晴れ「朝日新聞朝刊」2008.4.23付けより。音符激怒

文化面でクラシック音楽に関するコーナーにあったもの。クラシックといえば、「癒し系」というのが一般的だが、ここにはその対極とも思われる「ストレス」というタイトルで発売されているCDの紹介があった。

ジャケットは漫画家の蛭子能収によるもので、下のほうに都会のビル群あって、その上(絵では中心)には背広姿のサラリーマンらしき男が横たわって地面をかきむしっている姿が描かれている。そこからはいかにもストレスでもがいている様子がうかがえる。

全17曲とも落ち着いて聴いていられない曲ばかりのようだ。このコーナーの筆者によると、まるで歯医者で虫歯をいじられている気分になってくるという。ところが聴いているうちに、その不愉快な感じがクセになるらしい。不思議なものだ。

これは味覚にもちょっと似ていそうだ。はじめ一口食べたらクセがあってマズイ!と思ったものの、慣れてくると意外においしくてそれがクセになってしまうというような感じかもしれない。数年前に似た経験があった。それは知り合いの台湾出身の歯医者さんに故郷のお土産として缶入りの高級烏龍茶葉をいただいたときだった。

はじめのうちは国内の烏龍茶に慣れていたためかどうもなじめなかった。ところが数日飲み続けるうちに急に美味しく感じられてきたのだ。これほど美味しいものは今まで飲んだことがないと思うようになっていた。それを飲み終えてしまうと日本で売られている缶入り烏龍茶が実に単調でまずく思えたものだった。

先ほどのCDを企画したプロデューサーの中島浩之氏は「癒し系のCDばかりつくっていて、ちょっと欲求不満だった」というのが理由のようだ。「ストレス」という意表をつくタイトルかその中の選曲なのか、買う人も意外にいるようだ。でも、個人的にはクラシックでは癒されたい・・・な。