『月刊社労士 2011年3月号』(発行:全国社会保険労務士会連合会)より
事例で見る社労士業務
うつ自殺をめぐる再審査請求(2)
『月刊社労士 2011年3月号』に社労士業務の事例として、うつ自殺をめぐる労災の再審査請求の案件が紹介されていました。メンタルヘルスの問題に関する「うつ」による自殺を扱った事例で、興味のある内容でしたので自分なりに要旨をまとめてみました。
今回は後半の、審査請求、再審査請求の様子です。
3.審査請求でも原処分を支持
不支給決定とされたAさんの母親と恋人のBさんは、審査請求を強く望まれたため、平成18年11月に審査請求を提出しました。しかし、手元にあるのは元同僚Cさんの陳述書だけだったため、棄却される確率が高いと感じていたそうです。
平成19年9月に、審査請求に対する労災保険審査官からの決定通知が送られてきましたが、内容は原処分をほぼ是認するものでした。さらに、不支給決定時の調査結果より後退していました。
不支給処分の判断が、労働者が故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは、政府は保険給付行わない、というものだったからです。これは、Cさんは精神障害に罹患したと認めていないことを意味し、業務を原因とする「うつ」による自殺だったと証明する以前の問題になってしまいます。
4.陳述書の証言に矛盾を発見
しかし、Bさんはさらに再審査請求を望みました。社労士の先生はここで会社側の陳述書をもう一度読み直し、当時の上司2人の話に矛盾を見つけます。1人は深夜の時間外などなかったと言っているのですが、もう1人は、深夜まで幾度となく残業していた、と言っていたのです。
そして、矛盾があることでCさんの証言が強調されることになる旨の理由書をつけて、平成19年11月に再審査請求を提出することになります。
5.再審査請求
審理は平成20年9月に行われました。社労士の先生は、被災者は得意先からの時間に関係ない呼び出しに非常にストレスを感じていたこと、課長になったことをかなり悩んでいたことを陳述します。そしてもう1つ、恋人は携帯を持っていないのに、自分の携帯に恋人への遺書めいたメールを残しているのは、既に正常ではなく精神障害を発病している証拠である、と主張したのです。
6.業務起因が認められ、原処分取り消し
平成20年12月に労働審査会の決裁書が届き、内容は原処分を取り消すというものでした。とうとう労災が認められたわけです。
・恒常的な長時間労働が3カ月間続いており、心理的負荷の強度は1段階重い。
・課長昇進は被災者にとって、「相当程度荷重」な心理的負荷であった。
・被災者は業務に関連する出来事に伴う強度の心理的負荷が原因で「うつ」を発病し、自殺を思いとどまる抑制力が阻害された状態であった。
この事例では最終的に労災が認定され、Aさんの関係者も喜んでくれたことでしょう。社労士であれば、このような仕事を目指したいです。
ただ、労災認定を勝ち取るまでに5年もの年月がかかっています。最初に認定されていればこんな苦労も必要なかったのにと考えると、最初の支給/不支給の決定がいかに重要であるかがわかります。