三間飛車 コーヤン流 対 居飛車穴熊 引き角型 | 将棋・序盤のStrategy ~ 矢倉 角換わり 横歩取り 相掛かり 中飛車 四間飛車 三間飛車 向かい飛車 相振り飛車 ~

将棋・序盤のStrategy ~ 矢倉 角換わり 横歩取り 相掛かり 中飛車 四間飛車 三間飛車 向かい飛車 相振り飛車 ~

オールラウンドプレイヤーを目指す序盤研究ブログです。最近は棋書 感想・レビューのコーナーで、棋書の評価付けもしています。

今回は、アンケートのコメント返し強化月間に頂いた、
コーヤン流というテーマで記事を書いていきたい。

コーヤン流は、中田功プロが関連本を書いた事で、
アマ間でも爆発的な人気を誇った作戦となった。

それまでも、
三間飛車は専門家の間で人気があった作戦だったのだが、
端を攻めるなどの攻撃的なスタイルを取り入れた事によって、
より多くの方が親しめる戦法となったのだ。

しかし、現在コーヤン流は下火になっている。

この背景には、
これまでアーティストの専門分野だった三間飛車が、
システム化し、テーマ性を持った事で狙い撃ちされやすくなったのだと考察する。

理論的に将棋を組み立てさせると、居飛車党は怖いのである。

初手から
▲7六歩 △3四歩 ▲6六歩 △8四歩 ▲7八飛 △8五歩
▲7七角 △6二銀 ▲6八銀 △4二玉 ▲4八玉 △3二玉
▲1六歩 △3三角 ▲5八金左 △2二玉 ▲3八銀 △1二香
▲3九玉 △1一玉 ▲4六歩 △2二銀 ▲5六歩 △5四歩
▲5七銀 △7四歩 ▲3六歩 △4二角(下図)
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△4二角という駒組は以前からあったが、
理論的な戦術として確立したのは、
NHK杯の中田(功)対森内戦だったと記憶している。

上記手順はその対局に基づくもの。

上図は次に
△8六歩 ▲同 歩 △同 角 ▲8八飛 △8五歩
ともたれる狙いで、角交換になると振り飛車側がまとめにくくなる。

これを▲8八飛と受けると、今度は
△7五歩 ▲同 歩 △7二飛と動く筋が残る。
▲7八飛と戻るのも馬鹿馬鹿しいだろう。

よって▲6五歩と角の逃げ道を作る事になるのだが、
△7三桂と追撃するのが整然とした手順である。(下図)
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居飛車側から見ると、
理屈抜きで△7三桂と跳ねる雰囲気が良いのである。
▲6五歩型には△7三桂と覚えていても差し支えないほどだ。

これは▲6八飛と受けるよりないのだが、
居飛車側に斬新な打開策がある。

△3一金 ▲1五歩 △5三銀 ▲3七桂 △6四歩(下図)
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上図の△6四歩がありそうでなかった筋。

しかし、居飛車側から見れば、
将来の端攻めを緩くする意味で、
先手の角にアタックするのが急所だったのだ。

中田先生は上図から▲4五桂としたが、
△6五桂 ▲5三桂成 △同 角に、▲9五角と逃げざるを得なくなり、
後手玉への攻めが消滅してしまった。

この第一号局を受けて、
中田先生は対羽生戦で工夫を見せる。

初手から
▲7六歩 △3四歩 ▲6六歩 △8四歩 ▲7八飛 △8五歩
▲7七角 △6二銀 ▲6八銀 △4二玉 ▲4八玉 △3二玉
▲5六歩 △3三角 ▲5八金左 △2二玉 ▲3八銀 △1二香
▲3九玉 △1一玉 ▲4六歩 △2二銀 ▲3六歩 △5四歩
▲1六歩 △4二角 ▲5七銀 △7四歩 ▲6五歩 △7三桂
▲6八飛 △5三銀 ▲4五歩(下図)
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早目に4筋の位をとったのが工夫。
▲4五桂が厳しくないのは森内戦でわかったので、
△6四歩に備えた駒組をする狙いである。

上図以下
△3二金 ▲4七金 △5一金 ▲4六銀 △4一金 ▲3七桂
△3一金寄 ▲1五歩 △8六歩 ▲同 歩 △6四歩 ▲同 歩
△同 銀 ▲2五桂(下図)
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4筋の位をとった効果は、
△6五桂の当たりを、▲4六銀と形良くかわせる事。

本譜はそれでも△6五桂と指したが、
先手も端攻めの楽しみがあるので十分指せる。

こういう戦いになれば、
飛車の働きは居飛車の方が良くても、
角の働きが振り飛車の方が良いので、
十分対抗できるのである。


これで引き角の対策は出来た、と安心したところに、
驚愕の打開方法が見つかる。

発見者は渡辺竜王だ。

初手から
▲7六歩 △3四歩 ▲6六歩 △8四歩 ▲7八飛 △8五歩
▲7七角 △6二銀 ▲6八銀 △4二玉 ▲4八玉 △3二玉
▲5六歩 △3三角 ▲5八金左 △2二玉 ▲3八銀 △1二香
▲3九玉 △1一玉 ▲4六歩 △2二銀 ▲3六歩 △5四歩
▲1六歩 △4二角 ▲5七銀 △7四歩 ▲6五歩 △7三桂
▲6八飛 △5三銀 ▲4五歩 △3二金 ▲4七金 △5一金
▲3七桂 △4一金 ▲1五歩 △8六歩 ▲同 歩 △6四歩
▲同 歩 △同 銀(下図)
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△4一金の浮き駒をそのままに、
△6四歩と仕掛けたのが驚愕の打開策。

金が浮いている欠点よりも、
次の△6五桂が両取りになるメリットの方が大きい、という理屈だが、
なかなか気付かないコロンブスの卵だ。

この将棋の終盤は、
将来端攻めをされて△1三桂という形になった際に、
後手玉が3一まで逃げ込めるというメリットまで生じて竜王の勝ち。
強い人が指すと何でも上手く行くという例だろう。


これでまた窮地に立たされた中田先生だが、
新たな打開策を考え出す。

被害者は千葉女流だ。

初手から
▲7六歩 △3四歩 ▲6六歩 △8四歩 ▲7八飛 △8五歩
▲7七角 △6二銀 ▲4八玉 △4二玉 ▲6八銀 △3二玉
▲5六歩 △3三角 ▲5八金左 △2二玉 ▲3八銀 △1二香
▲3九玉 △1一玉 ▲4六歩 △2二銀 ▲3六歩 △5四歩
▲1六歩 △4二角 ▲5七銀 △7四歩 ▲6五歩 △7三桂
▲6八飛 △5三銀 ▲3七桂 △3二金 ▲1五歩 △5一金
▲2五桂(下図)
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殴られる前に殴ってしまえ、というわけで
▲2五桂が新工夫。

千葉女流は上図から△4一金と指したが、
▲1三桂成から猛攻を受け、
居飛車穴熊の堅さを活かせずに敗戦となった。

この筋は振り飛車側から見ても分かりやすく、
これで良ければ明快だったのだが、
またしても対策を打ち出されてしまう。

発案者は受けの達人、木村先生だ。

初手から
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲4八銀 △3二飛
▲2五歩 △3三角 ▲6八玉 △6二玉 ▲7八玉 △4二銀
▲7七角 △5二金左 ▲8八玉 △7二銀 ▲9八香 △7一玉
▲9九玉 △5四歩 ▲8八銀 △6四歩 ▲5六歩 △9四歩
▲6八角 △5三銀 ▲3六歩 △7四歩 ▲5九金右 △9五歩
▲7八金 △7三桂 ▲6九金 △4五歩 ▲3七桂 △4二飛
▲5七銀 △8五桂 ▲6六歩(下図)
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▲6六歩と角筋を止めたのが木村新手。

5七の銀が苦しくなるので見えにくい意味もあるのだが、
とにかく▲8六歩から桂を取り切ってしまえば良い、という手だ。

本譜は、上図以下△5五歩と指したが、
▲2四歩 △同 歩 ▲8六歩 △9七桂成 ▲同 銀 △9六歩
▲8八銀 △9七歩成 ▲同 香 △9六歩 ▲同 香 △同 香
▲9七歩 △5四香 ▲5五歩 △同 角 ▲4八銀
と進んで、先手が指しやすくなった。

この対木村戦に関しては、
後手番である事が祟って△6三金の一手が入っていないため、
玉頭戦に弱くなっているのも大きかった。

・・・ちなみに、この対木村戦は、
前例の千葉女流戦よりも先に指されている。

千葉女流が何故この▲6六歩(△4四歩)を指さなかったのかは、
NHK杯をTVで見る習慣の無い私にはサッパリわからない。
感想戦で何か言ってたのかな?情報求む(笑)


こういった居飛車の方針が固まった事によって、
アマ間では、コーヤン流はだんだん下火になっていったのだが、
抵抗の余地が無いかというと、そういうわけでもない。

工夫第1弾としては、
対木村戦の▲6六歩に対して△6五歩と反発する筋だ(下図)。
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次に△6六歩と取りこまれてはいけないので、
▲同 歩と取るよりないと思うが、
△3五歩・△7五歩・端攻めの3点セットで攻める事が出来るので、
先手が受けきるのも結構面倒である。

また、桂を跳ねる前に△5五歩を入れたのが、対石川戦。(下図)
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石川先生は▲2四歩 △同 歩 ▲5五歩と手筋で応じたが、以下
△同 角 ▲2七飛 △9六歩 ▲同 歩 △9七歩 ▲同 香
△8五桂 ▲6六銀 △3三角 ▲7九金寄 △6三金 ▲3五歩
△6五歩 ▲7七銀引 △5七歩 ▲3四歩 △4四角 ▲2八飛
△9七桂成 ▲同 桂 △9六香 ▲9八歩 △9一香 ▲8九桂
△6二銀 ▲8六銀 △5八歩成 ▲同 飛 △3六歩 ▲4五桂
△8八角成 ▲同金寄 △4五飛(下図)
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少々長い手順になったが、
これぞ中田ワールドという捌きなので、是非ご堪能あれ。


また、桂跳ねの筋以外にも打開策を打ち出している。

初手から
▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △4四歩 ▲4八銀 △3二飛
▲2五歩 △3三角 ▲6八玉 △6二玉 ▲7八玉 △4二銀
▲7七角 △5二金左 ▲8八玉 △7二銀 ▲9八香 △7一玉
▲9九玉 △6四歩 ▲8八銀 △7四歩 ▲5六歩 △5四歩
▲7八金 △5三銀 ▲3六歩 △6三金 ▲6八角 △5一角(下図)
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引き角に対し、△5一角で応じたのが対飯島戦(順位戦)

△7三桂を保留してあるのが工夫で、
角の転換を含みにしているのだ。

これも以下の捌きが素晴らしい。

上図以下
▲5九金 △6五歩 ▲6九金 △6四銀 ▲7九金寄 △5五歩
▲同 歩 △5二飛 ▲2四歩 △同 歩 ▲4六角 △5六歩
▲5四歩 △同 飛 ▲2四角 △3三桂 ▲5八歩 △8二玉
▲3七桂 △9四歩 ▲2二歩 △5三飛 ▲2一歩成 △8四角
▲1一と △2七歩(下図)
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△5三飛△8四角が軽やかな駒運び。
何でこの人が指すと、こんなに捌けてしまうんですかね(笑)

上図以下、▲同 飛とは取れないので▲3八飛と指しましたが、
△4五桂とぶつけて中田先生快勝。いやー、強い。

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コーヤン流 対 居飛車穴熊 引き角型
いかがだったでしょうか。

先後を混ぜて書いたのは本来荒っぽいんですが、
狙い筋は共通かと思うので、目をつぶって下さい(苦笑)

中田先生がNHK杯で何度も負けた事や、
「最新戦法の謎」で引き角が取り上げられた事で、
「居飛車穴熊+引き角で良し」という固定概念もあるのですが、
実際には、関連本出版後の中田先生の工夫が面白い分野です。

コーヤンファンならば、
一手一手に敏感になって棋譜を並べてはいかがでしょう。
細やかな工夫が楽しめますよ。

もっとも、最近中田先生が目立った活躍をしていないので(失礼!)、
トッププロのコーヤン流対策が見れないのも確か。
中田先生自身もゴキゲン中飛車を多用している事もあり、
真実は未だ表面に出ていないのかもしれません。

少なくとも、アマチュアなら楽しく指せる気がするんですが・・・

参考文献:
最新戦法の話
コーヤン流三間飛車(実戦編)
コーヤン流三間飛車の極意(持久戦編)

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