲学書を読むポイント」と「仕事をするうえでのポイント」を挙げております(p.60)。


色々な意味で、勉強になるかと思いますので以下に引用させて頂きます(無論、これらのポイントに対して、批判的に(「本当にそうか?」と)目を通していただければと思います)。


【哲学書を読むポイント】

1.「わからなくても読む」が重要。

2.ギリシャの哲学書を押さえよう。

3.ファラデーの『ろうそくの科学』など自然科学の基本書を読もう。


【仕事をするうえでのポイント】

1.「ウィキペデイア」などの”答え”をそのまま飲み込むな。

2.「現象」を追わず「本質」をつねに問い続けよ。

3.「質問力(inquisitive mind)」を磨こう。


【関連記事】

「実践的『哲学』入門」(前半)


【逆説(パラドックス)関連記事】

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