ACT205妄想【19】 | 妄想最終処分場

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10/19発売の本誌ACT205の続き妄想です

ネタバレものなので、未読の方、コミックス派の方はバックプリーズ!!


今回の続き妄想に関しては別途お知らせがあります。読み進めの前にこちらを一読の上お願いいたします→ACT205妄想についてお知らせ
※お知らせを未読の状態でのご意見・質問(特にクレーム)に関しては厳しい反応を返すやもしれません。必ずご確認ください。




それでは自己責任でご覧くださいませ↓








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後悔すると

痛みがあると分かっていたのに

誘惑に勝てなかった


最後だからと

何度自分に言い訳しただろう


その選択は正しかったのか誤っていたのか

その時は分からなかった



ACT205妄想【19】



だるまやの裏路地で待つ間、キョーコは何度も逃げ出したくなった。


『この前の仕事のお礼をさせて?スタンプの点数も』


そう言った蓮に対して、どうして了承してしまったのか。

お礼に食事でもと言われたが、変装しても長身で目立つ蓮と外食なんてとてもそんな気分になれなかった。安定しない体調と戻らない食欲も気付かれたくない。

結局、蓮の食事事情を心配するのが習慣化したキョーコと蓮の協議の結果、蓮の自宅で一緒に食事をする形に落ち着いた。食材の入った袋を下げたキョーコを迎えに来た蓮がこれじゃお礼にならないと苦笑したのを見て、表面上いつも通りの蓮の様子にキョーコも素早く後輩の仮面を被ることができた。


「やっぱりさ、これじゃお礼にならないね」


勝手知ったる蓮の自宅のキッチンで、キョーコが奏でる包丁の音を聞きながら蓮が困ったように呟いた。


「そんなことありません!カイン兄さんはセツカの洋服山のように買っちゃうし、私ラブミー部の仕事としてアレを受けたのに…敦賀さん、アレ自腹でしょう?」

「カインならそうすると思って行動したまでだよ。おかしかった?」

「…いえ」


カインならアリな行動だしセツカとしては乗っかるしかなかったのだが、素の蓮とキョーコの間ではありえない甘やかしっぷりはセツカが消えてしまった今キョーコを恐縮させる材料でしかない。


「でも!あんなに大量の洋服!しかもあの…セツカスタイルの服なんてそうそう着れないし、お金をドブに捨てたようなもんです」

「最上さん似合ってたのに」

「アレはセツカであって、私じゃありません。着れませんよあんな破廉恥な服…」


ヒール兄妹終了の際、セツカ用に用意された服は全てキョーコのモノだとテンに押し付けられてしまった。キョーコとしては着れるはずのない数々の高級な洋服のほとんどは今後のために預かってくれとスーツケースごとテンに預けた。一緒に預けることが憚られたセツカ用に購入したエロカワインナーすら、もう役に立つことはないだろう。

あれも処分しなきゃ…と、キョーコが普段身に着ける洋服並みの値段の下着に倹約家のキョーコはため息をつきたくなる。


「約束しただろう」

「は?」

「今度またゆっくりどこかに出かけよう…って」

「………」


蓮の言葉に、動かしていた手が止まってしまった。

恐る恐る視線を向けると、甘く柔らかな表情で自分を見つめる蓮と目が合う。昨日から、何度となく会いたいと思っていた蓮の表情がキョーコの望み通り向けられていた。

心臓がぎゅうっと掴まれるような感覚に襲われる。

この笑顔に会えた時、いつも鼓動が高まってそして胸の奥が温かなもので満たされていくのに、やはり今日は違った。


嬉しくて心の奥が震える。

胸の奥に仄かな温かさが灯る。


でもそれと同時に透明な水に一滴落とされた墨が濁りをもたらすように、底に沈んだ澱が喜びに震える心の振動で舞い上がり視界が濁って冷えていくような感覚。


この人が好きだと思った。

この笑顔を他の誰かに向けて欲しくないと愚かに願うほど。


そんな愛おしい人を―――……


…―――他人と重ねた





(今度なんて)


ありはしないのに。


キョーコは視線を手元の食材に落とし、何でもない様子で止まった調理の手を再開させた。


「最上さんはいつも俺が外食に誘っても目立つからって遠慮するだろう?変装用に使えばいいよ」

「…あんな恰好じゃ却って悪目立ちしますよ」

「そうかな?」


カインとして振る舞うのは結構楽しかったよ、と笑う蓮。表面上、いつもの先輩のように見えるのにどことなく何かを探られている様な気がするのは自分が探られたくない秘密を持ってしまっているからだろうか。


「…そうです」


キョーコは洞察力の鋭い蓮の前で、再度後輩の仮面をしっかりとかぶり直した。







「ごちそうさまでした」


出来上がった食事を平らげて手を合わせた蓮はチラリとキョーコの皿を見た。


「…最上さん、もしかして食欲ない?」


元々小食の蓮の食事よりも少ないキョーコの皿を見て、蓮は訝しんだ。主食、副菜と少量ずつバランスよく盛られた蓮のお膳に対して、キョーコの前にあったのはサラダとスープだけだった。


「実はだるまやで変な時間に食事を取ってしまって。あまりお腹空いてなかったんです」


なんか顔色も良くないし、と蓮が頬に伸ばしてきた手をすいっと避けてキョーコは空になった皿を重ねて立ち上がった。何か言いたげな蓮の表情を見ないふりをして、キョーコはキッチンの後かたずけを始める。蓮は黙ってその隣に立ち、食後のコーヒーを入れようと湯を沸かし始めた。

無言のキッチンに食器がかち合う音だけが響く。何処となくく漂う気まずさに、キョーコは後悔しはじめた。


(やっぱり、来るべきじゃなかった)


早く帰ろう、そう思っていたものの蓮が自分用のブラックコーヒーとキョーコ用のミルク入りのコーヒーをテーブルに用意し、隣に座るように促すのに逆らえない。立ち上ったコーヒーの香りに、ほんの少しおさまっていたむかつきが込み上げて、キョーコは蓮に見つからないように僅かに眉を寄せた。


「あと、最上さん。これ」


蓮が取り出して見せたスタンプに促されキョーコはカバンからスタンプ帳を引っ張り出す。もうこのスタンプ帳でさえ自分には何も意味がないものだとキョーコは内心どうでもよかった。

無言のまま差し出すと、蓮はなぜかスタンプを二つ押している。


「はい」

「あ…の…?」


手元に帰って来たスタンプを見て、キョーコは不思議そうに蓮を見上げた。キョーコの手元のハート形のスタンプ帳。「ヒール兄妹の仕事にて 敦賀蓮」の但し書きの下に大変よくできましたの100点満点の横にダメダメですの-10点のスタンプ。

デジャブを感じるそのスタンプ帳をキョーコは手元と蓮の顔を見比べる。


「90点なら90点のスタンプが…」


以前そう言っていたではないか、とキョーコは疑問を声にしていた。


蓮がBJを、カインを演じていた前半、不安定なのはキョーコにも分かっていた。でも、蓮が自力でそれを乗り越えたのも知っている。何がどうなってと具体的な話はなかったが、それはそばにいて肌で感じていた。

その後、セツカとして振る舞うはずが蓮に対して抱いた感情に振り回され、サポートはおろか足を引っ張っていた自覚すらある。

このマイナス10点はそう言うことだろうか?


「…満点、なんだけどね。本当は」

「え?」


蓮は少し視線を彷徨わせていた。


「君にはとても助けられた。ちゃんと俺のお守りになってくれて、とても感謝している。このマイナスはダメって事じゃないから安心して」

「あの…?」

「カインと約束しただろう?その約束を果たしてくれたら、このマイナスを取り消して満点にしてあげる」

「………」


無理な注文だった。

蓮と、この先の事の約束などできるはずもない。

あの時、指を絡めて握った手のひらの温度が急に蘇ってきて、キョーコはジワリと目頭が熱くなるのを感じて俯いた。


「最上さん?」


急に俯いたキョーコに蓮が心配そうに覗き込もうとしていた。


(ダメ…泣いちゃダメ…)


「な、なんでもないですっ」


蓮に完全に顔を見られる前にと、目の前に出されていたコーヒーカップを雑に手に取り、ミルクで適度にぬるくなっていたそれを一気に流し込んだ。


「…っ…!」


誤魔化すために飲んだコーヒーの香りが鼻に抜けた瞬間、治まっていた吐き気が一気に込み上げた。


「最上さんっ!?」


口元を抑えて、急に立ち上がったキョーコに蓮は驚いた様子だったが、キョーコはそんなことに構っていられなかった。一気にトイレに駆け込み、口を開いて込み上げたモノをぶちまけた。

苦しさに先ほど滲んだのとは別の涙で視界が霞む。突き上げる不快感にえずくキョーコは背中をさする手を意識できたのは、もう胃液しか上がってこなくなり静かに自分にかけられた声を聞いてからだった。


「…やっぱり、無理してたね。体調不良だって知ってて電話した俺も悪いけど」


激しい吐き気が少しなりを潜めたころ、優しく背を撫でる大きな手に冷や汗が噴き出す。便器内の吐物を見れば先ほど摂った未消化の食事少量のみで、やはり嘘だったかと蓮はため息をついた。

固まったままのキョーコの額に、蓮の手がそっと前髪を掻き分けて触れてきた。汗に濡れた額に蓮の手は妙に温かく感じた。


「やっぱり熱もある。そのくせ手足は冷えてるね。病院には行った?椹さんが行くようにって言ってたはずだけど」


(…やっぱり?…椹さんが言ってた…?)


蓮の口から零れた言葉に凍りつき、山は越したものの悪心と不快感でキョーコの思考はついていけない。

冷たい汗が手足をどんどん冷やしていくようだった。目が回る。震える手足は冷えのせいだけではなかった。


「最上さん、病院行くよ」


焦点の合わないキョーコを見下ろして、それでも嘔吐は止まったと判断した蓮はグイッとキョーコの腕を引っ張った。


「…っ、…い、やっ!」


蓮の手をキョーコは振り払っていた。


「最上さん!昨日だって病院に行ってないんだろう?」

「何でも、ありませんっ。…病院になんて、いかなくて、いいです…っ」


カタカタと震えだしたキョーコの様子に、蓮は眉を顰めた。どう見ても大丈夫とは言える状況ではない。


「…行きません。…お薬も、いりません…っ…飲めないもの…」

「何を言ってるんだ、こんな状態なのに!」


ブツブツとうわ言のように拒否の言葉を口にするキョーコに蓮も口調を強くする。

近くにあったタオルでキョーコの口元を拭うと、力ずくで引っ張り上げてトイレから外に促す。


「やっ、……っ!………つぅ……っ!!」


力なく抵抗するキョーコでは蓮の手は外れない。しかし、先導した蓮はキョーコの体重全てが急にかかった己の腕と、拒否とは違う呻きを上げたキョーコに思わず振り返った。


「…い、た……っ……」


蓮に引きずられるように、トイレから廊下に体半分出たキョーコは膝をついて床にへたり込んでいた。


「最上さんっ!?」


下腹部に手を当て身を丸めて縮こまるキョーコに、掴んでいた腕を放して蓮は身をかがめた。


「…っ、はっ……おな、か…痛…っ」


身を震わせて小さく痛みを訴えるキョーコ。

痩躯を小さく丸めて痛みを逃していると、ぬるりと、下半身に何かが伝った。


(…え…?)


思わず目を向けると、スカートの内側の白い腿に赤い液体が伝うのが目に入った。それは蓮の目にも映ったらしく、キョーコの耳に息を呑む音が聞こえた。


「最上さん、血が…っ!」



「…っ!!!いやあぁっ……!…コーン…っ!」


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……コメント欄封鎖したい…orz
本当は連続アップにしたかったけど無理くさいので、とりあえずヘコたれながらアップ。

続きはしばしお待ちくださいませ。