MONEYZINE 2010/6/20

―――以下引用――――
「外国人が日本の国民年金受給者より多額」 生活保護受給世帯の増加で浮かび上がる問題点

 生活保護受給世帯が過去最多となった。外国人受給者の増加や生活保護をめぐる「貧困ビジネス」の問題が浮上している。

 厚生労働省の発表によると、今年3月に生活保護を受けた世帯は前の月より増え、全国で134万3944世帯に上り、過去最多となったことが分かった。月平均でみると、09年度は約127万世帯で、前年度の約115万世帯を約12万世帯上回っている。一方、生活保護を受けている人数は、09年度が約176万人で、前年度のより約17万人増加。増加傾向に歯止めがかかっていない。

 そもそもこの生活保護制度は、「資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する方に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長することを目的としている(厚生労働省HP 生活保護制度より)」。

 支給される保護費は、地域や世帯の状況によって異なる。また、「保護の種類と内容」については、「生活を営む上で必要な各種費用」とある。具体的には、日常生活に必要な食費・被服費・光熱費などの費用のほか、アパート等の家賃、義務教育を受けるために必要な学用品費、医療サービスの費用、介護サービスの費用、出産費用、就労に必要な技能の修得等にかかる費用、葬祭費用などがある。

 雇用情勢の悪化だけでなく、高齢化が加速している現状からすれば、生活保護の受給者が増えることはやむを得ない。しかし、受給者が増えるに従って、制度の問題点も浮上している。例えば大阪市では、外国人の受給者がはじめて1万人を突破し、そのほとんどが在日韓国・朝鮮人で、特に高齢化した無年金世代が増えていることが分かり、問題となっている。この結果、外国人の無年金者が、日本人の国民年金加入者よりも、多額の受給を受ける状況になっているという

(略)

―――引用ここまで(前文はリンク先でどうぞ)――――



 なかなか刺激的なタイトルである。この記事を受けて、twitterやmixi、2ちゃんねるなどでは一昨日から盛り上がっている。すわ、在日特権だ、と。

 しかしながらこの記事には触れられていないことがある。そもそもなぜ在日コリアンの高齢者に無年金者が多いのか?である。


 日本政府は、サンフランシスコ講和条約の発効に際して、内地戸籍者以外の国籍を、居住地が国内であるかないかを問わず、一方的に剥奪した(一九五二年四月一九日民事甲四三八)。これは旧植民地宗主国の多くが植民地を失うにあたって植民地人に国籍の選択権を認めたのとは異質な措置であったが、これ以後、いわゆる在日コリアンは、それまで以上にさまざまな制度上の差別にさらされることになった。
 
 たとえば軍人の遺族への援護(戦傷病者戦没者遺族等援護法など)、戦傷病者への支援(戦傷病者等特別援護法など)などからは、日本国民として戦争に動員され兵士によっては日本国民として戦犯裁判に服しているにも関わらず、外国人であるとの理由で排除された。

 また国内に生活し税金を支払っているにもかかわらず、子育てへの支援(児童手当法、児童扶養手当法など)、居住のための支援(公営住宅法、住宅金融公庫法など)などの一般の社会保障からも排除された。

 国民年金も、そうした制度的差別の場であった。1959年、国民年金法が成立した。この時点で積み立て期間が25年に満たないことになる者に対しては特例措置が取られ、受給資格が与えられた。しかしこの制度は名前の通り国民に対してのみ開かれたもので、外国籍者は排除された。

 この制度のもとで、在日韓国人による「年金裁判」も起こっている。この裁判では、区役所職員から年金に加入するよう説得され12年間に渡って年金の納入を続けた在日韓国人が、65歳になっていざ受給しようとしたところ、韓国籍であるから受給資格が無いとされ、裁判を起こしたものである。


 1975年、南ベトナムのサイゴン市が陥落し、南北ベトナムが統一されるが、これに伴い多くの難民が国外に流出することになり、国際社会の大きな課題となった。日本もアジアの経済大国として大きな外圧にさらされ、1982年、渋々ながら難民条約(国連採択は1951年)に批准することになった。これを受けてようやく、外国人を排除してきた社会保障制度の見直しがなされることとなり、国民年金法の国籍条項が撤廃された。

 しかしこの際には特例措置は取られず、したがって1982年の段階で35歳を超えていた外国人および20歳を超えていた外国人障碍者は、年金の支給対象からは除外された。1985年に法改正がなされ、翌4月に60歳未満であれば年金の受給資格だけは得られることになったが、これ以前の期間は年金額の計算期間に算入されないため、その時点で高齢だった人々はごくわずかな額しか支給されないまま取り残された。


 これが、在日コリアンの高齢者に無年金者、生活保護を必要とする少額年金者が多い理由である。つまり彼らが生活保護を受けているのは、特権を受けているどころか、まさに差別の産物なんである。
 

 そうした事情を隠蔽したまま、外国人の生活保護費が日本人の国民年金受給者よりも多額などと扇情的なタイトルをつけるMONEYZINEと、無批判に転載するBIGLOBEYAHOOの良識の欠如は、甚だしいものがある(*1)。


 だいいち、年金を支払ってこなかった日本人無年金者だって、同じように生活保護費を受け取れるじゃないか。もちろんまじめに年金を支払ってきた人がわりを食うのは許せない、生活保護はもっと少額でも文化的な生活を営むには十分だという議論をすることは可能だろうけど、いたずらに排外主義に訴えるのは、許し難い。



 なお生活保護法については国籍条項があり、在日外国人が受給できるのはあくまで温情的な措置であり、たとえ支給されなかったとしても日本人とは違い不服申し立てができないという、差別的な制度である。


 それと2ちゃんねるなどでいまだに流されている、在日コリアンに生活保護受給者が異常に多いというデマについては、とっくの昔に論破されている(再計算後の50人に1人という数値も、年金の保護から排除されてきた人々が含まれている点に注意する必要がある)。



*1当初BIGLOBEによる記事かと思っていましたが、元凶はMONEYZINEだということが分かったので、お詫びして訂正いたします。


*2 7/7補足
 ”日本がコリアンの国籍を剥奪して社会保障の埒外に置いたのは戦勝国の意向に従ったもの”という意見をほっとくのもなんなので補足。
macskaさんのところの議論はだいぶ粘着されて長いので読むのが億劫という人が多いと思うのでちょっとだけ)

 日本と同じように敗戦によって海外領土(オーストリア)を失ったドイツでは、国籍問題規制法により、オーストリア人のドイツ国籍が喪失される(解放される)ことを定めると同時に、それらのオーストリア人が選択に基づきドイツ国籍を回復することができることを定めています。
 日本においても同様の措置がとられることを期待していることを、南朝鮮軍政庁のワグナーなどが表明しています。

 またマッカーサー憲法草案には、外国人も日本人と平等の法的保護を受けると明記されていました。日本政府がこっそり削除しましたが。

 日本が戦勝国の意向に従ってコリアンの国籍を剥奪し社会保障の埒外においたというのは、明らかな嘘です。むしろ姑息に、戦勝国の期待を裏切りコリアンの人権を奪おうとしつづけていました。日本が善意に基づいていたのに戦勝国のせいで…と主張するなんて、どんだけ厚かましいんだ。だいいちこの主張をしている層と、韓国を戦勝国と認めない層はかぶっていると思うんだけど、その辺どう矛盾を解決しているんだろうか。

 またGHQは引揚者の荷物や現金の持ち出し制限を設けるなど、コリアンが朝鮮半島に帰還することに協力的だったとはいえず、むしろ日本国内で問題が解決されることを想定していたものと見えます。




◆今日の本紹介◆

単一民族神話の起源―「日本人」の自画像の系譜/小熊 英二

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 戦前、日本は多民族国家であった。南方系と北方系の混合であるとされたり、山岳地にすむ人々は異民族とされた。あるいは、アイヌや琉球を抱えていた。また天皇家が大陸に由来を持つことも、おおっぴらに語られていた。そしてその多民族性ゆえに、日本は多民族を束ね、指導的地位につく権利があるとされていた。そうした多民族神話が、いかにして偏執的な単一民族神話に姿を変えてきたかを、膨大な文献を引き紹介する。

内容   ★★★★★ 日本人とは何か、在日外国人とは何かを考える上で必読
読みやすさ★★★☆☆ 難しい。がいたずらに難しく書かれてもいない。
入手容易度★★★★☆ 内容相応の値段
総合評価 ★★★★★



新版 在日コリアンのアイデンティティと法的地位 (明石ライブラリー)/金 敬得

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なぜ在日コリアンは帰化しないの?本当に在日コリアンは差別されているの?といったさまざまな疑問に答える本。著者は外国人として初めて弁護士となった。彼が権利を求めて戦いを起こすまで、外国人は司法試験は受けれるが司法修習生になる資格がないため、弁護士になれなかったのである。そうした経験も踏まえた著作。法律に明るいため、説得力のある議論を展開している。

内容   ★★★★☆
読みやすさ★★★★☆
入手容易度★★★★☆
総合評価 ★★★★☆


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