昨年3月に終了したスキビ蓮キョ二次の大きな企画メロキュン研究所が期間限定で帰ってきました!
総合案内は、魔人 様、ピコ 様、風月 様のサイトで同時に行っております。(各主催者のお祭り会場案内記事に飛びます)アップ済み作品も整理して紹介されておりますので、ぜひ目次としてご利用くださいませ!
メロキュン研究所の隅っこにこっそりおいていただいた私ですが、蓮誕に合わせた企画始動のお知らせを見ても、連載で行き詰り、短編なんかでてこねーよ!って事でスルーする気満々だったのです。
しかし!無理矢理でもお題にこじつけられそうな小ネタが浮かんだの、せっかくの復活だしと参加させていただくことにいたしました!
……若干以上にお題のハッピー☆プレゼントからはズレていますがそこは私の適当クオリティって事で!
寝かせすぎると腐って公開する気が無くなりそうなので、何のタイミングも計らずさくっとアップすることにいたします。
前後編になります。それではどうぞ~↓
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present virus 前編
『さて、本日のゲストをお呼びしたいのですが……その前に皆さんにお知らせが』
どこの飲食店や会社の休憩室でも高確率で流れている昼休みの定番番組。その画面の中で、司会者の男性が申し訳なさそうに謝罪した。
『残念ながら本日のゲストだった敦賀蓮さんがインフルエンザに罹ったそうで、お迎えすることができませんでした。楽しみにしていた視聴者のみなさん、お花を頂いた芸能人のみなさん申し訳ございません。しかも明日はゲストの敦賀さんの誕生日でして。皆様からお預かりしたプレゼントは後日確実にお渡ししますのでご安心ください』
途端にきゃあ~!と画面の中に観覧者の落胆の悲鳴が広がるが、それと時を同じくして恐怖の…戦慄の悲鳴が某所で響き渡っていた。
***
忙しげなコールや会話で雑音が入り混じる中、しゃらしゃらとメルヘンチックなメロディーがその雑多な音の中に入り混じる。普段そんな音楽とは無縁の事務所の中で耳慣れない音を聞き取った一人が、きょろきょろと音源を探して視線を走らせると、不意にそのメロディが途切れた。
「もしもし?」
どうやら電話のコール音だったらしい。人が多く雑然としているため誰が発したか分からない電話の応対の言葉に小さな疑問は解消され、事務所内はまたそれぞれが発する仕事の雑音に包まれていく。
「俺の方にかけてくるなんて珍しいね、どうしたの?え?…ああ、テレビ見たんだ。…そう、そんなわけでさ、しばらくはしたくても仕事はできないね」
音源である携帯電話はゴム手袋を装着した手に握られ、その手の持ち主の耳に押し当てられていた。
「俺?俺は大丈夫。とはいっても、持っているかもしれないしマスクして内勤だけだよ。事務処理がたまっていたから好都合だよ。アイツもここの所スケジュールがきつかったからいい骨休みかもね」
声の調子にはまだ現れないが、言葉を発する口元は緩んでいる。
「えっ、いいの!?っていうか大丈夫なの?へ?責任を取らせてくれってどういうこと?」
電話の相手と話しているのだろう。気色ばんで僅かに音量の上がった声に、デスクでパソコンに向かっていた俳優部主任の松島は顔を上げた。
「そうなのかー、助かるよー!アイツ一人でほおっておいても死にやしないだろうけど、一人で健康的な生活なんかできないだろうし、渡りに船だよー!椹さんにはこっちから話を通しておくから、仕事として依頼する形にするね~」
その視線の先には、すでに声にまでウキウキとした気配を振りまく一人の青年の姿があった。
「仕事の方はどうなるか分からないか最低10日は確保してあるよ。今までがかなりハードスケジュールだったからね、俺も反省してる。完璧に治して体調も良くなってから、仕事再開にしたいんだ。頼むね!回復しても抵抗力は落ちているから、またもらっても困るしさ。ほら、インフルエンザだって型があるだろう?………って、あれ??」
話の途中で、電話が途切れたらしい。電話の主、社がケータイを耳から離して画面を覗き込んでいる。そこには通話終了を意味する通話時間を示す時間が表示されていた。
「ん?どうした?」
松嶋は聞いてしまった社の会話と、その声色とは異なりにやにやと嬉しげに崩れていくその表情に疑問を隠せなかった。
「いえ、ちょうど天からの助け…がですね」
天の助けじゃなくて女神降臨だよな、と心中で思いつつ社は声をかけた松嶋に向き直った。
「インフルエンザ云々って、蓮の事だろう?結局アイツ今どうしてるんだ?」
「診断を受けて薬貰って自宅療養です。流行感染症は隔離が一番ですからね。この業界でこればっかりはムリして仕事させるわけにはいかないですし」
「この時期はなぁ~、不可抗力だからな。でも蓮は普段の食生活からいって、病人を一人にして大丈夫か?」
蓮の困った食生活は目の前にいるマネージャーから愚痴のように聞かされているのだから松嶋も知っている事。自宅で一人隔離された蓮を想像したのか、上司は苦笑した。
「だ・か・ら!天の助けなんですよ!もっとも向こうもなんだか必死の懇願だったので願ったりかなったりです!」
「そ、そうか。ならよかったな。その蓮の隣にいたんだ、お前も気をつけろよ」
ついでに体だけじゃなく心の健康状態も良くなるはず!と社はつい鼻息荒く報告したが、その社の様子に理由は分からないがとにかく良い方向に話が転がったことだけは分かった松嶋はそうとだけ言い残して、また電話の鳴り出した自分のデスクに戻って行った。
「あ、もしもし?椹さんですか?実はもう本人には依頼済みなんですが……」
松嶋との会話が途切れた社は、いそいそとまた担当俳優に関する仕事を再開するのだった。
****
「~~っ、申し訳ございません!!敦賀様におかれましては大変なご迷惑と、日本芸能界に甚大な被害を与えてしまいどう償うべきか、皆目見当もつきません!」
玄関先で土下座をするキョーコを前に、蓮はマスク姿のまま唖然としていた。
「不肖最上キョーコ、せめてもの償いに敦賀様の病休期間、24時間体制で看病及び日常生活援助をさせていただきたく参上しました!どうぞ何でもお申し付けくださいませ!」
「も、最上さん…?」
玄関先で這いつくばるキョーコに、ひとまず土下座を止めさせようと蓮がその腕を引いた。
「軽いとはいえインフルエンザだよ?うつると悪いから帰った方が良い。でも償いって何?」
「それはっ!」
がばっと顔を上げたキョーコは、とても切羽詰った顔で蓮を見上げていた。そして涙ながらに訴えたのだ。
「敦賀さんのそのインフルエンザは私がうつしたものだからですぅ~!責任を取らせてくださいぃぃ~~~!」
ラブミー部の依頼で蓮の自宅で夕食を共にした翌日、キョーコは高熱を出して倒れた。
時季柄濃厚に疑われる流行感染症。病院に行き検査をすれば予想通りにインフルエンザの診断で、事務所に連絡し仕事も出勤停止、高校も通学停止。熱が下がって数日は出てきてはいけないと言われてしまった。幸いにも仕事のスケジュールは重要なモノはなく、日程の組み直しで済んだものがほとんどでぽっかりと空白の時間ができてしまったのだ。
幸い早期受診で薬もすぐにもらえたため高熱はすぐに引き、すでに何も症状はない状態になったにもかかわらず何もできない。そんな状態なのだからだるまやの手伝いにも入れず、キョーコは人様の邪魔にならないように自室に閉じこもって時間が過ぎるのをただひたすら待つしかない。
自己管理も仕事のうち。そう考えるキョーコは自分の不甲斐なさに歯噛みするしかなかった。
「敦賀さん、さあどうぞお休みになって下さい。高熱と関節痛で辛いでしょう?私もそうだったから分かります。水分を取ってマメに汗も拭きましょう!最上キョーコ、誠心誠意お世話させていただきます!」
「うーん…そうは言っても」
「ああっ、マスクは不要ですよ。息苦しいでしょう?私にうつす可能性は考えなくて大丈夫です!私かかったばっかりなので抗体ばっちりです!」
蓮のマスクを奪い取り、持参した冷えピタを素早く蓮の額に貼り、服を脱がさんとする勢いでタオルを持って巨体を寝室に押しやろうとするキョーコ。その様子に蓮は苦笑した。
「予防接種のおかげかすごく軽くてね。熱も微熱程度しか出てないんだ。念のためって社さんが検査をお願いして検査してみたら陽性ってでちゃって」
「へ?」
「まあでもインフルエンザウイルスを持っているって分かっている状態で仕事をするわけにもいかないし」
蓮の言葉に猪突猛進、強制看護を遂行しようとしていたキョーコの動きがぴたりと止まった。そう言えば、押しやっている蓮の体はとびきり高熱で熱いとは感じではない。
「…正直、ただの風邪なら普通に仕事してる程度の体調でね。そんなには辛くないし、なんだか申し訳ないやら手持無沙汰なんだ」
キョーコが目線を上げれば困ったように笑う蓮の顔が目に入った。
「そんな訳だから、つきっきりの看護とか無くても大丈夫だよ。最上さんも病み上がりなんだからしっかり休んだ方が良い」
キョーコが居てくれることは嬉しのだが、24時間体制でなど泊まり込む気満々なのだろうかと色々とツッコみどころが満載で深く考えたくない蓮は、努めて常識的な先輩としての言葉をかける。
「そんなぁ~…」
しかし、返ってきた眉を下げたキョーコの反応は予想外だ。まるでそれじゃこっちが困る、みたいな…。
「…なに、かな?俺が軽症なのが不満?」
「へっ…は…いえっ!」
少し温度が下がった蓮の言葉に、しまったとキョーコは否定の言葉を口にするがそこは正直なキョーコ。そんな取り繕いは蓮には通用しない。
じぃっとキョーコを見る蓮の視線に根負けしたのか、キョーコは視線を床に落とすとおずおずと口を開いた。
「あの…ですね。体調管理も仕事の内、と教わっておきながらまんまとインフルエンザに罹り、しかも発症直前に敦賀さんにお会いしてうつしちゃって。今も症状はなくなったんですけれども、仕事はまだできないし、学校も行けないし、だるまやの手伝いもできないし…こんなダメダメな私って落ち込んでしまいまして…」
体調管理云々で言えば、感染経路は別として発症してしまった自分も同じように責められている様な気がする蓮なのだが、キョーコの話はまだ続きがありそうなのでひとまず黙ってその先の言葉を待った。
「敦賀さんが発症したって聞いて責任を感じて…。感染源の私なら、敦賀さんのお世話をするなら誰にも迷惑はかからないし、私も少しでも役に立てる仕事ができるし…敦賀さんの無遅刻無欠席の輝かしい功績に泥を塗ったことに少しでも…」
「………」
なんだろう、面白くない。
いつぞやの…100点満点のスタンプを押した後に思わずマイナス点を押したあの時の様な感覚が蓮の中に広がった。
「社さんにも、この際だから敦賀さんのお食事管理もしっかりして体調万全の状態で仕事復帰するようにとラブミー部依頼で正式に頼まれましたし…、正直私もだるまやにいてもお手伝いもできないし、飲食店だから余計に……」
キョーコはキョーコでどんどんと墓穴を掘って蓮の地雷原に踏み入っていることに気が付かない。
「………へぇ」
俯いた頭上からかけられた蓮の声色にキョーコがハッとした時はもう遅かった。
やな予感がしてぱっと顔を上げると、そこには予想に違わずキラキラスマイルの先輩の顔。
「じゃあ最上さんに付きっきりでの完全看護お願いしようかな?」
「……!!!」
(―――…怒ってる!怒ってるわ!!!)
キョーコの頭上には久々に怒りの波動をキャッチした怨キョが本体とは正反対に楽しげに乱舞し始めていた。
「そうだね、前以上に体調万全に回復出来たら100点のスタンプ押してあげるよ」
***
「敦賀さん、症状は軽いと仰ってましたけど食欲はありますか?」
「うーん…」
「あ、訂正します。辛くて食べたり飲んだりがイヤとかではありませんか?」
思わず考え込んだ蓮にキョーコが質問を訂正してきたことに蓮は苦笑いした。
「それは無いかな?多少喉に違和感があるからいつもより水分は取っている感じだし」
「分かりました。じゃあお食事は摂れそうですね。これから数日分のメニューを考えて台所をお借りします。敦賀さんはこれを持って休んでてください」
つい大人げなく出た蓮の意地悪な反応に怯えた様子を見せたキョーコだったが、すぐに正論を振りかざして蓮を寝室に押し込めた。
水だけより吸収が良いからと、押し付けられた常温のスポーツドリンクをベッドサイドに置く。症状が軽いとはいっても軽い火照りと倦怠感がある蓮は大人しく寝室のベッドの中に潜りこむ。確かにここのところの仕事はハードで、疲れがたまっていたことは否めない。発症直前に接触したことをキョーコは大いに気にして責任を感じていたが、こんな流行の風邪などどこで貰っているかもわからない。
弱って無様な様相は晒したくないが、責任感からとはいえ甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのが嫌なわけではない。
『インフルエンザは1個のウイルスが1日で100万個にもなると言われていて増殖がとてつもなく早く感染力が強いんです!熱が低いからと言って侮ってはいけません!』
ベッドに横になって、蓮は先ほどまで交わしていたキョーコの言葉を反芻した。
(進行の速さは同じくらい…かな)
とてつもなく進行が速い病気という点では今胸の内に抱える不治の病も同じだが、違うのはその持続力。
キョーコに看病してもらうというのは以前高熱を出した時と同じなのだが、むず痒さと心地よさと、キョーコのお仕事発言に感じた不満は以前とは比較にならない。
本当に泊まり込む気なのだろうかと思ったが、それはを確認するのはやめた。なんだかんだと言ってキョーコを泊めた事もあるし、ゲストルームの使い方は勝手知ったるもの。こんなことを他の男のところでもやってはいないか心配にはなるが、きっとないだろうと何故だか勝手に思い込んでいる自分。
ましてや、今日のキョーコの発言からは蓮と同じようにインフルエンザウイルス所有中のキョーコは、ここにいる方が気が楽なのだろうと思い至る。
自分にもキョーコにも甘いなと思いつつ、蓮は倦怠感に任せて目を閉じた。
誕生日からバレンタインに続く例年のプレゼントの嵐のを病休という形でこなさなくてよくなったのに、ほんの少し煩わしさがなくなったと思ったのは罰当たりだっただろうか。
そう思ったとたん、本当は欲しいただ一人からの贈り物も期待できないんだと思い至って沈んだのも事実。
(たまには、こんなのも悪くない。神様からのプレゼント、と言った所かな)
そんな事を考えていたらスケジュール調節した俺に感謝しろ!と脳内の社が叫んできて蓮は一人ベッドで口元を緩めた。
降って湧いた休日をもたらしたのはキョーコで、しかもどういう訳か他から邪魔の入らない状況で2人きり。
愛しい少女が奏でる生活音は緩やかに蓮を眠りの中に誘い込み、誰も見る者のいない蓮の表情は嬉しそうな、穏やかな表情となっていた。
***
「強引だったかなぁ…」
台所でコトコトとお粥を煮つつ、あっさりめの野菜たっぷりのスープを作るべく野菜を切る。
蓮の部屋に上がり込み、勝手知ったるキッチンを占拠しながらキョーコは思わず呟いた。
熱を出す前にかたづけて行った状態のままのそこに、ちゃんと食べてなかったと不満を感じる傍ら、自分の痕跡の残るこの空間に感じたのは嬉しさだ。
冷蔵庫を開ければ、作り置きして行った食材がほんの僅かだが減っていて、緩む頬を抑えられなかった。
蓮の食生活がぞんざいだからこそ、こんな風に世話を焼いてこの件に関してはお説教できる。最初は何でも嫌味なほど完璧な先輩の欠点を見つけてこっそり喜んでいた風だったのに、いつの間にかその隙に入り込めるようになったことにキョーコは別の喜びを感じていた。
勢いのままここに飛び込んでしまったが、よくよく考えれば隔離療養中で2人っきり。
数日前に経験した具合が悪い時の心細さや人恋しさに、きっと蓮もそうだろうと思い込んでいた。
(馬鹿ね、一緒にいて欲しいかどうかなんてわからないのに)
お玉でお粥をかき回しつつ、ついつい考え込んでしまいキョーコははっとしてぶんぶんと首を振った。
「バカバカ!今は敦賀さんの回復が優先でしょ!喜んでる場合じゃないのよ!」
気を許せば壊死したはずの脳内回路に思考が回り始め、キョーコは気を引き締め直した。