NHKの元ソウル支局長 宮尾篤 | 香りを感じる

NHKの元ソウル支局長 宮尾篤

「漢南洞(ハンナムドン)の帝王・宮尾篤

ビバ!NHK! 2きっこの日




文藝春秋2004年11月号 P94-105

「海老沢NHK」政界工作を暴く

元国会議員が実名証言
うえすぎたかし
上 杉隆
(ジャーナリスト)

組織維持と政治家対策に暗躍する政界工作員

 昨年八月、筆者は都内渋谷区にあるNHK放送センター内の会長応接室で海老沢会長へのインタビューを行った(昨年十月号「『NHKの首領』海老沢勝二』」参照)。
 海老沢が部屋に姿をあらわすと、その長身と独特の風貌が、周囲に緊張感を醸し出す。しかし見かけとは正反対の小声で、彼は訥々と質問に答えていく。ふと気づくと、部屋には七~八人の職員が入ってきて、私を取り囲むように見つめていた。
 会長の意に沿わないだろうと思われる質問をした瞬間、異変が起きた。
 「もう、それはよろしいんじゃないですか」
 広報担当の職員が口火を切った。あたかもその言葉が合図であるかのように、他の職員たちも口々に言葉を重ねる。海老沢側近のひとりが声を荒らげてインタビューを終わらせようとした。
 「失礼じゃないか。質問として」
 海老沢は左手をのばして制止すると、ようやくその小さな口を開いた。
 「いいんだ、いいんだ、構わないよ」
 立ち上がらんばかりの勢いだった側近たちは、会長の言葉に即座に反応した。彼らは口を閉じると、揃って体を椅子に戻したのだった。
 その時の自信に満ちた海老沢の姿は、一年後の激震を予想させることはなかった。
     *
 この七月以降、NHKには「不祥事の嵐」が吹き荒れている。明らかになった主なものだけでも、
・紅白歌合戦の元プロデューサーによる四干八百八十八万円の制作費不正支出。
・前ソウル支局長による総額約四干四百万円の架空経費計上。
・編成局のエグゼクティブプロデューサーら二人がカラ出張で約三百二十万円を横領。
・岡山放送局の放送部長が九十万円を着服。
・集金した受信契約料約二百万円の着服、等々。
 だが、これらの受信料を流用した金銭スキャンダルは「氷山の一角」に過ぎない。そもそも前ソウル支局長の件などは、七年も前に発覚していたのを、ずっと隠蔽し続けていたのである。

 「九七年にソウル支局長に赴任した岸俊郎さんが、前任の宮尾篤支局長の時代に裏金作りが行われていたことを発見したのです。ところが当時の報道局上層部は、岸さんに『外部のメディアには絶対に喋らないでくれ』と懇願し、宮尾さんを転勤させるだけでうやむやに処理しようとした」(NHK国際部関係者)

 あまつさえ宮尾氏は、今年七月にソウル支局長に復帰を遂げた。この信じがたい人事についてNHKは、「韓国の言葉に精通し、人脈もあるので再び派遣する必要があった」と説明したが、これは誰弁に過ぎない。
 「政治部出身の宮尾さんは赴任当初はまったく韓国語が話せませんでした。彼が毎晩のように豪遊していた『漢南洞(ハンナムドン)』という地域は、日本人向けのカラオケスナックばかりで、韓国人が足を運ぶ場所ではありません。裏金を取材費に使っていたとは、とうてい信じられません」(他社のソウル特派員経験者)
 海老沢会長が国会に参考人招致される直前の九月七日になってようやく宮尾氏は停職六カ月、放送総局付に異動の処分を受けることになったが、実際はその後も韓国に滞在していた。ソウル中心部の超高層マンションに住む宮尾氏を訪ねたが、「言いたいことはあるが、今は何もお話しできない」と取材は拒まれた。だが、知人に対しては、「もう済んだ話なのに、なんでオレが巻き添えにならなければいけないのか」と不満を漏らしているという。
 NHKは一連の不祥事を“個人の犯罪”にして幕引きを図ろうとしている。
 だが、すべての問題の根幹は、NHKのこのような隠蔽体質にある。「バレなければ何をしてもOK」という意識が、当然のように罷り通っている。



文藝春秋2004年11月号 P94-105

「海老沢NHK」政界工作を暴く



情報 通信 及び 電波 に関する ソウル 宮尾

第160回国会 総務委員会 第3号
平成十六年九月九日(木曜日)