10/19発売の本誌ACT205の続き妄想です
ネタバレものなので、未読の方、コミックス派の方はバックプリーズ!!
本誌発売までに終わらせる自信皆無のレッツ見切り発車です!←懲りない・・・しかも多分長いヽ(;´Д`)ノ
今回の続き妄想に関しては別途お知らせがあります。読み進めの前にこちらを一読の上お願いいたします→ACT205妄想についてお知らせ
※お知らせを未読の状態でのご意見・質問(特にクレーム)に関しては厳しい反応を返すやもしれません。必ずご確認ください。
それでは自己責任でご覧くださいませ↓
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見た目も中身も、無垢だった子供の頃と様変わりした自分。
見間違いようの無い、あの頃と同じように輝く金髪に赤茶に反射する碧の瞳。
一瞬向けられた鋭い視線に凍りつくと同時に、やっぱりそうよねとキョーコは妙に納得していた。
あの頃持っていた総てのものを…
真っ直ぐさも、いつかは自分の王子様は姫である自分の手を取ってくれるはずと思い込んでいた幼さも、今となっては愚かしいと思っていても。
それでもその過去は全て、今の自分につながっている。
愚かと思っていても、それだけで切り捨てられない自分の過去。
それは、『今の自分』が地獄に落ちる覚悟で手に入れた想いに繋がっている。
(愚かと切り捨てられないんだもん…)
脳裏に浮かぶのは蓮の何気ない表情で、ジワリと心の奥に広がる温かさにキョーコは瞳を閉じた。
ACT205妄想【4】
「…っ、コーンっ、…コーン…!」
(こんな私にも奇跡ってあるのね)
「……会えて嬉しい…っ、もう…会えないって…言ってたから」
黒髪を二つに結い上げていた幼い頃と、重なるところは無いに等しい今の自分。それでも『もしかしてキョーコちゃん?』と、疑問符つきだが気づいてくれた妖精にキョーコは驚きと喜びに顔を綻ばせた。
ちゃんと自分に気が付いてくれた事実に、キョーコの目頭が熱くなった。
「最初はコーンのこと、人魚かと思ったの」
幼いころの思い出と強く重なった印象で、キョーコは相手が蓮であることには気づかない。
目の前に現れたのは、かつ幼いころの夏の日を共に過ごした妖精の王子『コーン』。
キョーコの遠い記憶の中に蓮がいること自体は事実だが、素の自分と出会うはずもないと思っていた蓮は自ら敦賀蓮であることを名乗ることはできない。どんな現象も起こりうる奇跡の海は、自分にも奇跡の再会をもたらしたとキョーコは確信していた。
相手が自分を認識している事実にほっとしたキョーコの口は、かつてのように自然に動き出す。美しい海に魅せられて妖精を人魚と見間違っても、咎めずキョーコの言葉に耳を傾けてくれている蓮にキョーコの言葉は止まらなかった。
キョーコはメルヘン思考全開の言葉で、妖精コーンとの再会を手放しで喜ぶ。自分の言葉を黙って聞きながら感極まって零れる涙を優しく拭ってくれる指先に、キョーコはふと昔のことを思い出した。
(やだ…私、また自分の事ばっかり…!)
幼い日、いつも自分の話を聞いてくれたコーン。彼にだって辛い気持ちがたくさんあったはずだったのに、自分を助けてくれてばかりだった。そんな幼いころの自分は彼の優しさに甘えきっていた。
『コーンが…っ、私の話を聞いてくれるのと同じくらい…っ、もっと、コーンの辛い気持ち一杯、聞いてあげればよかった…!!』
そう気づいたのは別れから10年以上経過してからで、彼から渡された石、コーンを握りしめて後悔の涙にくれた自分を抱きしめて慰めてくれたのは…。
キョーコは顔を上げ、自分の目の前にいる人物を見つめた。
潤んだままのキョーコの瞳は、再会の喜びの涙の余韻のせいかそれとも脳裏によみがえった記憶のせいか。
「……私、ずっとコーンに……謝りたかったの」
ほんの少し言いにくそうに躊躇った後、キョーコは口を開きポケットのがまぐちからこの海に連れてきた魔法の石を取り出した。
「コーンがくれたこの石…もうコーンに会えないから『コーン』って名づけたの。たくさんたくさん、私の悲しみを吸い取ってくれた。でも私の悲しみなんてちっぽけなくらい、この子はコーンの悲しみを吸収してたのね…。コーンを魔界人に触られたときにそんなことを言われて…アイツの言うことなんて信じないって思ったけど、コーンが昔辛そうな顔をしてたこと…思い出して…」
レイノに言われた言葉をキョーコは全て信じたわけではなかった。しかし、遠い日に垣間見たコーンの苦悩とレイノが示唆した元の持ち主の辛い感情が繋がっているように感じ、あの時立ち止まったのは事実だった。
そして謝罪の言葉とともに、大切な魔法の意志をかつての持ち主に差し出した。
「ごめんなさい、コーン。私、ずっと自分の事ばっかりだった。そして、こんな大切なものを…預けてくれてありがとう」
彼の名をつけた魔法の石はキョーコの沢山の悲しみを吸い取ってきてくれた。歳を重ねるに従い頼る頻度が減ってきたのは成長の証だと思いたいが、それでもこの石がたくさんキョーコを助けてきたのは事実だ。
(あの時だって…)
辛そうな顔をした蓮を垣間見てしまった時、キョーコは思わずコーンに頼った。自分だけでなく蓮の辛さも吸い取ったこの石は本当に魔法の石で、ちっぽけな人間の自分が持っていていいものではない。
(敦賀さんの魔法もかかってるけど、コーンの手に戻ればすべて浄化されるよね)
差し出してしまってから、キョーコはふと気づく。蓮の唇に触れたコーンには『魔法』もかかっている。
最初は『悪い魔法』だと思っていたソレ。
確かにその魔法はキョーコに効果をもたらした。他人の目に触れてはいけないその効果を知っているのはキョーコだけ。蓮の祝福を受けたコーンを受け取った時に悪い魔法だと予感したはずが、いつの間にか自分に勇気と自信をくれる最高に眩しい『敦賀さんの魔法』になっていた。
「もう私は大丈夫だから…」
(大丈夫。この想いを自分の中に認められたんだから、私はもう大丈夫…)
「コーンに返すね。大切な石だったんでしょう?」
差し出した手のひらの石にキョーコが様々な思いを巡らせていると、小枝が砂を掻く小さな音が聞こえた。
“ちゃんと大人になって飛べるから、もう大丈夫”
描かれる文字を目で追うと、キョーコの耳に蓮の言葉が蘇った。
『…大丈夫…コーンはちゃんと大人になってる…』
この海でキョーコが出会えたのは、ちゃんと大人に成長した妖精の姿だった。その背にはきっと、自由に空を飛べる綺麗に輝く羽根を隠しているんだろう。
『羽だって生えてる 空だってちゃんと飛んでる』
(…敦賀さんの言うとおりだった)
相手に届かない謝罪の言葉を口にしながら涙をこぼすキョーコに、抱擁とともにもたらされた蓮の言葉は砂浜に描かれるコーンの言葉と一致する。妖精の王子との奇跡の再会でも、こんなにも脳裏をよぎる蓮の姿や言葉。
(やだ…私ったら敦賀さんの事ばかり)
自分の中に占める蓮の存在の大きさを自覚するが、よく考えればコーンのことを話したことがある人は蓮だけだ。そのことに思い至り、キョーコは軽く頭を振った。蓮としか妖精の王子の話をしたことが無いのだから当たり前だ。
己の思考に一瞬沈んでいたキョーコは、またサラサラ小さく響く砂の音に目を向けた。
“キョーコちゃんは、もう悲しい思いはしない?”
「……」
(悲しい、おもい…?)
投げかけられた質問に、キョーコの思考は停止した。蓮のことを考えると胸の奥に広がるあたたかな波紋は、いつも少し苦い色合いを含んでいる。
想いを認めたが故に、どうしても共に享受しなければならない切なさと苦しさがある。
「…っ、な、んでもないのよ?」
先ほどとは別の意味で水分を引き寄せはじめた自分の目元に視線を感じ、キョーコは慌てて手を目頭に押し当てる。しかしツンと鼻に響いた涙の気配は治まらず、キョーコは何気なく手で顔を隠そうとしたが、大きな手に手首を掴まれ顔を隠すことはできなかった。
(…やめて)
顔を隠すことも叶わず碧の瞳がキョーコを覗き込む。その瞳の前に自分の感情を隠しきれないのではないかと思うが、それでもキョーコは抵抗した。
「ご、ごめんねっ、何でもないの。コーンに会えたから、なんか涙腺が壊れてるみたい…」
“悲しい顔 してるよ?”
「そんなこと…ないもん…」
あんなに辛そうな表情で『大切な人はつくれない』と言った。
他を圧倒した嘉月の演技に透けて見えた切ない恋心。
それは『誰かを想う』蓮の感情が存在するということ。
分かっていたのに、どこに居ても大切な人を作れないと言ったあの人は『誰かのものになったりしない』と心のどこかで安心していた醜い自分。
もし彼が自分の心に正直になれたとしたら…
全てを見通すような、神秘的な碧の瞳に見抜かれて…愚かな自分を見透かされているような恐怖感。掴まれた手首をするりと解いて、キョーコは自らの膝に腕を絡ませ身を小さくする。
(やだな…こんな風に取り繕うなんて。私はなんて人間なの)
思わずとった行動に、頭のどこかでそれを自嘲する自分がいる。痛くてたまらない心は鋭く追及されれば簡単に全てを曝け出してしまうだろう。
そう思って身を固くしていたキョーコは、次に向けられた質問に僅かに目を見開いた。
“お母さんとなにかあった?”
(…そう、よね。コーンは小さい時の私しか知らないはず)
母親との確執はあの頃から何も変ってはいない。キョーコの心の内に波風を立てる事柄ではあるが、今はそこまでキョーコの心の内を占めてはいない。自分に無関心な母親の影が脳裏をよぎり、キョーコは少し寂しげな表情をこぼしたがその質問には首を横に振った。
“君の王子様は?”
「………」
あの頃の自分は母親の事で泣き、無邪気に王子様と思っていた尚はいつかは自分の元に来るのだと信じていた。
(コーンが私の王子様だったらよかったのに)
幼い頃はただただ盲目的に、尚が自分の王子様だとそう思い込んでいた。恋をするならあんな身勝手な理屈を振り回す尚でなく、数日一緒に過ごした彼に恋をすればよかった。最初から住む世界の違う妖精の王子と分かっていたのだから、一緒に過ごせたあの短い時間を大切に思い出にして綺麗なままの自分で過ごせたのかもしれない。
考えても過去には戻れないのに、そんな考えがキョーコの内を過ぎる。
『君は今更なかったことにできるのか?』
一瞬、甘い考えに浸ったキョーコの内に、この恋心と正面から向き合うチャンスをくれた声が繰り返される。
(……できるわけない)
でも、キョーコにはそれができない。
どんなに愚かで、辛い過去でもそれは今の自分に全て繋がってきている。
それは全て、蓮に抱くこの想いを手にするために起きた『必然』だから…
「…王子様じゃなかったの」
蓮に話を促され、キョーコは今までの自分のことを語り始めた。
盲目的に尽くした相手は振り向いてくれなかったこと。
その事実に愛を否定し大切なものを自ら手放し憎悪に支配されたこと。
「…恋をするのは愚かしいこと。愛は破滅と絶望の序曲だって、その時信じて疑わなかった」
自ら過去を語ることで、キョーコは今までの自分を振り返っていた。こんなにも凪いだ気持ちで話すことができたのは、相手がコーンだからか、つかえていた想いを認めたからか。
過去を語る上で切り離せない尚の話題。名前を出すだけでざわつき騒ぎ出す心をコントロールできるようになってきたのはいつからだったか。
“今はちがうの?”
(今、は……)
驚くほど穏やかと言っていい心持でいたキョーコの心に、その質問は小さな波紋を作り出す。
今でも愚かだと思う。
相手の幸せを願えない、
誰のものにもならないはずと決めつけて安堵を得ていた浅ましい恋心。
些細なことに幸せを感じ、ただ自分の中でだけ想うことを許したどこまでも育つこの想い。
それは空っぽの自分を、自分の手で育てていく事には必要な事。
「認めたくなかったの。お伽噺みたいにキラキラして綺麗なモノばかりじゃなくて…。ドロドロして醜くって…」
キョーコは素直に自分の中の想いを口にしていた。
「気持ちはどんどん勝手に大きくなって。恋なんて、やっぱり地獄に落ちる破滅と絶望の序曲なんだけど…どんなにひどい現実でも、すべては必然で…その人に出会うために必要なことで…」
温かい南国の潮風が頬を撫でていく。風に揺られて揺れる毛先は、震えそうになるキョーコの言葉を励ましているかのようだ。
「愚かで、醜くて、でも愛おしい…そんなこの気持ちから目を逸らしちゃいけない、演じることを通して自分を作っていく私には無駄な事じゃないんだって諭されて」
煌めく太陽の光を反射する海を眺めていたキョーコは、ゆっくりと視線を相手に戻す。
「だから、この気持ちは…私の中だけで育てるの」
決意表明のように言いきった自分の言葉に、キョーコは少しばかりの動揺を覚えた。伝えることはないと思っているこの気持ちを他者にはっきりと晒すのは、自分を諭してくれた愛の伝道師以外には初めての事だ。
答えは分かり切っているから伝えられない。
誰のものにもならないと浅ましく安堵したということは、まかり間違っても自分の手に入る人でもないということ。
伝えてしまえば後輩としてでもそばにいれなくなってしまうのが怖くて仕方ない。
それなのに・・・・
(気持ちを知ってほしい、だなんて…)
頭では分かっているのに。
改めて言葉にしたことで走り出そうとする自らの心にキョーコは動揺を覚えた。
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レッツバンジー!はまだできませんでした…orz←チキンめ
予告どおりワンクッション目を投入です!(ということはツークッション目もある・・・?)
っていうか!蓮さん視点で続ける予定がやっぱこうなったかー!蓮キョの両面描かないと話が続けられない私。もうばっちり196妄想の二の舞だね☆
このキョコさんサイドはなんだか読みにくくてスイマセン。
キョコさんは蓮さんをコーンと思っていますが、一応なんちゃって三人称で書いてますので蓮さん自身の表記を妖精や王子等比喩表現を使用しない状態では「蓮」と表記しております。
でもあくまで、キョコさんは蓮さん=目の前の妖精コーンとは全く気付いておりませんので、文章上『蓮』表記でもキョコさん的には蓮さんじゃくてコーンなのです。
脳内変換よろしくお願いいたします~。