霜月プレゼンツ!甘さ皆無のバレンタインデーベインデーネタ、続きです!
後編に納まらなかったので急遽分割…スイマセン中後編となります。(それに伴い先にアップした中編を前中編にタイトル修正しました)無計画にも程がある…。
許可を頂きましたので、メロキュン参加作品とさせていただきます!
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HARAKIRI 中後編
蓮の手中に納まってくれないバレンタインのチョコレート。
常にはない違和感に蓮は注意深くキョーコを見た。異常なまでに硬いキョーコの態度に気持ちが行っていたが、よくよく見ればその違和感の正体はいつもと真逆の栗色の髪の流れに気が付く。セットのワンピースかと思いきや、シャツとワンピースの色合いが微妙に異なる。
(このシャツ…男物??)
一瞬黒い嫉妬が渦巻くが、小柄なキョーコのの体系に合ったシャツはメンズ物のSかXS。誰か持ち主が他にいる洋服ではなさそうだ。
「ありがとうございます。受け取ってもらう言葉だけで十分です…」
「あの…このチョコ。俺にくれるんじゃないの?」
ぎゅうっと握りしめられて少し歪んだ箱に蓮は戸惑いを隠せない。手の中に降りてこないギフトはまるでキョーコのようだ。
「そんなに優しく…誰にでも返すようなお礼の言葉なんていりません」
キョーコの挙動不審っぷりに少し硬かったお礼の言葉がいけなかったのだろうか?
チョコを差し出した癖に、一人で突っ走っているキョーコは取り付く島も与えない雰囲気だ。
「つかぬことをお聞きしますが…」
「うん?」
「敦賀さん、いただいたバレンタインチョコ…どれも食べませんよね?」
「……っ」
先ほど社に突かれた質問を、キョーコにも突きつけられて蓮は答えに詰まった。いや質問と言うよりは単なる確認の色合いの言葉だった。
確かに義理チョコは食べない。その中に紛れている本命チョコだって応える気のない相手からのものは申し訳ないけど口にすることはしない。
でも、本命チョコ……自分の本命であるキョーコからのチョコだとしたら、もちろん別問題だ。
「そ、そんな事、ないよ?」
だからコレ、ちょうだい?とキョーコの硬さを取り除く様に蓮は微笑んでみせるが、顔を上げたキョーコはギッと蓮を睨みつけた。
「嘘ばかり…。いくら事務所の後輩だからといって、そんな紳士な嘘は必要ありません!」
「なっ…」
キョーコの表情に気圧された蓮は思わず身を引きそうになるが、今この場で箱から手を放したら終わりな予感がして辛うじて手は放さなかった。
「社さんに聞いてます!いただいたチョコ、一つでも手を付けると他も食べなきゃ悪い気がしてと召し上がらないこと!」
「それは…」
「食の細い…いえ食欲中枢の壊死した敦賀さんが、人の好意とはいえ栄養価値も低く多く摂取すれば百害あって一利なしの嗜好品を自ら摂取するとは考えられません!」
「いや、だから」
「第一、大して許容量のない胃袋の持ち主の癖に、お義理のチョコの食べ過ぎで体調不良になった敦賀蓮なんて事務所的にもNGですっ!」
ぶほっ、と見届け人を言いつかった社が思わず後ろで吹き出した。しかしそんな事に構ってられない蓮は自分の言葉に耳を傾けずたたみかけてくるキョーコに必死に抵抗している。
「最上さん、とにかく俺の話を…っ」
「しかも!敦賀さんには好きな人がいるのを私は知っています!このチョコはっ…!」
力任せの攻防の末、荒ぶるキョーコは蓮の手の中から強引に箱をむしり取り、力いっぱい床に叩きつけた。
パキリと中に入っているであろうチョコが割れた音が箱が潰れる鈍い音と一緒に控室の中に響いた。
「私が敦賀さんに潔くフラれ、自ら食すために作った本命チョコなんです!!」
「……え?」
キョーコの叫びに蓮はフリーズした。
「これはっ!私の愚かな感情がいっぱいに詰まったチョコです!!」
無残に叩きつけられた小箱をキョーコが拾い上げ蓋を開ける。中にはシンプルに…でもチョコとしては巨大な15㎝大のハート型の武骨なチョコレートが入っていた。もちろん、さきほどの衝撃で、そのチョコにはいっそ清々しいほど大きな罅が入り割れている。いわゆるハートブレイクな状態だ。
「わたくし最上キョーコは今日この場で大先輩敦賀様に抱いた毒悪な感情を禊としてこのチョコを食べることで捨て去り、一層女優の道に邁進し!二度と…っ、いえ恋愛などと愚かな感情を抱く三度目は決してないことをここに誓います!!」
はあはあと切らした息を整えて声高らかに宣言するキョーコに、蓮は呆然としていた。
(今…最上さん…)
明らかにキョーコが蓮に恋愛感情を抱いているという告白なのに、あまりの異常さに頭がついていかない。
(本命チョコって言った…?)
「大体貰っておいて食べないなんて、食べ物に対しての冒涜です!食べてもらえないのなら自分で食べます!」
「いや、キョーコちゃん貰ったチョコは捨てるとかそんなこと…」
「贈った本人と違う人が食べてれば同じことです!!」
「ひぃ…っ」
フリーズしてしまっている蓮の名誉のために社が口を挟むが、キョーコは蓮に対したのと同じ般若の形相で社の反論を許さなかった。
しかしそんな社が作った時間で、ようやく蓮は動き出すことができた。
「……最上さん、コレ…本命チョコ?」
「だからさっきからそう言ってるでしょう!?」
キョーコの手の中の割れたチョコを見て蓮が訊ねる。
「じゃあ……食べる」
「何を言ってるんですか!これは私が自分で食べるために作った…って……え?」
蓮の言葉に今度はキョーコがフリーズした。
「確かに、今までのバレンタイン、貰ったチョコは食べたことはないよ。一つ食べたら全部食べないと申し訳ないし」
「いえ、だからそれは知ってますっ」
「でも本命は別」
「え?」
キョーコの目の前には、神々しいまでの蓮の破顔があった。
「俺の本命である最上さんのチョコは特別」
「なに…を…」
「というか、最上さんからのチョコ以外なんて、興味ない」
「ふ、ファンを大事にする芸能人として失格の発言ですよっ」
頭の理解が追いつかないキョーコは、直前の蓮の言葉尻だけに反応するのが精いっぱいだった。
「だからこのチョコ、ちょうだい?」
キョーコの手の中から割れたチョコを一欠片、蓮の長い指先がつまみ上げる。
スローモーションのようにゆっくりだったのに、キョーコは蓮から投げかけられる言葉がなかなか理解できずにただただ持ち上げられたチョコレートの欠片を見つめていた。
「君の気持ち、いただくね」
「……っ!ダメっ!敦賀さん、それは……っ!!」
キョーコが我に返って青ざめ制止の言葉を投げかけた瞬間、チョコレートは蓮の指先から離れ口の中に消えていく。
「…っ、ぐっ…っ!」
「社さんっ!水!!お水を…っ!!!」
蓮の表情が歪むのと、キョーコが叫ぶのは同時だった。