張り・粘り・パワー・トルクとは何か | SEEKLET

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バス釣りに纏わる主観的な記録

2015/1/20書始
2015/1/29修正
※必ず、「はじめに」の記事を読んでからお進みください。
※あまりに長い記事なので、簡潔にまとめました。
http://ameblo.jp/shunn1124/entry-11983123297.html


■張り
張りとはロッドの反発の度合。リグの操作性や掛けを司る。
もちろんティップとバットでは張りの強さが違う為、正しくは「反発力の平均の度合い」という表現になる。

ロッドの硬さには「素材が変形し難いから感じる硬さ」と「曲がった竿が戻る力が強いから感じる硬さ」の2種類があり、張りは後者、つまり竿の復元力=反発力からくる硬さを指す。変形し難い竿も同様にリグの操作性や掛け感は向上するが、ここではそれを張りが強いとは言わない。
この張りの強さが後述の速さに関係してくる。




■粘り
粘りとはロッドの曲がる部分の長さの度合。クッション性や乗せを司る。
粘りを見る時、「実釣で発生し得る最大荷重でどこまで曲がるか」がその基準となる。それは、実釣で発生し得る最大荷重の一歩手前で握った手の少し上まで曲がり、実釣で発生し得る本当の最大荷重で手の平の中まで曲がるのが理想的な粘りだからだ。

実釣で発生し得る最大荷重を受ける前に曲がりが止まったり、のされて曲がりが手元に到達してしまうと、その後は手の直接入力になってしまいクッション性は失われる。つまり粘りがない状態であり、それがあまりに酷いと「ただ硬い竿」「ただ柔らかい竿」と呼ばれてしまう。
この曲がりの止まる位置が後述のトルクに関係してくる。




■パワー(竿のリフティングパワー)
「パワー=張り×粘り」
このパワーはロッドのパワー表記に用いられるパワーと同じもので、復元力とその復元する部分の長さを掛けたものが竿のリフティングパワーの大きさということになる。
ここで言う竿のリフティングパワーとは曲がった竿が元に戻ろうとするときに発揮する力のことであり、後述する「同じパワー表記でも硬い竿の方がパワーがある」という主張において言われるパワーとは別種のものだ。
ここで注目したいのは、同じリフティングパワーの竿でも「張り重視」と「粘り重視」の2つが有り得るということで、分かりやすいように例を挙げる。(竿は全てダイコー:ドレッドノート)


張り :71XH>69MH>76FSX>73XX>80X=611MHX>65MX
粘り :73XX>80X=611MHX>65MX>76FSX>71XH>69MH
※ダイコーHPより抜粋
http://fdaiko.exblog.jp/7504996/
ここで、張りと粘りについてそれぞれ体感的相対的に数値化するとパワーは以下のように算出される。


BRDC-73XX(レギュラーテーパーのビッグベイトロッド)
張り :70
粘り :100
パワー:7000

BRDC-71XH(スローテーパーのジグロッド)
張り :100
粘り :60
パワー:6000

BRDC-76FSX(ファーストテーパーのフリッピングロッド)
張り :80
粘り :70
パワー:5600

BRDC-80X(レギュラーテーパーのロングキャスト向け巻物ロッド)
張り :50
粘り :90
パワー:4500

BRDC-611MHX(ファーストテーパーの強めの巻物ロッド)
張り :50
粘り :90
パワー:4500

BRDC-69MH(ファーストテーパーのジグロッド)
張り :90
粘り :50
パワー:4500

BRDC-65MX(ファーストテーパーの巻物ロッド)
張り :40
粘り :80
パワー:3200


これを並べると、
パワー: 73XX>71XH>76FSX>80X=611MHX=69MH>65MX
となり、ダイコーHPに示された以下の順とほぼ一致する。
パワー: 73XX=71XH>76FSX=80X>611MHX=69MH>65MX
このズレはロッドの長さの違い(手元から同じ位置で曲がりが止まったとしても長いロッドの方が仕事をする部分が多い)や自分の感覚のズレから生じているものと思われる。

ここで69MHと611MHXに注目すると、この2本はジグロッドと巻物ロッドという正反対の味付けになっているにも関わらず同じMHというパワー表記を与えられている。
つまり、同じリフティングパワーを持つロッドでも「張り重視」と「粘り重視」の作り分けがされているという事で、結論から言うと「同じパワー表記でも粘り重視の方の竿」が「トルクがある竿」ということになる。




■トルク(粘り重視の竿のメリットの一つ)
例えば、上で挙げた69MHと611MHXで同じ2Kgのウェイトをリフトし空中に静止させるとする。この時に楽なのは間違いなく良く曲がる611MHXの方であり、曲がりが手元から遠い位置で止まる69MHではテコの原理によってより大きな力が使用者に必要とされる。
しかし、69MHの使用者が必死にリフトしようが611MHXの使用者が楽にリフトしようが空中に静止しているウェイトから見たら仕事内容は同じなわけで、上方向に引っ張られている力も当然変わらない。
この「同じパワー表記の竿で同じ荷重を相手にしているのに、使用者側で必要な力が違う」という現象がトルクの正体であり、先述のリフティングパワーはウェイト目線の「持ち上げられる力」、このトルクは使用者目線の「必要な力」と言っても差し支えない。「竿が曲がることによって手元の負荷が軽減される」という現象の恩恵は、キャストからリトリーブからファイトに至るまで、竿が曲がっている間は常に発生するが、この中で特にファイト時に軽減される場合にトルクという言葉を当てただけだ。そしてその大小は同パワー表記なら粘りの程度の大小と同じである。

「トルクとは何か」という問いに明確な答えはなく、あるのは「トルクがあるロッド=同じパワー表記でも良く曲がって同じ荷重を楽にリフトできる粘り重視の方のロッド」という相対的な評価だけである。そもそも、一般のバサーは張りも粘りも体感から相対的に判断するしかないから感じるリフティングパワーも必然的に相対的なものになるし、同じリフティングパワーでもその出方には相対的に張り重視から粘り重視まで無限の味付けがある。そんな「相対の密林」の中でトルクがあるロッドを嗅ぎ分ける為にはまず色んなロッドを使った経験が必要だし、それでも出来ない人にはずっと出来ない芸当だろう。それを逆手にとって比較対象も出さずにトルクトルクと連呼したり、「ただ硬い竿」を折れないように厚巻きor補強しまくったシロモノがトルクフルという認識で売られているのを見ると、バス業界の悪意を感じてしまう。張り重視の竿の方が後述する別種のパワーを感じやすいのも、誤ったトルクの認識が蔓延している原因だと思う。




■速さ(張り重視の竿のメリットの一つ)
ここまで読んで、「同じパワー表記でも巻物ロッドよりジグロッドの方がずっとパワーは上だろ」と思った方もいると思う。
しかしこれは「硬い竿の方がパワーを伝達するのが速い」のであり、同じリフティングパワーの竿であれば最終的に復元力がバスに掛ける力は同じになる。同じリフティングパワーで張り重視の竿と粘り重視の竿があったとして、張り重視の竿が与える力はフッキング後急激に立ち上がりその後は曲がりが止まる為にほとんど変化しないのに対して、粘り重視の竿は曲がり続けてゆっくりだが復元力は増加し続ける為に最終的にはトータルで硬い竿と同等の力を与えるというわけだ。
この「最終的に与える最大のリフティングパワー」をいち早く発揮できるのが張り重視の硬い竿であり、このメリットはカバー周りで太いシングルフックをブチ抜くジグ&テキサスの釣りで大いに発揮される。何故なら、実戦におけるそういった状況では良く粘る竿でまったりジワジワ掛けていく間に首を振られてフックアウトしたり、カバーに潜られたりするからだ。

渾身のフッキングで瞬時にバスの上顎をブチ抜き、そのまま強引にバスをカバーから引き剥がす・・・正に「パワーゲーム」と言える釣りだが、それに求められる「速さ」自体は竿のリフティングパワーでは無いというのがまたややこしい。この「速さ」もトルク同様にパワーの出方の違いによる相対的な評価であり、「速いロッド=同じパワー表記でもあまり曲がらず同じ荷重に対して瞬時にリフティングパワーが立ち上がる張り重視の方のロッド」としか表現できないものだ。
にも関わらずトルクよりもこの速さの方が一般的に評価されやすいのは、「竿を見る時に粘りよりも張りの方が試しやすく分かりやすいから」に他ならない。竿を振って収束を見たり天井に当てて硬さをチェックしても、いちいち実釣で発生し得る最大荷重を想定した曲げチェックをするバサーは少ない。そして「感度」「即掛け」「リニアな操作性」という言葉だけが独り歩きして「張り偏重主義の竿選び」を助長し、その結果として現在日本の市場にあるメジャーな竿の多くが張りと粘りの両立を捨てた「分かりやすい竿」だらけになってしまったのだ。

しかし、この「速さ」以上に、「竿の硬さ=パワー」だと誤解されやすい最大の要因がある。それは、張り重視の竿の方が「使用者のパワーを付与しやすい」というもので、それについては後述の「■使用者のパワー」の項で考察していく。




※※※張りと粘りについて補足※※※
同じパワー表記の張り重視の竿と粘り重視の竿の特徴を、これまでの内容と実釣で照らし合わせて書くと以下のようになる。

≪張り重視の竿≫
曲がりしろが少ないのでキャストは難しい。操作感はダイレクトで、即掛けしてバスをカバーから引き剥がせるものの使用者は体力を多く消耗し、フッキング後のファイトではゴリ巻きしないと曲がりしろが少ない為にテンションが抜けてバレやすくなる。

≪粘り重視の竿≫
曲がりしろが多いのでキャストは容易。操作感はもっさりでファイトには遊びがあるものの、良く曲がる為に使用者の体力消耗は少なく、フッキングさえ決めてしまえば竿を立てるだけで魚が浮いてくる。また曲がりしろの多さから竿の復元力がバスに掛かり続ける為にクッション性が高くバレ難い。

ここで、「じゃあ張りと粘りを上げまくったら最強じゃね?」と思う人もいるだろう。しかし、それで出来上がるのは「バスフィッシングでは殆ど曲がらない、破断強度のみが優先された竿」である。リフティングパワーが上がりすぎて、結局は「破断強度が高いただの硬い竿」になってしまうのだ。トルクがある竿と破断強度ばかりを追求した竿が全く違うものだという理由はここにある。曲がらない補強をしまくった竿は論外だが、実釣で発動しない粘りもまた、ただ安心感のある硬さでしかない。

バスフィッシングに必要な竿のリフティングパワーは決まっており、その範疇で如何に張りと粘りを両立し、フィールドやメソッドに合わせた竿作りができるか。それこそがロッドメーカーの腕の見せ所であり、追求していくべき竿作りの在り方なのだ。




■使用者のパワー
竿の曲がりが止まったり、のされて曲がりが手元に到達してしまった時、最後に発揮されるのがこの「使用者のパワー」である。それを分かりやすく書くと以下のようになる。

≪曲がりしろを使い切るまで≫
手元で入力 → 竿が曲がり復元力(竿のリフティングパワー)が発生 → バスに伝達
バスが走る → 竿が曲がり復元力(竿のリフティングパワー)が発生 → 手元に伝達

≪曲がりしろを使い切った後、更に大きな負荷がかかった時≫
手元で入力 → 竿がそれ以上曲がらない為、曲がりが止まった位置から直接入力 → バスに伝達
バスが走る → 竿がそれ以上曲がらない為、曲がりが止まった位置から直接伝達 → 手元に伝達

ここで注意したいのは、「使用者の手元に掛かる全体の負荷=使用者のパワー」ではないという事だ。前者の場合、使用者のパワーは全て竿の曲がり及び復元力に変換される為「使用者の手元に掛かる全体の負荷=竿のリフティングパワーによる負荷」となるが、後者の場合は「使用者の手元に掛かる全体の負荷=竿のリフティングパワーによる負荷+使用者のパワー」になる。使用者のパワーとは、竿の曲がりしろが使い切られた状態で更に大きい負荷がかかった時に竿の復元力に上乗せして必要なパワーのこと。そして、曲がりしろを使い切りやすいのは言うまでも無く曲がり難い竿、同じパワー表記なら張り重視の竿だ。
つまり、「同じパワー表記でも硬い竿の方がパワーがある」という主張における+αなパワーの正体とは、実は竿のパワーでは無く自分自身のパワーなのだ。だからこそ「■速さ」の項で書いたような硬い竿のメリットが引き立つとも言える。

しかし、ここで「やっぱり硬い竿の方が伝わる力は上なんだ、粘るロッドなんて要らないだろ」と考えるのは早計である。何故なら、曲がりしろを使い切った状態では粘りによるメリットが一切得られない為にラインブレイクやバラしが頻発し、体力も大きく消耗するからだ。正にパワーと引き換えの諸刃の剣と言えるだろう。例えロッドワークやドラグで誤魔化せたとしても、そのファイトはせわしなくぎこちないものとなる。だから、そこまでして必要なパワーとは一体何なのか、本当に必要なパワーとはどれくらいなのかという事を、フィールドやメソッドに合わせて自分で考える必要がある。そうすれば張りは同じで粘りを少しプラスしたワンパワー上のロッドを使うという選択肢も見えてくるし、同じパワー表記でもメーカーやシリーズが違えばリフティングパワーも違うという事が分かるだろう。そんな竿選びを繰り返せば、結果としていつか良い竿に巡り合うはずだ。







※備考
・「竿の速さ」という表現は自分が発想した訳では無く、ダイコー:アディクトC610XHの説明文の一節「速度域が違う」という表現からお借りしたもの