ここ数年で,ツンデレという言葉がすっかり市民権を得た感があります。知らない方のために説明しておくと,普段はツンツンしているけれども,たまに恋人に対してだけデレッとする,そのギャップにグッとくる(萌える)わけです。これを対比効果と呼びます。不良が捨て猫にかまってるといい人に見えるのと同じですね。ツンツンだけでいいという人もたまにいますがそれはただのマゾです。


 せっかくなので,社会心理学の説得技法を使って,恋愛を上手く運ぶ方法を考えてみました。


1.段階的要請法(フット・イン・ザ・ドア法)
 簡単に承諾できる要請を行い,承諾してもらった後,順に大きな要請をしていく方法を指します。例えば,一度も社会運動に参加したことのない人に,デモ行進に参加してくれ,なんてお願いしたら,日本ではデモは一般的ではないので,及び腰になってしまうでしょう。でも100円寄付して,赤い羽根などのシンボルをカバンにつけるような穏やかな協力なら,誰にでもできます。そうした簡単な協力から初めて,より大きな協力を引き出しやすくするのがこの技法。人間は自分が一度表明した態度を,確固たるものに築きあげていくものだということです。これを恋愛に応用するとこうなります。

み,見つめてもいいかな?

え,い,いいですけど。

て,手をつないでもいいかな?(ガシ)

え?え?

キ,キスをしてもいいかな?(ジリ)

キャー

・・・上手くいかないじゃん。何がいけなかったんだろう。やっぱり語尾か。かな?がきもかったか。気を取り直して次いってみよう。


2.譲歩要請法(ドアー・イン・ザ・フェイス法)
 明らかに拒否されるような要請を行って案の上拒否された後(もし拒否されなかったら儲けもの),譲歩してより小さな要請を行うと,最初からその要請を行ったときよりも,承諾されやすくなるという方法です。譲歩されると,負い目を感じてしまいますからね。商談なんかでまずふっかけてみるのは,まけてやったと見せかけて,相場より有利に取引するためなんですね。
 これを恋愛に応用するとこんな感じ。

おれロリコンなんだけど,こんなオレのこと,理解してくれるよね?

ごめん無理

うそうそ。ロリコンなんて嘘だよ。でも美少女フィギュアオタクだけどこれは理解してくれるよね?

ごめんそれも無理

あれー?まー譲歩しようがどうしようが無理なもんは無理なんだろうね。というか最初の要請でドン引きされるともう無理ですね。次いってみよう。


3.承諾先取り法(ロー・ボール法)
 非常によい条件をつけて承諾させた後、その条件をたくみに取り下げてしまっても,一度行った承諾を翻されることはあまり無いので,説得は上手くいくことが多い,という手法です。例えば,他店よりも大幅に値引きしてもらえると聞いて,買う店と商品を決めてしまった後で,実は事情があってそこまで値引きできなくなってしまいました…と言われた場合を考えてみましょう。その店で買うと決める決定打となった条件がもう無くなってしまったので,他の店に行ってしまってもいいのですが,人はなかなかそうしないものです。一度した約束を反故にするのは(最初から嘘をつく気の営業と違ってこちらにとっては)難しいですし,別のお店で一から検討しなおすのも面倒ですからね。車や不動産,家電など値引きが常態化している業界では,値引きする振りを積極的に利用します。あとは不用品無料で引き取ります→実は有料です,とか,車やバイク高価で買い取ります→いやーこれはやっぱりほとんどタダです,とかですね。
 ではこれも恋愛に応用してみましょう。

一流商社に内定貰ったんだ,つきあってくれ。

まあ素敵,いいわよ。


ごめんうそ,実は単位足りなくて留年したんだ。でも付き合うのは有効だよな。

いやごめん無理

あっれー? 


◆興味をもたれた方には◆

影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか/ロバート・B・チャルディーニ

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営業や宗教の勧誘が使う説得の技法を分かりやすく解説する。一見ただのハウツー本だが,著者はこの記事に引用されている論文の著者の一流の心理学者であり,きちんとした心理学の知見に基づいている。営業を仕事とする人にも役に立つし,それ以上に,悪質な営業やカルト宗教にだまされないために普通の人々がぜひ読んでほしい。できれば大学生活・一人暮らしを始める前には読むことをお勧めする。

内容   ★★★★★ ハウツー本としてとても役立つ
読みやすさ★★★★★ 高校生以上なら身構えずに読める
入手容易度★★★★☆ 2版になってより安くなった
総合評価 ★★★★★ 一般向け心理学書籍の代表


◆社会心理学をもっと勉強したい人は◆
段階的要請法/フット・イン・ザ・ドアー法
Freedman, J. L., & Fraser, S. C. (1966). Compliance without pressure: The foot-in-the-door technique. Journal of Personality and Social Psychology. 4, 195-202.

譲歩要請法/ドアー・イン・ザ・フェイス法
Cialdini. R. B., Vincent, J. E., Lewis, S. K., Catalan, J., Wheeler, D., & Darby, B. L. (1975). Reciprocal concessions procedure for inducing compliance: The door-in-the-face technique. Journal of Personality and Social Psychology. 31, 206-215.

承諾先取り法/ロー・ボール法
Cialdini, R. B., Cacioppo, J. T., Bassett, R., & Miller, J. A. (1978). Low-ball procedure for producing compliance: Commitment then cost. Journal of Personality and Social Psychology. 36, 463-476.

 いずれも重要な論文。でも説得を専門に勉強したいのでなければ,一個一個読むのはあんまり意味が無いかも。資格試験や院試レベルの知識であれば,上述チャルディーニのものなどの和書を読んだほうがいいかも。
 入手は,いずれも社会心理業界最大手のJPSP(APA発行)なので,大学に在籍していれば,オンラインジャーナルが入手できることも多い。


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