Ⅱ 成功と失敗、今後の取り組み
本作の主眼であった「私の思う純文学らしさ」は、ほとんど読者に受け入れられることはありませんでした。つまり、私が純文学分野でプロ小説家としての第一歩を踏み出すつもりであれば、その大きな誤差を修正しながら書くプロセスが必要になるということです。
本作における挑戦の収穫として、読者との誤差が具体例を伴って認識できたことが挙げられます。その主な要素を挙げると、以下の3点です。まず「読者ニーズ」「読者の視点」を捉えなおすきっかけとなる意見をいただけたこと、つぎに私好みの文章のテンポは読者に好まれないこと、さいごに作品テーマの提示に当たってはもっと読者に分かりやすくした方が良いことです。
また、成功したと言って良いこととして3点あります。まず特に力を入れた犬の描写でおおむね好意的な評価をいただいたこと、つぎに主人公がイジイジ悩むうちに犬に八つ当たりしてしまい、自己嫌悪に陥りつつその犬に慰められるというシーンに好意的な評価をいただけたこと、さいごに、意図はしていなかったものの、「好美」という登場人物に興味を持っていただけたことです。
以上の成功と失敗の経験をもとに、次回作は読者ニーズを意識した、エンターテイメント要素が充実しテーマを分かりやすく工夫した作品を書くという、次の課題が見えてきました。
Ⅱ-1 本作における失敗と収穫
本作における失敗から得られた収穫は、全て読者認識に関するものでした。主な3点を項目別に検討します。
①読者は作品の瑕疵を探しながら読むのだと考える必要性。
読書という行為の特性上、読者は作品の瑕疵に非常に敏感であると考えることが作品の質の向上に必須の要素であると学びました。特に、2ch創作文芸板一角専用スレッドでいただいた厳しいレスが、気を引き締めて臨むきっかけを与えてくれました。書き手からすれば無料で公開する習作という位置づけであっても、読者は貴重な時間を割いて読むに足る作品であるのか、非常に厳しい目を持って判断しています。どんな作品であっても、自分が金欠状態で書店の本を選ぶときの感覚を意識するべきであり、冒頭を始め、作品の隅々に至るまで気を抜いてはいけないという心構えが必要なのです。その不断の努力が、文学賞応募作のクオリティにも直結することでしょう。
②流れを切らない配慮より、センテンスが長くならないことを重視すべきである。
本作に対していただいたアドバイスで最も多かったのが、「文が回りくどい」というものでした。純文学に関心の高い読者であっても、私好みのテンポは冗長で、読み進めていただく上での支障になりうるのだと認識できました。多くの読者に読んでもらえる小説を書くためには、文法的クリアさを優先した判断が大切であることを、改めて実感したともいえます。
③作品テーマの提示は、もっと分かりやすい方が良い。
作品テーマの提示の仕方として、もっと読者にヒントを与えても良さそうだと分かりました。また、大テーマと小テーマに分けて、大テーマは提示を抑えて、小テーマは読者サービス全開にするという方法もあるだろうと思いつきました。
私の読書観からすると、暗喩による表現にせよ、ストーリーライン・構造による表現にせよ、テーマの分かりやすさと「ベタ」さは表裏一体の関係にあります。
しかし本作において、感想の内容にテーマに関するものが無く、テーマ提示の方法論に関するアドバイスも全く無かったことから鑑みて、今回の私のテーマ提示法は「独りよがり」なもので、読者に全く伝わっていなかったのだと考えられます。
これでは作品を充分に楽しんで味わっていただいたことにならないので、今後はもう少し分かりやすさを考えたテーマ提示を心がけようと思います。
Ⅱ-2 本作における成功要素
本作における挑戦の結果として、全体的には私の課題を洗い直すというものばかりでしたが、一部に成功といっても良い要素もありました。ただし、これは他に誉める要素が無かったことの裏返しにすぎない可能性も高いので、単に「駄目ではなかった点」として認識しておくことにします。具体的に3点を挙げると、ひとつは犬に関する描写に比較的良い反応をいただいたこと、つぎに作品の見せ場である、主人公が泣き始めるシーンに好意的な評価が多かったこと、さいごに、想定外とはいえ「好美」という登場人物に興味を持っていただき私が「恋愛要素」を書ける可能性が見えたことです。
犬に関する描写は、前述したように本作における挑戦要素のひとつでした。それについて好意的評価を多くいただいたことは、素直に嬉しいと思います。今後も、何かひとつ課題を決めて、読者に楽しんでもらえるような描写ができるよう取り組んでいこうと思います。
さらに作品のクライマックスである「男がイジイジ思い悩んで、しまいに泣きだすシーン」に対して違和感を覚えたというご指摘がなく、共感して下さったというコメントが多かったことは自信になりました。このくだりはどれだけ読者を感情移入させられるかがポイントでしたので、そこで失敗しなかったことは、失策の多い本作での取り組みにおける大きな救いでした。しかし、読者の共感を得ることを優先した結果、「ベタ」「ありがち」というご指摘があったので、「王道」でなくとも共感を得られるような挑戦もしたいと思います。また、このシーンにもっと紙幅を割いて力を入れた方が良いというご指摘もありました。全体のバランスから考えて、もう少し比重を大きくして良いポイントだったとも思います。
そして、私の意図したところとは違うところでの収穫は、多くの方から主人公と好美の恋愛の行方に対する関心を示していただいたことです。「相棒」に注目して貰うため好美の存在感は極力抑えるという当初の意図とは異なった結果になったのですから、これは失敗といえることです。しかし、私のようなおじさんが書く登場人物の恋の行方にも関心を持っていただけるのだと知ったことは大きな自信になります。今後は「恋愛」もしっかり書いていこうと思います。
Ⅱ-3 今後の取り組み
皆様のご協力のもと、「彼女の『相棒』」の執筆と総括に取り組むことから得られた成果は、そのまま次回作以降で取り組むべき私の当面の課題として活かしていきます。その課題を端的に表現すれば、読者に関心を持ち続けて貰うためのテクニックを磨くことだといえます。特に重要なものとしては2点、全編に渡って読者の関心を引き付けるための仕掛けを施すことがひとつ、私と読者との感覚の違いに配慮しながら構成・文を考えることが、もうひとつの大切な要素として浮かび上がりました。
本作における挑戦と失敗を通して、読者の関心を引き付け続けるための引き出しの多さが、プロ作家になるに当たってとても重要なことだと実感しました。その具体的な要素としては、「恋愛」「登場人物への興味」「次の展開への関心」「文そのものの味わい」などです。これらを駆使して、今後は中だるみしない引き締まった作品を書けるよう意識して取り組みます。
また、私の「いち純文学ファン」としての感覚は、多くの他の純文学ファンとは大きくずれてしまっていることを肝に銘じる必要性を感じました。テーマの提示、文の長さや文法的クリアさに対する感覚など、「私好み」は全く通用しないと考えて、今回学ばせていただいた「読者の感覚」を意識して今後の執筆に当たります。
さいごに
以上が、「彼女の『相棒』」の執筆・振り返りという経験と、皆様からいただいた感想・アドバイスから学んだことの概要です。
小説を書き慣れた方や、才能のある方からすれば、「そのようなことは人に頼らなくても気付け」と言いたくなるようなくだらない内容かも知れません。しかし、凡人 しだなお がプロになる可能性を追求する上では、必ず「経験」して「実感」しなければいけないポイントだったと自分では思っています。
本ブログでご報告している通り、「文芸一角」に投稿予定の次作はすでに第一稿が上がり、完成度の高いものを目指すため作品と距離をおいている最中です。次作は、「彼女の『相棒』」での経験をもとに学んだ要素のいくつかから課題を設定し、書いたものです。思い入れがある程度クールダウンできたところで、さらにブラッシュアップして投稿しようと思っています。
次作で皆様に成長の痕跡を認めていただけるよう、懸命に取り組む所存です。どうか、ふたたび私の作品をお読みいただき、前回から成長できた点、できていない点、新たな課題などを教えてはいただけないでしょうか。
またこの自己総括の内容についても、少しでも気になる点、お気づきの点があったらコメント欄を使ってアドバイスをいただけましたら幸いです。
この図々しさや見苦しさ、いい歳をして本気で小説家になろうともがいている中年男の必死さに免じて、どうかお許しください。
さいごまでお付き合いいただき、ありがとうございました。