「彼女の『相棒』自己総括(前篇) | 小説書いてます・鳴かず飛ばずの しだなお 日記

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 この記事は、拙作「彼女の『相棒』」の自己総括、挑戦と失敗、次作以降の課題を内容とするものです。


 まずは、拙作をお読みいただいた皆様、更には感想やアドバイスを寄せていただいた方々に心よりの感謝を表します。皆様が私の拙い作品を読み、アドバイスをすることにお時間とお手間を割いて下さったおかげで、短い期間にたくさんの経験と知見を得ることができました。本当にありがとうございました。


 本記事は、そのお手間に対する誠意としてのレポートであり、かつ私の執筆プロセスに至るまで何かしらアドバイスをいただけないかという思いを込めた叩き台でもあります。小説を執筆されている方には、しだなお の執筆プロセスに対してのアドバイスをいただければ幸いですし、書いた経験がない方には、悪い見本として参考にしていただければと思います。


 素人とはいえ小説を書く人間が、その執筆プロセスについて事細かに他人に曝すことについて、批判的な見方をされる方がいらっしゃるかも知れません。しかしそこは、とにかく早く実力を養いたい中年の小説家志望者が、他人の意見を欲しがっている切実さに免じてお許しいただけないでしょうか。


 お読みいただいた上で、少しでも気になることがあればコメント機能を使ってアドバイスをいただけたら幸いです。

 あらかじめお断りしておきますが、本記事におふざけは一切ありません。本当に、実に、つまらない記事になると思います。









序論





 私の初の純文学作品「彼女の『相棒』」は、私に純文学作品が書けるだろうかという適性検査のつもりで書き上げた作品です。本作は同人サイト「文芸一角」に投稿され、サイト運営者の狐士堂さんに「同人誌掲載水準に達していない」として不合格の評価をいただきました。


 本作に関して、皆様からたくさんのご意見、アドバイスをいただいた結果、次回作以降に活かせる私の課題が見えてきました。それを概観すれば、私と読者との感覚の違いを実感したこと、純文学とはいえ読者の関心を引くための要素に力を入れなければならないことの2点に要約されます。どちらも本作の取り組みをする前からぼんやり頭の中にあったことではありますが、今回それを、作品の執筆と他者の意見を受容するという行為を通して、実際に「経験」して、具体例を得ながら「実感」したことに最大の意義があると考えています。


 その概要を著わすだけでも、それなりの分量がある記事になりました。全体の構成として、最初に本作を執筆したときの経緯、プロセス、作品に込めた意図などをご紹介した上で、つぎにそれがどのような結果に結びついたかを検証し、最終的にその成果として得られた次作以降に取り組むべき課題を述べます。







Ⅰ 執筆経緯





 本作は、私の純文学分野での適性を試すため、文芸一角応募用作品として構想し、執筆しました。執筆期間は2012年8月22日から8月31日までの9日間、一日4時間程度を充てて書きあげました。構想のべ2日、第一稿をあげたのが8月28日ころ、推敲期間は3日ほどということになります。





-1 構想





--ⅰ、構想段階で重視した点



 本作は構想段階から、私の思う「純文学的なもの」を重視して臨みました。構想段階における「純文学的」な要素として考えたのは、主に3点、①作品の主題を文中に暗喩として散りばめる、②それにあたって、読者に露骨に示し過ぎいわゆる「ベタ」にならないよう留意する、③言語的な挑戦要素をひとつは取り入れる、というものです。



①「作品の主題を文中に暗喩として散りばめる」という意図の具体的な計画として、家族のあたたかさの暗喩としての「小さな灯り」、生物種を超えた絆を示す「小さな環っか」、そして、自分のことにしか関心を示せない主人公のザラザラした心の中身のイメージ、それらを台詞や情景描写の中に取り入れることとしました。



②「暗喩を読者に対して露骨に示し過ぎ、いわゆる『ベタ』にならないよう留意」して、暗喩が文脈から浮き上がったり、変に目立ったりしないよう、全体的にテンポの遅い文章になるよう考えました。また、作者が多弁な小説にならないよう、解説的文章は極力抑えました。



③「言語的な挑戦要素をひとつは取り入れる」ため、犬の描写に多くの紙幅を割くこととしました。犬が登場する小説は多いものの、犬を接写するように詳細な描写をした作品に触れたことがなかったため、私にとって挑戦になると判断したからです。





-ⅱ 構想の具体的な道筋



 構想の具体的な道筋を示すと、はじめに「犬と主人公の絆」を中心に、いくつかの抽象性のあるシーンを頭に思い浮かべ、つぎにそれらのシーンが繋がっていくストーリーラインを組むという段階を踏みました。そのプロセスの中で、当初は登場しない予定だった恋人(好美)が登場するシーンを入れることとしました。



 ストーリーの核となるシーンについて、「ウチの犬をモデルにした小説」というアイデア自体は予め持っていたため、「主人公の涙をチワワが舐めとる」「恋人に待たされて苛立つ主人公がチワワに八つ当たりする」「チワワの小便に悩まされる」などのイメージの種がはじめから頭の中にありました。そして、それらを「種を超えた絆」というテーマに昇華させるための道具として、「大きな木」「小さな環っか」「地球」などのイメージを使うことにしました。更に、チワワと主人公の「ミクロ」な関係を示すため、家族の温かさの象徴としての「小さな灯り」、そして彼女を待つ同志としての「相棒」という言葉を使うことに決めました。



 つぎにそれらのシーンを、起承転結の枠を意識しながらストーリーラインとして組み上げました。


:「相棒」の存在によって恋人(好美)と繋がれていることを自覚していない主人公。


 ここで、恋人の不在に淋しさを感じながら、犬の小便に悩まされる主人公の苛立ちと、すでに家族として成立している「相棒」との関係を示すための「小さな灯り」の暗喩を両方使うこととしました。



:「相棒」はそもそものはじめから主人公(僕)を受け入れ、愛情を示している。


 「相棒」と僕との馴れ初め、「大きな木」「小さな環っか」「地球」などのイメージをここで使うことにしました。



:「僕」が好美の不在に苛立ち、「相棒」に八つ当たりしてしまう。そして、好美や「相棒」との関係維持に自信をなくし、3人の小さな環を千切ろうと考える。


 ここで、八つ当たりが唐突すぎて主人公への感情移入が冷めないよう、主人公の苛立ちに火がつくのに充分な要素として、犬が床におもらしするシーンを入れることにしました。



:「相棒」の無垢な愛情によって主人公のざらついた心が癒され、絆が強固になり、「相棒」が「彼女の相棒」から、好美を待つ際の「僕の相棒」になる。


 ここで、「主人公の涙をチワワが舐めとる」イメージ、「小さな灯り」の下で好美を待つ「僕」と「相棒」の姿を入れることにしました。





 このプロセスの途上、「承」に当たる「相棒」と「僕」との馴れ初めのシーンを構想するにつき、犬と人との出会いを自然なものにするための必要性、「小さな環っか」のイメージを誰に語らしむかという問題などから、この回想シーンで好美を登場させることとしました。これが結果的に、「恋愛要素」の強みという意図せざる成功と、「読者の関心が好美に集中する」という失敗をもたらすこととなりました。


 ちなみに、「恋愛要素」については、推敲中に一度悩んだことがありました。読者サービスのつもりで、「帰って来た好美に感情が高ぶった主人公がプロポーズして、好美に『今更なにを言ってるの?』と言わんばかりにあっさりOKをもらう。『相棒』はいつもと変わらない様子で主人公に瞳と耳だけを向けている。」というシーンを入れようかと迷ったのです。しかし、妻と相談して、そこまで踏み込まない方が「純文学らしい」のではないかとその案は立ち消えになりました。









 文章を書く







 本作の文章を書くに当たり一番重視したのは、私の思う「純文学らしい」文章をそのままに提示することでした。具体的には、登場人物の何気ない台詞や、情景描写の中に、作品の主題に関わる暗喩を散りばめること、文章のリズムを私好みのゆったりしたものにすること、多弁な主人公による一人称の語りなどです。これらの要素が読者からどのような反応を得られるか探るため、推敲に当たっても文法的なクリアさや読みやすさよりも私個人の「心地良さ」の感覚を優先しました。


 その他、時制に関しては作中世界の主となる時間軸で起きた出来事に対しては現在進行的表現を用いることと、「る」「た」の連続を多少は抑えられるよう工夫しました。

 ※日本語に時制はない云々の学説があったように思いますが、物書きの立場からの便宜上、あるものとして論じます。





-ⅰ 文法的明快さより好みのテンポを優先



 暗喩を散りばめることやリズムを遅めにすることに関連して、一文を短く文法的にすっきりさせることよりも、流れを切らないことを優先しました。



 例1:『良くできたぬいぐるみのように正に字義通り「愛らしい」、「相棒」の顔が間近に迫ってくること自体は不快なことではないものの、僕の膝に乗せられた前脚が十中八九、彼自身の漏らした尿を踏みつけているのだろうと考えると懐いてくれて嬉しいという気持ちも湧きあがってきはしない。』


 本例は文を短く区切って文法的な明快さを重視するより、自分好みのテンポを優先した典型です。文法的に分かりやすくするのであれば、『良くできたぬいぐるみのように正に字義通り「愛らしい」、「相棒」の顔が間近に迫ってくること自体は不快なことではない。しかし、僕の膝に乗せられた彼の前脚は十中八九、彼自身の漏らした尿を踏みつけているのだ。そう考えると、懐いてくれて嬉しいという気持ちは決して湧きあがってこない。』とするのもひとつの選択肢です。

 しかし、ここでは敢えて、私の好きなリズムの方を優先しました。





 例2:「彼はプラスチックでできたうぐいす色の箱の底面に敷き詰められたトイレシートに鼻を擦りつけ照準を定めると、四肢を少しばかり曲げて重心を低くする。」


 本例は、例1と同様、文を区切って明快にすることより流れを優先した例であると同時に、長い修飾を一文として独立させず、私好みのテンポを優先した例でもあります。分かりやすさを優先するのであれば、前の文が『興奮する「相棒」をなだめながら玄関の床をあらかた片づけると、今度は「相棒」を抱き上げリビングに設置されていたトイレの中に置く。』なので、「そのプラスチックでできたうぐいす色の箱の底面には、トイレシートが敷き詰められている。彼はそこに鼻を擦りつけ照準を定めると、四肢を少しばかり曲げて重心を低くする。」とする方法もあります。

 まずトイレにフォーカスし、トイレの底面を主題語とした一文を置き、その上で主題語を「相棒」または「彼」に変えて一文を置くという方法です。文脈からすると、そもそも話題が一貫していない文からなる段落ですので、ここで二文に分けてそれぞれ異なる主題語を置いたからといって、浮き上がりはしません。

 しかし、ここでも私は自分好みのテンポを優先しました。







-ⅱ 多弁な主人公による一人称の語り





 本作では、私の考える最も純文学らしい視点の置き方として、饒舌な主人公の視点に依る一人称というスタイルを選びました。情景描写や人物描写に何らかのフィルターをかけるにせよ、主人公の精神的な動揺を接写的に描写するにせよ、一人称の方がより無理なく、自然に表現しうると考えたからです。そして、主人公は常人よりも多弁気味な、文学かぶれのような言語世界に生きている設定にもしました。それらは安易といえば実に安易ですが、本作の目的からして、より私が「純文学らしい」と考えるものを選んだのです。







--ⅲ 時制に関する配慮





 本作では、読者と主人公が同じ時間の中にいると感じさせる作品を目指し、作中世界の主となる時間軸を著わすときに現在進行的表現を用いました。また、時制に関連した文末表現である「る」や「た」の連続が緩和されるよう工夫し、それが誤って読者に違和感を与えるようなことがないか試しました。

 特に、過去について語る文脈における文末の「た」の多用を防ぐため、過去における静的な状態について描写する際は「る」を用いることとしました。その点に関して違和感があったという感想は聞かれなかったため、用い方として成功だったのではないかと思われます。









-3 執筆経緯に関する振り返り





 本作の執筆経緯を振り返るに、構想段階から推敲段階に至るまで、常に「自分の思う純文学らしさ」を追求して取り組み、とても楽しく書けたというのが一番の感想です。構想段階から「読者の反応」を意識して頭を悩ませることなく、執筆ペースも初の純文学作品の割に、構想・推敲を除くと一日4時間で400字詰め7.5枚程度と私にとって標準的なペースでした。一方で推敲作業を始める前のクーリングダウンが充分取れなかったことから、自作を客観視する力が乏しく、推敲作業はあまりはかどらなかったという印象が残っています。