『月刊社労士 20164月号』(発行:全国社会保険労務士会連合会)より

 

自殺が故意か業務上精神障害り患下かの事例

 

『月刊社労士』に毎号載せられている「労働保険審査会裁決事例」の内容を要約、情報追加してご紹介します。

 

<事例趣旨>

被災者は、自宅で練炭コンロによる一酸化炭素中毒で死亡しているところを発見されました。請求人は、被災者の死亡は業務上の事由によるとして労基署長に遺族補償給付及び葬祭料の請求をしましたが、労基署長は業務上の事由によるものとは認められないとして、支給しない旨の処分をしました。

本件は、被災者の死亡が故意によるものか業務上精神障害をり患した結果によるものと認められるか否か、がポイントになります。

<裁決結果>

被災者の自殺は、精神障害り患下のものとは認められず、故意によるものであり、業務上の事由によるものとは認められないことから、遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分は妥当であって、原処分は取り消されませんでした。

<事実の認定及び判断>

労災保険法では、「労働者が故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは、保険給付を行わない」と規定されています。従って労働者の自殺による死亡も、結果の発生を意図した当該労働者の故意によってもたらされたものである場合、業務上の事由によるものとは認められないものです。

この点について、旧労働省では「精神障害によって正常な認識、行為選択能力が著しく阻害されているなどの状態で自殺したと認められる場合、労災保険法の“故意”によるものでないと解するのが適当である」としています。

請求人によると、被災者は自殺する前に不眠症のため病院に受診、その頃には軽度のうつ病と認定できる精神障害にり患していたと述べています。軽症うつ病エピソードの患者は、病状に悩まされて日常の仕事や社会的活動を続けるのに幾分困難を感じますが、完全に機能できなくなることはありません。

請求人は「被災者は疲れて仕事ができない、何もする気が起きない、仕事は一杯一杯でどうしようもない」とし、「被災者が落ち込み、精神的に参っているように感じた」とし、診断ガイドラインによる症状に符合する旨を述べています。

しかし、同僚は「被災者は疲れているとは思ったが、普段と変わったところはないように思えた、自殺の直前の頃、様子がおかしいとは感じなかった」としており、被災者の言動が普段と大きく異なっていたものと判断することは困難であると考えられます。

以上からすると、被災者に抑うつ気分等の症状経過があったものとは認め難く、死亡当時、軽症うつ病エピソードにり患していたものと認めることはできず、さらに、その他の精神障害にり患していたと認める証拠もありません。よって、被災者の自殺は、精神障害り患下のものとは認めることはできず、労災保険法の“故意”によるものという他ありません。

被災者の言動が普段と大きく異なる状況も認められず、しかも精神障害を発病していたことを積極的に裏付ける医学的証拠も認められないことから、請求人の主張を採用することはできません。

以上により、被災者の死亡と業務との間に相当因果関係の存在を認めることはできず、業務上の事由によるものとすることはできません。遺族補償給付及び葬祭料を不支給とした原処分は妥当であるとされました。

 

突発的に自殺に至るような場合は、なかなか労災とは認められないようです。自殺の前に、必ず何らかのサインを周囲に出すようにしないと誰も分かりません。それは、つまりは周りからの助けも期待できないという訳ですので、難しいかも知れませんが一人で悩まず、まずは周囲の人に相談することが大切ですね。

 



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