ACT205妄想【18】 | 妄想最終処分場

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10/19発売の本誌ACT205の続き妄想です

ネタバレものなので、未読の方、コミックス派の方はバックプリーズ!!


今回の続き妄想に関しては別途お知らせがあります。読み進めの前にこちらを一読の上お願いいたします→ACT205妄想についてお知らせ
※お知らせを未読の状態でのご意見・質問(特にクレーム)に関しては厳しい反応を返すやもしれません。必ずご確認ください。




それでは自己責任でご覧くださいませ↓








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全ての事柄が必然なら

この身に起きた現状は何を意味するのだろう

愚かに縋った自分への罰かもしれない


けれど

これを罰だと受け入れることなんて


絶対にできない



ACT205妄想【18】



「そうかい?まあ、近いうちにそうなるんだろうなぁと思っていたけど…」


キョーコの申し出に、女将はだるまやの厨房で開店前の下ごしらえをする大将にちらりと視線を走らせる。


「仕事で泊りで出かけたり、深夜に帰宅したりとご迷惑ばかりかける様になってますし、最近はお店の手伝いも出来てませんし。仕事をいただけているので、金銭面も目途がつきますし…」

「近くにしなさいとは言わないけど、いつでも遊びに来るんだよ。あの人だって喜んで腕を振るってくれるはずさ」

「………はい」


もうほとんど存在しない受けることもないだろう仕事を言い訳に、実の両親のように温かく見守ってくれるだるまやの女将に対してつく嘘。いつでもおいでと言ってくれる言葉が、今は苦しい。

肯定の返事を口にしつつ、キョーコは罪悪感で少し表情を曇らせた。女将はそれをキョーコの遠慮だと捉えたようで、それ以上の追及は無かった。

あてがわれた自室に戻ったキョーコは、少ない荷物の整理を始める。もともと荷物はごく少量。グアムロケのために準備したスーツケースに必要なモノを詰め込み、後は処分しても大丈夫なモノばかりだ。


「とにかく、早くしなきゃ…」


事が露見すればLMEに与える影響は必ず発生する。今放映中のドラマで多少注目されているが、浮き沈みの激しい芸能界。流れに乗ってメディアに露出しなければ、きっと周囲はそんなタレントいたっけ?といったように忘れていってくれるだろう。

座卓の前に座っていたキョーコは丁寧に書き上げた便箋を折り畳み、封筒の中に仕舞い込んで自分の手帳を広げた。先月まで細かく書きこまれたスケジュールは、これから先は疎らとなり翌月をめくるとほとんどが空白だ。


「タイミング…よかったな」


この状態なら急に自分が消えても仕事でかける迷惑はかなり軽微なものだろう。

10代で…しかも高校生で妊娠したなんて、事務所としては迷惑でしかないだろう。しかも相手は妖精の王子だなんて、いくらメルヘン思考のキョーコでも対外的に口にしていいものではないことは分かっている。

手帳といっしょに取り出したがまぐちをぱちりと開けた。コーンからもらった原石と、蓮からもらった薔薇から生まれた結晶。キョーコはその二つを複雑な気持ちで手のひらに握りしめた。

結局椹に病院に行くようにとは言われたものの、行く事なんてできなかった。昨日ほどの吐き気は無いものの、ふわふわと安定しない感覚は続いている。

キョーコの手は昨日から無意識に下腹部に当てられ得ていることが多くなっていた。体調不良の原因は思い当たっている。病院でその事実が明るみに出るのも怖いし、仮に風邪と診断されて薬を出されても飲むことなんてできない。

手帳を閉じ仕舞い込もうとカバンを開くと、ちかちかと光る携帯電話のランプが目に入った。

メールの着信を注げるそれ。なんとなく嫌な予感がしたが、キョーコの手は吸い寄せられるように二つ折りの画面を開く。


『新着メールが1件』


開けば差出人の名前は社。セットで思い浮かぶ先輩に頭を振り、ケータイを放り出したくなったが表示された本文をキョーコの目は辿っていた。


『ラブミー部の依頼を出したいんだけど、空いてる時間をメールで教えてくれる?』


その内容にギクリと警戒したのと安堵したのと半々で、キョーコは自分の心境を理解できなかった。昨日のきまぐれの仕事は代役で滞りなく終了したのだろう。そもそも着ぐるみの仕事なのだ。蓮も社も自分があの坊だとは知らないはずだからそう警戒しなくてもいいはず。

そして、メールが社からだったことに安堵の溜息を洩らした。


(受けれるはずないじゃない)


社からのメールには具体的には依頼したい事柄は書いてないが、今まで何度かこの手の連絡は貰っているのでおおよそ察しが付く。どう返そうか悩みつつも、脳内は蓮の姿ばかりが巡ってしまう。


(会えやしない……)


会いたいと雑踏に紛れて涙したが、恋心を抱いた相手の前立つことなんてできない。

コーンは大切な人なのには変わりないが、その大切な相手に誰を重ねたのか。

重ねた相手の前に、その行為の結果の証を持った状態で接することなんて…。


ぎゅう、と携帯を握りしめ、額を座卓の天板に預けてキョーコは深く項垂れる。

予期しない、望まない妊娠の場合、10代や学生なら多くが思い浮かべるだろう痛みを伴う選択肢はキョーコの中には無かった。この状況を罰だと思うことも、無かったことにする選択もコーンに対してできるはずもない。こんな状況なのに、この子の瞳はコーンの色を受け継ぐのだろうかと何故だかそんな先ことまで時折脳裏に浮かんでは消える。

このまま姿を消して、誰も自分を知る人がいないところに行くのが一番だと分かっている。


でも


(―――……会いたい)


もう無いのだと思ったら、無性に蓮に会いたいと思った。

最後に、あの神々しい笑顔を見たい。


蓮と最後に…お互い仮面を被らずに言葉を交わしたのはいつだっただろう?




ピリリリリリ、ピリリリリリ


「ひゃっ」


突っ伏して己の思考の海に沈んでいると、握りしめた手の中の携帯がけたたましい電子音とともに震えた。キョーコはいきなり手の中で暴れたそれを驚いて取り落としてしまった。液晶画面を下に向け座卓の上に転がった携帯電話。

一瞬目に入ったディスプレイに表示された名前にキョーコの目は見開かれていた。


(いま……)


取り落とした携帯電話は呼び出しのコールも振動も、もう発していなかった。その事実に嫌な汗が背中を伝う。


『もしもし?』


携帯のスピーカーから流れ出た相手の声に、キョーコは凍りついた。


『もしもし、最上さん?』


応答のない繋がった電話に、訝しむように呼ばれる己の名前が耳に当ててない携帯から小さな音量で響いてくる。


「………つ…るが…さん…」



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短くてバランス悪いけどここで一度切りますー…ガンバレ自分…