昨夜シーシェパードの監視船と日本の捕鯨船の二度目の衝突が報道されました。それに関する議論があちらこちらで沸騰中です。
 
 シーシェパードが公開している動画はこちら(1回目アディ・ギル号=航行不能後沈没)



 とこちら(2回目B・B号)




 面白いのは、シーシェパードが提供したまったく同じ映像を見て、シーシェパード側は日本側が故意にぶつけたことが明らかだと主張する一方で、多くの日本人が、シーシェパードが捕鯨船の前で減速するなどして故意にぶつけさせたことが明らかだ、そもそも映像が存在すること自体、シーシェパードの作為を立証している、と主張していることでしょうか。捕鯨船の側も映像を公開しているんですけどね…。

 僕の推測はというと、どちらも意図して衝突を引き起こしたわけではないだろう、というもの。前回の衝突でも運よく死者は出なかったものの、船同士が衝突すれば死者が出てもおかしくなかったわけですし、捕鯨船側にすれば船に被害が出て修理のために寄航することになれば相手の思う壺だし、シーシェパードにしても300万ドルかけた船をおしゃかにするのはちょっとたかくつきすぎます。

 じゃー事故の直接の責任はどちらにあるか?といったら、これはたぶん、シーシェパードの側でしょう。他者の走行を邪魔するために蛇行や急加速・急減速を繰り返した暴走族をよけ損なって撥ねてしまったとしても、責任は取れないよ…。ただしこれは、捕鯨船の側が回避に専念していた場合。威嚇などを試みていた場合にはこの限りではありません(なおシーシェパードの公式サイトによれば、捕鯨船側からも威嚇として急接近、横切りなどの行為を日常的に行っていたとのこと)。


 それにしても、僕が見る限り国内の全てのメディアはシーシェパードのことを”反捕鯨団体”と紹介しています。
 この言葉が含意するのは次の2つで、この種の通俗的な見方は、マスメディア、インターネットコミュニケーション、それに”美味しんぼ”などのサブカルチャーを通じて伝えられてきました。

1.白人至上主義者(人種差別主義者)の彼らは鯨を知性の高い動物としてことさら神聖視して黄色人種より上におき、感情的に捕鯨に反対している。

2.彼らはアメリカやオーストラリアの牛肉をもっと日本に輸出したいという経済的思惑に基づいて行動している


 ところがシーシェパードの公式サイトによれば、彼らは 反捕鯨団体ではなく”環境保護団体”です。彼らが保護しようとする対象の動物は、鯨だけでなく、アザラシ、ウミガメ、サメなど、海棲の希少動物一般です。どれほど人種的劣等感の強い日本人でも、彼らが魚類のサメを日本人よりも上においていると信じる人はいないでしょう。そしてアザラシを獲るのはアメリカ北部(白人ではないけれども)などの伝統文化だし、フカひれは中華料理の食材ですがスポーツとして大型のサメを狩るのはアメリカ南部の白人富裕層のレジャーです。アメリカ国内で環境保護活動を行っていることで、彼らは反アメリカ的、などとしばしば批判を受けています。黄色人種差別とか、経済的思惑とか、全然関係ないじゃん…。

 シーシェパードがしばしば過激な行動を取っていることは事実かもしれませんが、もうすこし公正な報道や判断はできないものかな~?と思うしだい。


 なお誤解を受けないように言っておくと、僕自身は一介の科学者として、そしてその中でも動物実験と無縁ではない心理学者の一人として、過激な環境保護運動家や過激なアニマル・ライツ運動家に共感を覚えるものではないです。むしろ天敵といってもよいかもしれない。
 それでも、経済的思惑をよりによって科学的調査の美名で糊塗する調査捕鯨にもやはり、嫌悪感を抱かざるを得ないのです。





◆今日の本紹介◆
環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態/ビョルン・ロンボルグ

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 世界は完全ではないけど、それでも昔よりは良くなっているんだ。無闇に悲嘆にくれるんじゃなくて、実現可能で有効な対策を行えば、世界は今後もっと良くなることができるんだ。という主張を、膨大なデータをもとに説得力を持って説く良著。
 うん、世界はよい方向に進んでいると思う。局地的な大問題を次々に作りながらも。(ただ僕としては、環境問題が好転しつつあることそのものよりも、過去の、環境に対してほとんど配慮がなされなかった時代の産業が、今とは比べ物にならないほど人類の福祉を損なってきたことに驚嘆した。)
 一方で、生態の多様性などを経済的な観点からのみ評価しているので、生態学者などの立場からは、納得のいかない部分もあるかと思われる。また、資源の持続的利用の見込みについて、技術革新と市場原理についての非常に楽観的な予測を根拠にしており、いささか不安である。
 それと、人間が何をやっても環境は大丈夫なんだ、環境問題なんて嘘っぱちだ、というメッセージを送っていると誤解してしまった読者が多いようだが、著者が言っていることはそういうことではなく(確かにデータの解釈の誤りを指摘している箇所もあるが)、人間が適切に行動すれば、環境問題の多くは十分に対処可能であるということである。
 いらいらさせられるのはやたらとフランクな文体で、訳注も同じ文体だったので、これは訳者のせいなのだろう。
  
内容   ★★★★☆ 新聞などの統計のリテラシー教育にも。
読みやすさ★★★☆☆ 文体をフランクにしたことでかえっていらいらする
入手容易度★★★★☆ 中古も安くならないね…
総合評価 ★★★★☆ 一読に値する。


世界の環境危機地帯を往く/マーク ハーツガード

¥2,940
Amazon.co.jp

 ここでいう環境危機地帯とは、貧困や公害、人口爆発から原子力発電所事故や内戦を原因とするものまで、人間の尊厳が損なわれるところを広く指している。
 そうした環境危機に苦しむ人々のために我々に何ができるだろうか?人口爆発のような多分に自己責任のように見える現象でさえ、「われわれは急にウサギのように子供をたくさん産むようになったわけではない。ただ、これまでのようにハエのように死ななくてすむようになっただけだ」という言葉を前にすれば、先進国と発展途上国が協力して解決に当たらなければならない問題であることは明らかだ。先進国の住人として、世界の各地で苦しむ人々のために何かをしなければならないと考えさせられる本。
 心強いのは、数々の悲惨な現場を取材しながらも、著者は決して感傷的な終末論には与していないという点だ。たしかにこれまで人間は環境に多大なダメージを与え、それによって自らの福祉を阻害してきた。しかし、環境と経済という大きな関心事を両立させる方法は模索されなければならないし、きっと可能であると著者は主張している。

内容   ★★★★☆ 環境問題の悲惨な現実を知ることができるルポルタージュ 
読みやすさ★★★★☆ 臨場感があり引き込まれる
入手容易度★★★★☆ 中古価格は非常に安い
総合評価 ★★★★☆ 知らなければならない現実、忘れてはならない現実に気づかせてくれる

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