『月刊社労士 2011年3月号』(発行:全国社会保険労務士会連合会)より

 

事例で見る社労士業務

うつ自殺をめぐる再審査請求(1)

 

『月刊社労士 2011年3月号』に社労士業務の事例として、うつ自殺をめぐる労災の再審査請求の案件が紹介されていました。メンタルヘルスの問題に関する「うつ」による自殺を扱った事例で、興味のある内容でしたので自分なりに要旨をまとめてみました。

この記事を投稿された会員の方は、平成2年に開業、書籍など執筆も多数あり、講演も数多く行われている先生です。

 

<事例概要>

平成15年4月某日の午後、Aさんが自動車の中でなくなっているところを発見されました。死因は一酸化炭素中毒で、練炭による自殺と検案されました。

Aさんの家族の依頼を受けて社労士の先生は労災申請をしましたが、不支給となりました。しかしあきらめずに再審査請求をして、ようやく原処分が取り消され、労災として認定されました。再審査請求でいかに原処分取り消しへ転換させたのか、がポイントになります。

 

1.労災までの調査

労災申請のため、事実関係の調査を開始しましたが、会社からの協力は全く得られなかったそうです。タイムカードなど一切の資料提示は拒否され、直前3カ月分の給与明細書があるくらいでした。そこには実際とは異なる数十時間分の残業代が記載されている程度でした。

そこで社労士の先生は、Aさんの恋人Bさんより、元同僚Cさんを紹介してもらい、次のような証言を得ました。

 ・取引先から直接停携帯電話に呼び出しが入り、ストレスになっていた。

 Aさんは1カ月前に課長になったが、そのことをひどく悩んでおり、体調が悪そうで大量の汗をかいているのが見られた。

 ・Aさんはまじめで、朝8時5分前には出社し、夜は20~21時ころまで働いていた。

 

調査に時間がかかったため、事件発生から2年弱、労災請求が行えたのは死亡一時金と葬祭料の時効2日前だったとのことです。

 

2.労災申請に対する調査官意見

しかし、この申請は平成18年9月に原処分・不支給決定となります。監督署調査官の自殺と業務との因果関係調査の結果は次のとおりでした。

 ・業務による心理的負荷の強度は、以下の3点を評価し、いずれも総合評価は「中」と判断。

 ①平成15年2月から残業時間が増加し、100時間を超えるようになった。

 ②平成15年3月に課長に昇進した。

 ③自殺日の2日前に営業先でトラブルがあり、ひどく気にしていた。

 ・自殺したAさんは携帯電話に遺書めいたメールを作成していたが、その文面は精神障害者にありがちな文章的傾向は認められなかった。

 

この結果から、業務起因性はなく、Aさんの自殺は「故意」による死亡と判断され、遺族補償給付は全部不支給とされました。

 

この後社労士の先生は、あきらめずに再審査請求を行い、最後には労災認定を勝ち取ります。その逆転のポイントとなったのは、精神障害にあらずと判断された携帯電話のメールでした。

その内容については、次回に続きます。

 

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