忘れない出来事 | サービスの良いお店のつくりかた

忘れない出来事

日は、ふと思い出した昔の、
かれこれ三年前のお話。
一生忘れられない、出来事があった事を書きたいと思います。



僕の大好きなレストランがありました。


3日に1回立ち寄る程のヘビーユーザーでしたが、
理由は至極簡単で、
そこの店長が大好きだから。


このお店は、盆も正月も関係なくて、
365日いつでも開いてます。
そして、何より凄いのが、
この店長は就任後、
約二年程、一度たりとも休んだ事が無かったのです。
たったの一度も。(!)


仕事帰りにサクッと寄って、
他愛も無い話をしたり、
その店長だからこそ、
醸し出される雰囲気とかが好きで、
勿論、自分の仕事が終わった後に開いていると言うのも、
大好きなパスタがあるのも、大きなポイントなんですが、
でもやはり一番は、その店長に会いに行く事でした。


2006年の正月過ぎ。
新年の挨拶をメインに立ち寄ったら、
生憎、店長不在。奥で事務仕事をしている模様。

ま、仕方が無いかと取り敢えず、
少し前に入社した新人の彼に、
ジントニックと、パスタを注文するが、
約10分程放ったらかし。何も出て来ない。

挙句の果てに、その後に入ったお客様のドリンクは
あっという間に出て来た。
忘れられているのは何となく分かっていたが、
好きな店なので、取り敢えず気付く迄、
待とうと思っていた矢先の事だったから、流石に催促した。
伝えたのは、これまた余り見ない新しい女性スタッフ。

その後、ジントニックは直ぐに出て来たが、
横でそれを見ていた、オーダーを取ってくれた彼は、
黙々とコーヒーマシンを手入れしてる。

なんだかなぁ・・・と思いつつ、
注文したパスタを、先程のドリンクを催促した彼女が運んで来た。

注文したのとは違う。

思わず口から出た。
「注文したのとは違う。」
でも、まぁ良いかと思って
「食べます。これで良いです。」
そう言うと、「お作り直し致します。」
その言葉を遮って、「いやいや、良いです。」


取り敢えず早く食べて、帰ろう。
店長に新年の挨拶をしたかったけど、
きっと当分出て来れそうにも無いだろう。
また来れば良いや。
そう思って、黙々と食べ始めた。


だけど、食べていくうちにだんだん腹が立って来た。
そのオーダーテイクをした彼は、
そのミスした事を彼女から聞いているにも関わらず、
謝りにも来ない。
というか、ミスした事を分かっているから、
バツが悪くて僕の方を見れないのだ。
僕に関わりたくないのだ。


その感情は手に取る様に分かる。
が、必要なのは、そこで素直に謝る事。
そうすれば僕は、良いですよと言って、
普通に過ごせただろう。


人にミスは付き物だから、そこは責めない。
但し、ミスをした後の対応は、
一生懸命でなければならない。
素直に謝って欲しいだけなのである。


怒りが段々と昂って来て、どうしようもなくなったので、
食事途中ではあったが、チェックを頼んだ。
その時、丁度店長が奥から出て来た。

女性スタッフが事情を説明している風だった。
僕の所に来て、謝られた。

瞬間、僕は言った。
知っているクセに、彼が来ないのはおかしいと。
怒りの余り、少し声がうわずったのを覚えている。

その怒りを、今になって紐解くと、
勿論、彼が謝りに来ない事が第一だったけれども、
僕の大好きな店が、そのたった一人のスタッフの為に、
台無しにされる事も、とても許せなかった。

大好きな店長には、
本当は新年の挨拶をしたかった事。
だけど、今日は気分が悪いので帰ります、と。
こんな風になった事を詫びて、早々に出て来た。


その彼は、追いかけて来て謝ったが、
確かに、後悔したのだろう。
自分が向き合わなければならなかった、
怒っているお客様から逃げたのだから。
本当に申し訳なさそうに謝った。

だけど、僕はその場では顔も見たくなかった。
「もういいから。」
そう言い残して帰った。


・・・忘れられないのは、ここから。


家に帰って、途中、腹を満たす為に買った、
バーガーを頬張りながら、
自宅で映画を観てた僕は、
不意に鳴ったベルに驚いた。
扉を開けた瞬間に、だ。

大好きな店長がそこに立っていた。
両手にビニール袋を一つづつ携えて。

どうやって僕の自宅を知ったのか・・・開口一番、
「今日はすいません。改めて新年の挨拶に来ました。」
僕は言葉も無かった。


そして、店長曰く。
「ダサいチームですいません。でも必ず、良いチームにします。
 また可愛がってやって下さい。本当に今日はすいませんでした。
 今年もどうぞ宜しくお願いします。」と。


その両手一杯のビニール袋を差し出し、
「独り暮らしの必需品をもって来ました。」
唖然とする僕に渡し、
「もう寒いんで入って下さい。」

途中、何度も声にならない声を聞いた気がする。
少しの沈黙が、店長の気持ちを如実に語っていた。

入らない僕を見て、
(驚きと感動の余り、動けなかったというのが正解だが)

「じゃこれで・・・」と、
立ち去りかけた店長を通りの角迄追いかけ、
何度も振り返りながらお詫びされる店長に、
僕は心の中でお詫びしまくった。
見えなくなった瞬間、僕は泣いた。

忘れてはいけない。
「彼」がミスから逃げたその時の感情も、
お客様の感情がどのようになっているかも、
そして、何より店長の熱い思いを。
僕は何物にも代え難い、良い経験をしました。


部屋に戻って暫く、
感動と後悔と申し訳なさを噛み締めていた僕は、
不意に思い出し、さっき頂いたビニール袋の中を見た。


中には、ビールやら栄養ドリンクやら入浴剤やら、
おつまみ、何故か震災時帰宅支援Mapやら・・・
そして、更に何故か・・・






エロ本二冊とティッシュ
が。(爆)



日を置かず、翌日すぐに御礼とお詫びを兼ねて、
朝礼でこの話をした時に何かを感じてくれた二人と共に、
もう一度お邪魔しに行きました。

その時、例の彼も居て、大人げなかった自分を詫び、
店長にお詫びして、未だエロ本は開いていない旨を報告し、(笑)
気持ちよく食事させて貰いました。


僕はその店長が大好きでしたが、
その事があってからは、「大好き」が「愛」に変わった様な気がします。


ですから僕はいつも思います。
クレームというのは、

お客様 対 従業員 が、

人間 対 人間 に、

なれる最高のチャンスだと。

そしてもう一つ。

飲食店って、

お客様に育てて頂く所

だなと思います。

僕も沢山、本当に沢山、
愛情頂きました!



そしてつくづく、レストランって、
沢山のドラマがあって、楽しいなー!

と思います。

皆さん、どうか御贔屓の所を、
自分が育てる心算で、通ってあげて下さいね。


相思相愛のレストラン


があると、人生は楽しいと思いますよ。


あ、そうそう・・・
そのエロ本はどうなったかって?



野暮言わないで下さいよ爆弾
Sincerely,
Ebi