10/19発売の本誌ACT205の続き妄想です
ネタバレものなので、未読の方、コミックス派の方はバックプリーズ!!
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それでは自己責任でご覧くださいませ↓
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ACT205妄想【8】
「……敦賀さん、の…声だった…」
文明の利器を通過して、遠くに聞こえた音は確かに蓮の声だとキョーコの耳は認識していた。それが携帯電話越しに遠くで交わされたテンと蓮の他愛のない会話だったとしても。聞きたくてたまらなかった音声にあんなわずかな音で反応する自分にこの病はやっぱり重病ねと思いつつ、胸に広がったのはじんわりとした温かさではなく何とも言えない苦みだったのはどうしてだろうか。
キョーコはベッドの上に落とした携帯電話を拾い上げて、先ほどまでの通話時間を表示するディスプレイを凝視した。ふと、キョーコの目に画面の表示時刻が目に入る。室内はカーテン替わりの木製のパーテーションが閉められダウンライトがつけられた状態で明るさから時刻を判断することができない。
「えっと…確かグアムとの時差って1時間?」
日本の時刻表示のままのキョーコの携帯電話は16:30を示している。現地時間であればもう一時間進んだ17:30のはず。日本の感覚のままでいたキョーコは、もう少しすればきれいな夕焼けが見れる時間帯のはず…と、自分の心中のざわめきを無視してたった今目にした情報からの発想に意識を向けていた。
ベッドを降りて窓に向かって歩を進める。昼間に目にした眼下に広がるビーチが夕焼けに染まる光景を想像しながらキョーコがパーテーションを開くと、夕焼けの赤などどこにもなく想像に反して未だに高い位置からのエネルギッシュな日差しがキョーコを照らし、ほとんどが日本語の楽しげな歓声が聞こえてくる。
(…あれ?)
タイムスリップしたのではないかと思わず錯覚したキョーコは、手にした携帯電話を再度ぱちりと開いてディスプレイを確認しようとして、ふと自分の腕の袖口が目に入った。そこからよくよく自分の全身に目を走らせ、キョーコはひゃぁぁぁ!!と声を上げてしゃがみこんだ。
(なっ、なっ、なっ…なんでバスローブ姿なのっ!?)
着替えた覚えのないキョーコは、先ほど中断した記憶を手繰り寄せる作業を再開する。
(ホテルについて、こんな風に海を見て我慢できなくなって…)
カードキーと、神秘的な海と太陽のエネルギーを吸収させてあげようとコーンとプリンセスローザの入ったがまぐちだけを持って手ぶらで浜辺に降りたはず。
そこで…
(そうよ!コーンに再会して…、コーンを返そうとしたけど受け取ってもらえなくて…)
そこまで思考を巡らせたキョーコは、さっきのテンとの会話を思い出す。
浜辺で眠りこけている自分は通りすがりの人にホテルまで運んでもらったと聞かされた。
叶わぬ恋に身代わりでもいいよと、慰める様に唇を重ねてくれ……
「っ!!!!!」
(ばかばかばかばか、キョーコ!!なにを破廉恥なっ!!)
しかもなんだかいい夢を見ていた様な気がするが、夢の内容は思い出せないというかなんだか思い出したくないというか…とにかく頬に上った熱とブンブンと振った頭のせいで思考はまとまらずくらくらしてくる。
「そ、そうよっ!浜辺で寝てたんだから、コーンとなんて…っ!私がなんだかとっても破廉恥な夢を見ただけよっ!!」
そう思えば、本当にどこまでが現実でどこからが夢だったのかすらキョーコには良く分からなかった。
魔法を解くためと触れ合った唇
薄暗い視界の中で揺らめく碧の瞳
自分の名を呼ぶ蓮の声にしか聞こえない声
切れ切れに浮かび上がる記憶の断片を繋ぎ合わせることはなんだかできなくて、とにかく恥ずかしいという感覚だけが迫ってくる。
(コーンは妖精だもの。太陽と海の力で白昼夢の中会いに来てくれたのかもしれないし…!)
辛い恋心を吐露することで少し心が軽くなった気はした。堪え切れず泣きだした自分をコーンは優しく慰めてくれた。
頭に上った血が少し時間をおいて落ち着いてから、キョーコは顔を上げた。先ほどまでは気が付かなかったが、来ていたはずの洋服はテーブルの上にある程度たたまれた状態で置いてあり、その上にがまぐちとカードキーが乗ってる。
「あ…」
キョーコは慌ててがまぐちを手に取り、中身を確かめる。ぱちんと開いたがまぐちを手のひらの上で逆さにすると、コロンと青い原石が落ちてきて、続いてしゃらりと鎖を伴ってピンクの涙型の結晶がキョーコの掌の上に乗った。それ以外にぱらりと、細かな粒子が手のひらの表面に当たった。それは砂で、テンが電話で言っていた通りに浜辺にいたのだから付着していて当然なのだがコーンをこのがまぐちから取り出したことを意味するもので。
じっとコーンを見つめていたキョーコは、一緒に置かれている衣類にも砂が付着しところどころ潮でごわごわしている様子から体が少しだるいのも真昼間の砂浜で昼寝したせいねと結論付けた。
バスローブを着ているのも、目が覚めるまでついていたかったけれどと言ったテンがホテルで保護された自分を介抱してくれたからだろう。
「うわっ、やだ、ミューズにも迷惑かけちゃったじゃない!」
仕事に向かったテンがホテルから連絡を受けて一度自分の為に戻ったであろうことが想像でき、キョーコはまた自己嫌悪に陥る。これ以上、テンに迷惑をかけないようにと合流できる夜に自分もセツカに変身するのだから身支度はしておこうとキョーコはノロノロとバスルームに向かった。
「夢だったのよ…」
そうは思っても、キョーコの中には電話越しに蓮の声を聴いた時のあの苦みが消えない。
(夢でも…コーンに敦賀さんを重ねた…なんて…)
キョーコの心中に広がる苦みの正体は後ろめたさと罪悪感。
自分でもはっきりとは掴めないその感情を洗い流したいとばかりに、降り注ぐ熱い湯を頭からかぶりシャンプーに手を伸ばした。
「…そう?でもイイの?キョーコちゃん」
カインの服を渡された蓮が着替えて戻ってくると、テンは部屋の隅で電話をしているようだった。聞いては失礼かなと思い離れようとした蓮は、テンの電話の相手がキョーコだと分かりその足を止めた。
「え?蓮ちゃんに?……ん、うん。まだ言っては無いけど…」
(…俺?)
蓮が戻ってきていることに気が付いていないテンがキョーコと交わしているだろう会話に、自分の名前が出てきていることにドキリとする。
一体何だろうと思う反面、このまま夕食でセツカになったキョーコと再会することに緊張を覚える。脳裏に蘇るのは薄暗い室内で跳ねるキョーコの肢体ばかりで蓮は軽く頭を振った。
「ほんとにいいの?じゃあ…明日、ね?」
通話終了したスマフォ画面を考え込むようにじぃっと見つめていたテンに、蓮は話しかけた。
「最上さん、どうかしたんですか?」
「あ、蓮ちゃん」
ぱっと振り返ったテンは、蓮の頭からつま先までぐるりとチェックしてカインのビジュアルで表情はまだ蓮のままの蓮に眉を下げた。
「埋め合わせ、無くなっちゃった」
「え?」
「セツカに色々甘えさせて豪華なディナーを期待してたのにぃ」
何のことを言っているのか瞬時には理解できなかったが、通話終了間際に『明日』と言ったテンの言葉を思い返して理解する。それは今日の夜、セツカとともに夕食を取るからおごってね!と言ったテンの予定が変更になったことを意味していた。
「も…最上さん、何かあったんですか?体調が悪い…とか…」
テンの様子からキョーコの方から夕食を断ってきたのが読み取れて、蓮はつい言い淀みながら聞いてしまった。キョーコが体調不良を理由としたなら、身に覚えがあるからだ。
「んー、そんな事言ってなかったけど。というか理由は言ってなかったんだけど、とにかくやっぱり蓮ちゃんの予定を変更させるようなことは申し訳ないし、予定通り明日合流にしたいって」
ほんの少し落ち着かない様子の蓮には気づかず、テンは再度スマフォを取り出し予約していたお店にキャンセルの電話をしている。蓮はキョーコがいなくても埋め合わせに夕食くらいなんでもご馳走しますよと声をかける。
「セツカがいないんじゃ、私がカインと一緒に食事に行ったら不自然じゃない」
店員との会話の合間に蓮に向かってそう言ったテンはそのまま店をキャンセルしてしまった。
「とりあえず!キョーコちゃん…セツカは元々の予定通り明日合流ね。蓮ちゃんはカインの名前で予約したホテルに行きなさい」
テンが社長指示でキョーコに説明した蓮のアリバイを反芻しながら、蓮はキョーコに今晩会えないことにほっとしたような、寂しいような複雑な気持ちでいた。
(会えても、最上さんじゃなくてセツカなのに…な)
ヒール兄妹中はもうすでにテンや社長、監督など二人の正体を知る第三者がいて求められない限り、素の蓮とキョーコでで会話を交わすことはなくなっていた。それがいいのか悪いのか、カインとセツであれば二人の距離感で多少以上の接触があるのだからと、また別の意味で頭が痛い。
あの肌を知ってしまってなお、ヤンデレ兄妹として触れ合うのだからと蓮は理性の手綱を引き締め直す。
「あ、あと!キョーコちゃんは蓮ちゃんに自分が前倒しできてること知られたくないみたいよ?さっき蓮ちゃんにはまだ言ってないってつい嘘ついちゃったから、明日キョーコちゃんに会った時にボロ出さないでね?」
また私に余計な嘘つかせたんだから、日本に戻ったらちゃんとした埋め合わせをしてね!と言ってくるテンに蓮は謝るしかない。
「分かりました。まあ、明日以降はもう完璧にカインとセツだからそんな話にはならないと思いますけど」
「どういうこと?」
「2人っきりでもずっとカインとセツなんですよ。最上さんと敦賀蓮の会話は全くないんです。それが暗黙の了解みたいになっていて」
「んまぁ~!2人とも徹底してるのね!」
しかも会話は全部英語ですよと蓮が苦笑すれば「キョーコちゃんってホントすごいのね」とテンは更に目を丸くした。
「じゃあ明日、セツをお願いします」
「あ、蓮ちゃん。ホテルまで送ろうか?」
「カイン用の買い物もあるのでホテルにも近いし歩いていきますよ」
カイン用のキャリーを引いて蓮はサロンを後にした。その後ろ姿を見送って、テンはサロンの片づけを始める。テンは傍らに置いたスマフォをチラリと見た。
「あんな顔してたのに、どうしたのかしら?」
テンの脳裏に浮かんだのは、カフェで夕食は一緒にと言った時のキョーコの嬉しそうな笑顔。
しかしキョーコちゃんは気遣い屋さんで真面目だからね、と結論付けたテンは明日のセツカの衣装のチェックを始めるのだった。
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チョイ短め。
1話の長さの調節下手くそだなぁ・・・苦笑
あ、あくまでキョコさんは夢と思い込んでおります(思い込みたい願望w)
お初の後の自覚症状とか!痛みとか!分からないわけないでしょー!っていうツッコミはご遠慮くださいw脳内妄想ですからっ!